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22 ・ゴリン一天異界録+女帝 戦⑤

 日雇い侍は炎の檻の中に閉じ込められていた。

ただ、閉じ込められていただけであれば簡単だったのかもしれない。

しかし、今回は敵と共にである。炎の壁という檻の中での的との殺し合い。

───妖狐。

この国の女帝の正体であり町一つを焼失させることができるくらいの化物だ。

その妖狐という敵を殺すために同じ檻に入れられていた。


「はぁ…………はぁ……」


日雇い侍も所詮はただの人間である。たった1人で化物に敵うほどの実力が備わっているわけではなかったのである。

それでも日雇い侍は炎の壁の中で闘っていた。闘ってみた。

だが、8人いる妖狐の分身である女帝のうち2人の首を落とした頃に、日雇い侍は膝をついたのだ。


「……あと6人+1。まだまだ修行が足りなかったか」


そうは言っても日雇い侍の体はすでに傷だらけ。頭や腕からは傷によって流血が止まらず、腕ももう動かせないほどに体力を消耗させているのである。


「ハハハッ。そう嘆くでないぞ日雇い侍。妾の本気が格上だっただけじゃ。

ただし、妾には楽しかった」


妖狐は日雇い侍を見ながら、笑う。

しかし、それは日雇い侍の憐れな姿を嘲笑うためではなく、純粋に楽しかったという感謝の笑いなのだろう。

実際、妖狐は日雇い侍の名前を覚えている。名前を覚えてあげているくらいには日雇い侍の実力を認めているのだ。


「そこでなのじゃが。妾の側に仕える気はないか?

これからもお前と殺し合いたい。これは妾の純粋な気持ちじゃ。従えるのではなく殺し合う相手として飼いたい。

妾の生きる楽しみとなってはくれぬだろうか?」


妖狐からの誘い。

今、ここで妖狐からの誘いを受ければ日雇い侍はトドメを刺されないだろう。

妖狐からの誘いを受ければこれからも妖狐と殺し合える。

妖狐が殺されるか死ぬまで妖狐と殺し合いができる。

日雇い侍の命はこの場では助かるのだ……。


「悪いけど。冗談じゃないわ」


しかし、妖狐の誘いを日雇い侍は微笑しながら瞬時に断る。


「あたしとしても強い奴との殺試合は好きよ。あなたとならとても楽しい殺試合ができそう。

でもね、あたしは1つの場所に留まらない流浪人。

依頼とも金の切れ目が縁の切れ目なの。

一生あなたが相手だとかつまんない」


「そうか……貴様の名と『ゴリン流剣術』。妾の記憶にしかと刻んだぞ」


妖狐は動けない日雇い侍に向かって口を大きく開く。

これは高火力熱線の構えだ。

東の町を焼失させるほどのエネルギーの熱線。

それを直接、日雇い侍にぶつけるつもりなのだ。

その熱線を浴びてしまえば、彼女は灰すら遺さないだろう。


「…………チェッ」


日雇い侍は立ち上がろうとする。まだ、彼女は妖狐に負けるわけにはいかなかったのだ。

けれど、体が着いてこない。日雇い侍の体は逃げたり避けたりする気力もない。

あるとすれば、あと一撃。あと一撃分の刀を振るう力が残されているだけである。

しかし、あと一撃では妖狐に届かない。

足りない。何もかもが足りていない。

実力が足りていない。体力が足りていない。戦力が足りていない。


「それでも……」


それでもあと一撃分の力は残っている。

妖狐に完全敗北したわけではない。

まだ一撃を叩き込む体力だけはある。

だから、彼女は妖狐から目を背けない。


「あたしは終われない!!」


「『ッ───!!!』」


日雇い侍が完全に立ち上がるのと、妖狐が口から高火力の熱線を吐き出すのが同時だったかはわからない。

ただ一瞬、炎の檻の中がまるで太陽のように白く光を放ったのは日雇い侍にも理解することができた。

そこから先は闇である。彼女の諦めない意思はここで一段落ついたのである。








 だから、終わらなかった。

シュッン──────!!!!!

炎の中を切り進むように斬撃が進む。それは妖狐の物でも日雇い侍の物でもない。それは外から放たれた。


「…………さて、道は開かれたぞ」


人が簡単に焼け消えるほどの熱量を持った巨大な炎の檻、そして町一つを焼き消すほどの熱線。

『マルファス・ラ・ドラグ』の一太刀がそれらを斬り払ったのである。

完全に一時的に隙を作ったのだ。


「今だぞ。エリゴルくん、妹メイド」


そう言ってマルファスは準備万端の2人に視線を送る。

その視線の先には僕たちがいた。

鎖でがんじがらめにされた僕とそれを操る妹メイドさん。


「それではエリゴル様!! サポートは任せました!!」


妹メイドさんの鎖を操る能力で僕をおもいっきり投げ飛ばした。

その勢いのまま僕は宙をまっすぐに飛ぶ。

まるでダーツの矢のように、まっすぐに妖狐に向かって飛んでいく。

その時間は1秒にも満たないくらいの走行時間だ。


「(あの夜の町をマルバスに担がれて駆けたんだ。そのときの恐怖に比べたらこんなの屁でもない!!)」


そして炎が弱まった隙を見て、僕は妖狐と対面する。

空中を落ちながら、僕と妖狐との目が合う。


「しまった分身が追い付かぬ!!」


妖狐は分身を自身の護衛と戦力として利用していたが、この僕と妖狐との間合いではもう間に合わない。

妖狐が熱線を僕に浴びせる時間すらない。


「終わりはお前に任せたぜ。日雇い侍!!」


僕は残された日雇い侍にそう言い残しながら、妖狐の体に着陸し、青い短刀の刃を妖狐の体に突き刺す。


「ギャアアアアア!?!?」


妖狐の悲痛な叫び声により、彼女の意識は痛覚に集中する。

炎を操る意識が消失することで分身も炎の壁も夢のように消え失せる。

だが、それで終わる妖狐ではない。

そして、その痛みを与えた原因である僕を即座に突き飛ばした。

さすがの僕もその攻撃は未来予知すらできていない。

故にそのまま弾き飛ばされて床に落ちる。

正直、受け身ができなかったのでめちゃくちゃ痛い。

だが、これでいい。

これで日雇い侍に全てを任せることができた。




 マルバスが弱点を理解し。

日雇い侍が交戦し。

マルファスが道を作り。

妹メイドさんが移動手段を与えて。

僕が妖狐の隙を作る。

考えてみると、それは僕らだけの功績ではないかもしれない。

けれど、それでいい。美味しい所は日雇い侍にくれてやる。


「ありがとう。あたし助かったわ!!」


日雇い侍は刀を構える。最後の一撃。今、出せる全力を妖狐にぶつけるために立ち上がる。

対する妖狐は頭から血を流しながら、日雇い侍を睨み付ける。


「焼き殺してくれるわ!! 欲望の犬めが!!

この女帝である妾に。闇星の幹部である妾に。後悔の念を抱く暇もなく焼き殺してやる!!!」


妖狐は再び口の中から発射する熱線で日雇い侍を焼き殺すために狙いを定めた。

ここで全てを終わらせる気なのだろう。

だが、それは 日雇い侍も同じこと。


「死ね『────!!』」


「我道世界超越。鬼神仏到地。我一撃花如。ゆくぞ天へ!!『ゴリン一天異界録』」


ゴリン流剣術。

5とは五行、五大、五臓、五腑、五感、五方などあらゆる言葉についてくる。

もちろん五体にもその文字はつくものだ。

この剣術は一撃で5つの部位を攻撃することを目的とした剣術。

そして、ゴリン一天異界録という技はこの大陸では日雇い侍にしか使えない。ゴリン流剣術の奥義の1つである。つまり、必殺技だった。


「ガハッ………………!?!?」


その必殺技を受けた妖狐は白目を向いて敗北の運命へと至る。そしてそのままお城の壁を突き破り、城外へと斬り飛ばされた。


「…………妖狐敗れたり!!」


こうして、アンビディオ女帝……妖狐は数々の努力を費やして、ついに討伐されたのであった。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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