19 ②・合流と変貌+女帝 戦②
日雇い侍の入浴がようやく終わり、僕と妹メイドさんと日雇い侍はマルバスのもとを目指す。
外で2人を待たされている時はマルバスへの心配と大浴場を覗きたい感情に揉まれながら、必死に理性を保っていたので、僕としては闘い疲れたのだが、こっちが本番。
そういえば、いつの間にか僕の青い短刀が無くなっているし……。十二死の申の時までは手元にあったのに……。
まぁ、そんなこんなで僕としては色々と悩みがありながらも、今ではマルバスのもとに急いで駆けつけるために走る。
「日雇い侍さん!!
本当に女帝の部屋はこっちなんですか?」
「知らない!! 適当よ!! なんとかなるって!!」
「「(こいつ……殴りたい)」」
などと妹メイドさんと結託もしかけたが、激しい爆発音が聴こえてきた方向を目指す。
このお城は本当に内部が広くて、聴こえてきた方向を目指すにしても大変なのだ。
それでも、なんとか女帝の部屋を見つけた僕たちは部屋へと飛び込む。
「マルバス!!」
部屋に入り、真っ先に目飛び込んできたのは所々ボロボロになっている部屋だった。
きっと激しい戦闘が繰り広げられたのであろう。
その中にマルバスはいた。怪我は多少しているが生きてはいる。
「エリゴル!?」
僕はすぐにでも再会を祝ってマルバス飛び付きたかったけれど、それを視界が邪魔する。
そしてもう一人。血を流しながら、苦しそうに笑い声をあげていた。
「フハハハハハハハッ…………ハッハッハガッガガッ!!!!」
血を流しているだけで綺麗な美人さんである。おそらく彼女がこの国の女帝なのだろう。国民が愛して愛されていたアンビディオの女帝。
こんな展開で出会ってしまったのを僕は後悔してしまいそうだ。
だが、高笑いしていた女帝の体はすぐに豹変し始める。
内部から殻を破られていくように美しい女帝の体から何かが出てこようとしていたのだ。
なにか嫌な予感がプンプンしてくる。
「妹メイドさん!! マルバスを離れさせて!!」
「かしこまりました」
ひとまず、一人では動けないくらい体力を消耗させたマルバスの体を妹メイドさんは鎖の能力で縛り上げて避難させる。
女帝の体は高笑いをあげながら小刻みに動いている。
痙攣を起こしているというよりは、まるで中身が袋を破りだそうとしているという表現の方が近いかもしれない。
まるでセミの羽化だ。
ズボンを脱ぐように人だった女帝の体は床にボロボロと落ちていき、代わりに中身が出てこようとする。
女帝の体と中身の大きさがまったく釣り合っていない理由を観測者である僕たちが知るわけもない。
理由はわからないけれど、結果なら僕にも伝えられる。
羽化する最中の様子は正直グロかった。ホラー映画でも見せられているのか思ってしまうくらい。いやホラー映画でもそんなことしないだろうと思うくらいのグロさだった。
だが、そんなグロいシーンは終わる。
───その中身は妖狐だった。
もともと部屋自体が大きかったがそれでも部屋の天井にギリギリ頭がつくかくらいの大きさで、馬車を飲み込めるくらいの大きな口。そして人間くらいの瞳。
それは人間だった頃に比べておぞましい化物であったが僕はその狐を美しいと思ってしまったのだ。
完全に人間だった見た目ではなくなった女帝は僕らを見下しながら口を開く。
「見せたくはなかったがな。この姿は妾にとっては正体でもあり醜態でもある。
この身では人を治めることができぬからの。
だがまぁ、狩りをするならこその姿じゃろ?」
確かにこの大きさならば、僕らを簡単に噛み殺したり踏み潰したりすることができそうだ。
正直、こんな巨大な妖狐に勝てる手段が思い付かない。
いつもなら、青い短刀を持って玉砕覚悟で突っ込んでいく考えない僕でも武器がない状態では何もできない。
どこかに落としてしまった僕の青い短刀。
それがない状況ではもともと戦力外の僕でもさらに戦力外になる。
最大の敵は無知な味方ではなく無能な味方になっちゃう。
僕が足を引っ張ってそのせいで全滅とか冗談じゃない。
何もできないから何もしない。
……と僕はこの場では完全に空気になっていたのに。
「それを言うならこちらもよ。狩りをする獣を狩る。
人間舐めるな!!
そうよね? エリゴルくん?」
勝手に日雇い侍に名前を使われてしまった。
「貴様らこそ獣を舐めるなよ。エリゴルだぁ?
耳にしたこともない弱者が強者に逆らうな。この人間風情が!!」
しかも妖狐からは煽りの首謀者にされてしまっている。
これはもう抗議だ。抗議案件だ。
「日雇い侍??
何してくれちゃってるのさ。あんなの無理だって。勝てないよ」
「何言ってるの?
女帝が妖狐に変身したって事は、変身せざるを得ない状況になったってことじゃない。
マルバス?って人に痛め付けられてピンチな状況で変貌したのよ!!
弱ってるから勝てるかもでしょ?」
確かに日雇い侍の意見も一理あるけど。
そもそも彼女は僕が初めから戦力外の存在であるということを知らない。
彼女は僕が武器を持っていることすらも知らないのだろう。
「無理だって。今回は十二死相手にも闘ってきた武器がないんだよ。それにマルバスが相手でも勝てなかった女帝だよ。
僕だけじゃ勝てないって!!」
マルバスにも勝てない相手に勝てるわけがない。そう思って僕が発した軽い発言がどうやら女帝の逆鱗に触れたらしかった。
「十二死相手にも……?
なるほど、貴様が。貴様かエリゴル。
殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!
よくも十二死の申を!!!!!」
大失敗だ。僕の名前を女帝に覚えられてしまっている。




