18 ②・炎の肉体+女帝 戦①
全身を火柱で炙られながら、マルバスは隙をついて女帝の肉体に武器を突き刺す。
チェンソーと刀を合成して作成した武器だ。
それを心臓付近に突き刺したのだ。
「うそ……!?」
しかし驚いたのはマルバスの方である。
あれだけ捨て身の作戦で女帝の体を突き刺したのに手応えがないのだ。
いや、それどころか。女帝の体がおかしく見える。
まるで女帝の体すら炎のような……。
「やれやれ。そのまま燃やされ続ければ楽だったのにな。妾には勝てぬことを実感できずに済んだのに……」
「これは炎……?
いや、なんだあんた。不死身人間なのか?」
マルバスは手応えがないことが分かると、そのまま刀を女帝の体から抜き取り、再び距離をとる。
「ああ、服がボロボロに……。あんな策戦たてるんじゃなかったわ」
そして床に膝をつく。さすがのマルバス火柱を全身に受けすぎて身体中が痛いのだ。
一方、女帝は床に膝をついているマルバスを見下しながら話し始める。
「不死身人間?
ハハハッ、そのような生物と同じにするな。心臓という弱点のある人間とは違う。妾に弱点はない。
殺るなら首を取ればよいのだ」
そう言って自身の首をクッと指で線引く。
マルバスはその挑発を受けて、少し微笑すると再び痛む全身を奮い立たせながら立ち上がろうとする。
「そうかよ。じゃあそうさせて貰おうかな」
生身の人間との闘いとは違う。マルバスにとってはなかなかお目にかかれない相手である付喪人。
油断などできない。どちらかが戦闘不能になるまで止まらない。
「無理をするな。生身の人間では無理な攻撃も、付喪人であるが故にこれまでの攻撃には耐えてこれたのだろう?
だが、妾はまだまだ余裕じゃぞ。もう諦めて全身を火にくべられるべきじゃ」
「あいにく。オレは昔から諦めの悪い女でな。その提案には乗れないんだわ。
それに国主となる候補者がこんな所で終われるわけがないのさ!!」
再び、立ち上がるマルバス。
彼女は武器を握りしめて、女帝の首を狙うために走り始めた。
再び戦闘開始。
「それならば妾を楽しませるがいい!!」
女帝はそう言いながら、マルバスの足下から火柱を発射させる。
マルバスはその火柱を全速力で避けながら、途中で拾った短刀と拳銃の合成武器を再び手に取り、女帝めがけて発砲。
弾は先程と変わらず、女帝の体を通り越して壁に突き刺さる。
だが、今度はマルバスも驚かない。無駄だとわかっていても撃ち続けた。
「無駄じゃ無駄じゃ無駄じゃ!!」
女帝はまるで指揮者でも行うように次々と火柱を発生し続ける。
マルバスはそれを避けつつ、女帝の体に刀を振るう。
だが、振るった刃は火の中を通すように手応えがない。
それでも、マルバスは時に後退し時に攻め込み、火柱を避けながら女帝に斬りかかっていく。
女帝はマルバスに火柱を当てられず、マルバスは女帝に刃で斬りかかれない。
その攻防が何度か続く。
「あの老人といい、金行といい、どうしてこうも素早いのかの。ならば!!」
こうして何度目かの火柱が発生した後、女帝は攻撃方法を変えてみることにしたようだ。
なんと、一度に3本の火柱がマルバスに襲いかかったのだ。マルバスを囲うように火柱が発生する。
今回もマルバスの目と鼻先。さらに追い討ちかのように巨大な火球がマルバスに向かって発射された。
このままでは逃げ場がない。今度はあの大きな火球を直撃でくらってしまう。
「『Mixer arms』」
しかし、マルバスの技の宣言のみが聞こえてきて、マルバスの姿は火球の爆発に飲み込まれてしまった。
爆発後、女帝の前からマルバスの姿が消える。
燃えて灰すら残さなかったのだろう。それとも爆発に巻き込まれて肉体が飛び散ったか。
いずれにしても、この部屋からマルバスは消えた。女帝によって消されてしまったのだ。
「あれほどの事を口にしておいてこのザマとはな。憐れじゃ……」
所詮口だけ。どんなに想いがあろうとも女帝とマルバスとの実力差は変わらない。
「こうも長生きすると敵がおらんのがつらいのじゃ。
闇星に入ればもっとたくさんの敵が増えてもっとたくさんの強い敵と戦えると思うていた頃が懐かしいわ。
今となっては誰もおらぬ。来るのは弱々しい暗殺者どもばかり」
女帝はつまらなさそうにあくびをしながら、頬を掻いている。
「ん……!?」
だが、女帝がふと偶然真上を見上げた事で状況は一転する。
部屋の天井には人1人が通れるくらいの穴が開いていた。
マルバスが突入する際に空けておいた穴だ。勢いよく上から突き破り、驚いている隙にでも暗殺するつもりだったのだろう。
その穴が空いていた。
そして、穴には武器がぶら下がっている。
それはワイヤーと拳銃を掛け合わせた合成武器。
「まさ……!?」
女帝は勘づいた。
だが、勘づくのが遅すぎたといってもいい。
女帝が周囲を見渡そうとした瞬間に、外から発射されたのは大砲の弾。
女帝の部屋の障子を突き破り、女帝の体にぶち当たり、砲弾は爆発。
「!?!?!?」
女帝の体はかき消されそうな火のように揺らめいていた。
さすがに首だけが宙には浮いているが、全身を戻すには数秒の時間が必要だった。
女帝は恨みを込めて外にいるであろうマルバスを睨み付ける。
「貴様ッ………!!」
外にある庭に大砲を設置し、女帝にぶっぱなしたマルバスは恨めしそうな表情を向ける女帝を見て笑う。
「さて、せめて一撃くらいはオレが与えてやらないとな!!」
そんなマルバスの手には新しく、青い短刀が握られていた……。




