18 ①・マルバス+女帝 戦①
本来ならば。
マルファスの脱走を手助けし妹メイドたちが囮となって城内で暴れる。
女帝や兵士たちが妹メイドたちに注意を向けている隙にマルバスが女帝を背後から暗殺する。
そういう作戦だった。
「脱走だ!!」
「囚人たち全員が脱走したぞーー」
聴こえてくるのは兵士の声。
女帝の部屋の天井上に忍び込んだマルバスは女帝が自身の部屋に帰宅した瞬間を狙っていた。
そして、騒ぎが起こったのを合図にマルバスは女帝の部屋に忍び込む。
「(いないッ!?)」
最初は女帝が自身の部屋にいないことに驚きそうになったが、瞬間的に外出してしまったと把握。
すぐにこの部屋から脱出し、女帝の姿を捜すか諦めて逃げるかの二択。
だが、その二択を迷おうとしていた瞬間に、運命の悪戯か。
「ほぉ」
女帝の部屋の襖が開き、中に人が入ってきたのだ。
十二死の死を聞かされて急いで帰宅したこの部屋の主人と鉢合わせになってしまった。
つまり、女帝とマルバスの対面である。これはもう戦闘は避けられない。
「やれやれ、オレってとことんついてねぇなこりゃ。占いでも見りゃよかったぜ」
「まず1人目か。自室で妾が怒りの火種を見つけるとは妾も運が良いのぉ。
それで? 貴様が十二死の申を殺ったのか?」
モルカナ国国主候補の女武者とアンビディオ国の絶対的君臨者である女帝。
その闘いが今始まる!!
「『Mixer arms』」
マルバスは両手に短刀と拳銃を握り、技を宣言する。
すると、マルバスの両手にあった武器が一瞬消えて、それらが1つに合わさった。
武器の合成。ミキサーの付喪人。それがマルバスの戦闘方法なのである。
マルバスは武器を握りしめて、女帝に狙いを定めて発砲。
銃弾の代わりに短刀が女帝めがけて発射される。
しかし、女帝はその放たれた弾から逃げようとはしない。
「……避けないと刺さるよ?」
「フハハハハ、妾が避けるだと?」
女帝はマルバスからの忠告を鼻で笑うとそのまま弾を受けきった。
弾と化した短刀は女帝の体に突き刺さる。
「……!?」
だが、マルバスは見た。女帝の体に突き刺さるはずの短刀が女帝を通り越して反対側の壁に突き刺さったのだ。
「うそっ。マジか……」
マルバスは自分の目を疑いたくなりながらも、もう一度立ち位置を変えて発砲。
しかし、それも先程と同じ結果になってしまっていた。
「これは一筋縄じゃ勝てないわ。暗殺って無理な話だったのかもね」
「どうした? そんなものでは妾を殺せぬぞ。
もっと攻めてくるがいい。すぐに自信をへし折ってやろう」
「それじゃあ~お言葉に甘えさせて貰おうかな?」
マルバスは女帝からの挑発に乗り気になって軽く背伸びを行うと、すぐに女帝に狙いを定めた。
女帝の頭を狙い発砲。それも今までと同じく女帝の体に突き刺さることなく通り越していく。
「チッ、飛び道具はダメか!!」
3度目の正直でも無駄だったのでマルバスは武器を捨てて、新たに2つの武器を握りしめて合成。
今度は刀とチェンソー。
マルバスは新しくできた武器を片手に女帝の間合いへと向かう。
しかし、女帝は向かってくるマルバスに対して呆れたような表情を見せる。
「遠距離がダメなら近距離……つまらんのぉ」
女帝は前に片手を伸ばし、指をピッと動かした。
すると、マルバスの目と鼻の先に火柱が発生する。
部屋の床から一気に仕掛けもなく炎が柱となって発生したのである。
「ギッ!?」
マルバスは本当にギリギリで火傷もなく、避けることに成功。
避けた先でマルバスはこの現象を理解する動作もなく、そのまま突き進む。
「遠距離と近距離ね。面白い!!
オレの相手にふさわしいよあんた!!」
「その威勢がいつまで持つかの」
女帝は避けきったマルバスにさらに追い討ちをかけるように火柱を何本も発生させるが。
マルバスはそれを何度も何度も避けきる。
その度にマルバスと女帝との距離が離れていく。
こうしてマルバスは一撃も決定打を当てられないまま、スターと地点よりもさらに遠くへ。
部屋の出入り口の側にまでやって来てしまう。
「熱ッ。距離も離れていくし、火傷覚悟で行くか?」
「すばしっこい猿が逃げ足だけはまともじゃな」
そう言って女帝は今度は大きな火球を指の上に発生させてそれをマルバスに向かって投げつける。
「火事にでもする気!?
だけど、これならさっきよりも避けやす」
一直線に向かってくる火球をマルバスは簡単に避けようとする。
向かってくる方向が目に見えて分かるのでマルバスには簡単に避けられる物だったのだが。
「侮ったな。マヌケめ」
しかし、火球は突如空中で爆発。
その爆発はさすがのマルバスも避けることができずに直撃してしまう。
「!?!?!?」
爆風で吹き飛ばされて床を転がるマルバス。あの威力はさすがのマルバスでもダメージを受けてしまった。
そして、爆発は部屋中のあらゆるものに引火。メラメラと物が燃え始めていたのだが。
女帝が指を動かすと、引火していた炎はすべて消火された。
「…………火を操るのね。またまた……厄介な」
「そりゃそうじゃろ」
次の瞬間、立ち上がろうとしていたマルバスの床から火柱が……。
「グッ!?!?」
マルバスは少し炙られた程度の火傷ではあったがなんとか避ける。
しかし、その避けた地点にも火柱が……。
「グッ!?!?」
「フハハハハ。無駄じゃ無駄じゃ。妾は炎を自由自在に操る【ライターの付喪人】。ほれほれ踊れ。妾の掌じゃ!!」
まるで火柱の地雷原。
マルバスは火柱を避けようと、全力でその場から離れようとするが、一度足を止めるとすぐに火柱が全身を襲ってくる。
「…………グッ!?!?」
「叫ばぬか?」
「…………ガッ!?!?」
まるで火柱が永遠とマルバスの体から噴き出すように、終わらない。
女帝は苦しみながら逃げようとするマルバスの姿を娯楽でも見るように楽しんでいる。
「貴様は殺そう。今回ばかりは申が殺された怨みじゃ!! 敵はみんな殺してしまおうぞ。
フハハハハ!!」
女帝は笑いながら、何度も何度も火柱をマルバスに放つ。一瞬の火柱が大量に立てられる。
勝利を確信した高笑いと、火柱が燃える音。
「フハハハハ!!
ハッ!?」
だが、マルバスは諦めていなかった。
「…………まだまだ終わらせねぇさ」
マルバスはわざと火柱から逃げるフリをして女帝に近づいていたのだ。
火柱に注意を向けさせて中にいるマルバスを隠すという方法。
木を隠すには森の中という風に、人を隠すなら火の中という作戦。
その作戦は成功し、今マルバスの武器が直接女帝の体を突き刺したのだ。




