10②・十二死+城内移動
ズボッと壁の中にまで腕が入ってしまった。
僕も妹メイドさんもその現象にはさすがに驚いてしまう。
僕が慌てて腕を引っこ抜くと、簡単に壁から腕は引き抜けた。
「壁の中に手が入りましたね……?」
「ですが、私が触っても壁は壁。これは不思議です」
妹メイドさんはすぐさま僕が腕を引っこ抜いた場所を触るが、ただの壁になっている。
「やはり、女帝は何かを隠していると見て問題はないでしょうね。お手柄ですエリゴル様」
その何かと言うのは邪気の匂いから考えて十二死なのだが、それを口にすると妹メイドさんが怖がりそうなので言わない。
妹メイドさんが不思議そうに壁をペチペチと叩く中、僕は再びその壁に入り込んでみる。
「エリゴル様!?」
「進むのは怖いから。ちょっと顔を入れてみるだけです」
勇気を出して壁に向かって頭を突っ込んでみる。
僕の頭は壁に取り込まれることなく、貫通した。
目の前に広がっているのは真っ暗闇。
けれど、道が作られているようだ。
「やっぱり道があります。ちょっと行けそうです」
頭を突っ込んだ勢いで足を入れてみる。
体を少しずつ入れてみると、怪我もなく侵入することができた。
毒ガスが充満しているわけでもない。普通の安全そうな道だという風に感じた。
「ふぅ……。妹メイドさんは入れそうですか?」
僕は振り返って後ろの壁に語りかける。
しかし、声はない。壁があるにしても、声くらいは聞こえてきそうなのだけれど。
何も帰ってこない。
シーンと静まり返っていて、僕の声だけが木霊している。
その頃、妹メイドさんは突然壁の中へと消えた僕の姿を不思議に思いながらも壁の調査をしていた。
「エリゴル様だけが入れる壁。何故彼だけが入れるの?
この壁にだけ何かの細工がされていて、許可された者だけが通行を許させるとか?
いや、でも……女帝が入る場所なのになんでエリゴル様だけが?
何か彼らに“共通点”でもあるの?
いや、でも、まさか……そんなはずは……」
妹メイドさんが推理を始めようとした時に、僕は壁の中に手を入れて向こう側へと出していた。
「これはエリゴル様の手?」
妹メイドさんは突然現れた僕の手に困惑しながらも、その手を握る。
そして、その手に引き寄せられながら、妹メイドさんも壁の中へと足を踏み入れてみるのであった。
結果は大成功。
先ほどまで妹メイドさんにとってはただの壁であった物が道となる。
妹メイドさんも僕と同じように、壁の中へと入ってこれたのである。
「よかった。無事に来れたようだね妹メイドさん。妹メイドさん?」
「…………ッ……!?」
暗くてよく見えないが妹メイドさんは側にしゃがみこんで背を向けて丸くなっている。
ただ事ではない様子だ。
壁に入るときに何か異変でもあったのか?
やっぱり、妹メイドさんを壁の中へと連れてくるのはいけない事だったのか?
「妹メイドさん!?
大丈夫ですか!?」
「…………ッ…………ええ大丈夫です。もう大丈夫です。先に行って……みますか?
ここまで来たら女帝にとっての秘密が何かあるはずです」
「本当に?」
妹メイドさんは大丈夫だと言ってくれているけれど、正直彼女の体調が不安だ。
しかし、妹メイドさんは勢いをつけて立ち上がる。
そして、そのまま道の上を歩き始めた。
「大丈夫だと言っているでしょう。いいから進みますよ」
その言葉を信じて僕も彼女の後を追う。
こうして、僕が妹メイドさんの後ろに着いていくような形にはなったが、僕たちは道を進んでいくのであった。
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ドッドッドッドッドドドド……ドン!!
暗い一本道の通路を次々とろうそくの光が燃えて照らしていく。
まるでその先の道を作るようにして、道が切り開かれていく。
その終着地点はまるで神社のお社のよう。
手前には鈴があり、賽銭箱があり、一番奥には扉が1つ。
その扉はバッと勢いよく開かれて、中から生き物がヨッコラセっと重い腰を上げて出てくる。
その生き物は獣。
大きさは人間よりも少しだけでかいので顔も腕も大きい。全身が白い毛むくじゃら。
モフモフしてそうな丸い毛むくじゃらの生き物。
そして目の周りは赤い模様で4つの瞳が付いている。
その姿はまるで猿のようである。
「やぁやぁ遠路はるばるよく来たな。人間さん。ヒヒヒ。
今日は人間の雄と雌の2人か。また珍しい者が来たのだね。
エテコウは『十二死の申』。
申とでも呼んでくれ。さてさてエテコウに何を聞きたいのかね?
何でもお望み通り答えよう」
その怪物こそが十二死の申であった。




