7 ・★+水行の青年
目の前に突然現れて十二死の話題について仲間に入りたいと言ってきた青年『フォカロル・ハーデス』は犯罪組織【闇星】の幹部が1人水行の使者であった。
「お前が……闇星。『シャックス・ウルペース』の仲間って奴か」
僕は最初からこの青年の事をタダ者ではないと考えていたが、それがまさか犯罪組織の幹部だったとは予想もしていなかった。
最悪だ。最悪の出会い方だ。
この場から急いで逃げ去って、マルバスに助けを求める?
この場で水行の使者と闘う?
選ぶべき選択肢が2つしかないが、どちらも危険は伴う。
「(くそっ……どうする)」
次の行動を考え込む。
すると、フォカロルはため息をつきながら、呆れた様子で僕に話しかけてきた。
「ねぇ~君ってさ。バカなの?
常識ってのを知らないのかい?」
「……??」
「ぼくが最初にきちんとちゃんと真面目に自己紹介を行ったんだ。
それなら、君も第一声に自分の名前くらい言うべきだよね?
でも、君は『シャックス・ウルペース』の名前を最初に出した。
君がシャックス・ウルペースという名前ではない事くらいぼくだって分かるさ。君がぼくの名前を知らない事も態度で分かってた。
ならねぇ、君は名前を言わないのかい?」
確かにフォカロルの言う通りかもしれない。
自己紹介をされたら自己紹介で返すのも礼儀である。
フォカロルに指摘されてこうして気づくのは少し恥ずかしい気持ちにもなった。
だが!!
「悪いけど。僕の名前を教えたら僕へのメリットになるかい?
君に名前を知られたら君が僕の事を暗殺しに来るかもしれないじゃないか。敵に正体を教えるなんてできるわけがないだろ?」
だが、目の前の犯罪組織の幹部に自分の自己紹介をすらすらと行うというのも危機管理が無さすぎる。
目の前の青年は敵なのだ。
マルバスの母親を暗殺した組織の敵。
敵とお近づきになるなんて冗談じゃない。
そう考えて、僕は自身の自己紹介の機会を断ったのだが。
やはり、フォカロルを不愉快にさせたようで、彼は舌打ちを1回行っていた。
「…………チッ(イラッ)
そうかい。君はそういう奴か。ヒドイやつだ。反吐が出る。死ねばいいのに。最低だね。
君もそうやってぼくを嫌うのだね。
加害者……ぼくの心を傷つけて何がしたいのさ。これは加害問題だ。ぼくへの加害問題。
ただ役職が犯罪組織の幹部ってだけで、どいつもこいつもみんなみんな、ぼくへの加害問題を行う……ぼくを無視したりね」
犯罪組織の幹部なんだから、加害問題というよりは恐怖心によってフォカロルを無視してくるのではないのか?
……などと思ったが、僕は口を閉ざす。
なぜなら、フォカロルの雰囲気が変わったからだ。
先程までの無理して作っていた凡人の雰囲気とは違う。
凡人さが消えて僕への殺意があふれでてきているのを感じ取ったのだ。全身にぞわぞわと悪寒が走る。
通常の人間よりも異常なほどの発せられる殺意。
もう日常的に他人を殺せるくらいの殺意が発せられている。
やはり、こんな危険そうな奴とは関わらない方がいい。
今、自己紹介を行わなかった事に少し後悔しながらも、僕は次の行動に移ろうと考えていた。
「(僕も成長してる。逃げるくらいはできるか?)」
逃げる。
戦ってもあの殺意を振り撒く犯罪組織の幹部に勝てるとは到底思えない。
だからこそ、マルバスに助けを求めるために逃げる。
「自己紹介を返してくれない。
これはぼくへの加害問題だ。加害問題はダメだ。ぼくへの加害問題はダメだ。ぼくへの加害問題は悪。ぼくは被害者だ。加害者に罰を与えなきゃ。どうする?
復讐だね。断罪だよ。処刑かな」
恨みが大量にこもった視線を向けられた。目を合わせただけで閉じ籠りたくなるくらいの視線だ。
「ヒッィ!?!?」
僕はその視線に恐怖してしまい、逃げ出そうとしていたタイミングがずれてしまう。
体と頭のタイミングがずれた。
完全に隙ができてしまった。僕の体は一瞬だけ奥の手を隠していても狙いやすい位置に達した。
その瞬間である。
フォカロルが構えを取っていた。まるでプロのピッチャーがボールを投げるようなポーズをフォカロルが取っていたのである。
「ざまぁみろ」
そして大きく振りかぶって投げられた。
フォカロルと僕との距離は意外と長い位置ではあったが飛び道具を使ってくるなんて予想はしていなかった。
僕の目はその投げられた物を見ようとする。その時間わずか0.1秒。
そして、その本当にわずかな時間で僕は察した。
「(は……!?)」
フォカロルの手からは何も投げられていないのである。
分からない。分からないけど嫌な予感がする。
なにかを投げるフリをしただけなんてあり得ない。
絶対にフォカロルは何かをしてきた。
「(何をしてきた?
何を投げた?
でも、絶対逃げるべき……)」
僕の足が思うように動かない。思考は働いていても、その僅かすぎる時間では体は追い付かない。
速く逃げ……!!
────────────
フォカロルの策で僕に被害が被る前に、体がフワッと宙に浮く。
僕の体が僕の意思とは異なるように、動いている。
いや、引っ張られている。それも非常に凄まじい速さで!!
「ちょっなに!?!?」
そして勢いが強すぎたせいか、僕の体が建物の壁に激突。
受け身をとる暇もなく、直撃してしまう。
「グエッ!?」
僕の体に巻き付いて僕を引っ張っていた物はそこで僕を解放してくれた。
ズルズルと壁にへばりつきながら地面に落ちていく。
「痛ってーーー」
「緊急事態なので、早急に対処させていただきました。エリゴル様の命をお守りするためですので多少の怪我は我慢してください」
どうやら僕は誰かに助けられたようだ。
僕を助けてくれた女性はフォカロルから僕を庇うように前に立つ。
そんな女性をフォカロルは不愉快に思いながらも睨み付ける。
「ねぇ、どうしてぼくの邪魔をするのかな?
そこの女。今、明らかにぼくが被害者だったよね。どうして加害者の味方なのさ。これは納得できないよね」
「納得できないのはこっちですよ。『お客への誠意が足りない』とかで店を台無しにしやがって。店員たちを殺しやがって。
お金を払わなくて済んだのは感謝しますが殺戮行為はいけません!!」
その瞬間である。
女性の掌から蜘蛛の糸のようにたくさんの鎖が発射されて、フォカロルの体を縛り付ける。
「なッ。おいメイド服。
ぼくになんてひどいことをするんだ。
どこまでみんな加害者なんだ。世の中、クソじゃないか。
この鎖……これはぼくへの加害問題だね。早く解けよ。ぼくは被害者だぞ!!」
「お断りです。その場で反省するといいですよ加害者さん。
まったく、私のメイド服が返り血になってしまった。
姉と同じメイド服が汚された。責任はきっちり取ってもらいます。いいですね?」
メイド服は血に染まり、それでも僕を庇うようにして立ってくれている。
フォカロルの動きを止めてくれている。
そんな僕を助けてくれた命の恩人は先程までお店でお酒を飲んでいた妹メイドさんであった。
来週はワクチン2回目のため土曜日に投稿できないかもしれません。投稿できなかったら連絡します
1日である土曜日は休んで2日日曜日に投稿します




