6 ・★+友のお願い
フレンドちゃんとの再会がまさかこんなに早いだなんて僕も想像はしていなかった。
このアンビディオで再会するとも思ってはいなかった。
「やぁフレンドちゃん。前日はどうもありがとね」
「いえいえ、気にしてませんとも。それより今回はどうしたのですか?
こんな危険な国に来て……」
フレンドちゃんは僕の顔色をジッーと時が止まったかのように伺い続ける。
これは僕が答えなければ一生動かないのかもしれない。それくらい動かない。
まぁ、それは僕としても嫌なので早急に話し始める。
ただし、暗殺の部分は除いて。
「言っていいのかわからないけれど。モルカナ国の国主からの命令なんだよ。女帝に会いに行けってさ」
「ふーん、別に隠すこともないですよ。心配せずとも私はこの国の関係者じゃありません。暗殺でしょ?」
バレていた。
僕はこの国に来て2人以外には暗殺の話をしていないのに普通にバレてた。
まぁ、フレンドちゃんならどこからか情報を掴んできているだろうし、不思議ではないのかもしれない。
フレンドちゃんって正体不明だし。
「そんな風に思われるのは悲しいですね。もっとファンシーに包んでほしいですが。
まぁ、いいでしょう。フレンドと私の仲です」
「僕らに仲ってあったっけ?」
「私はあったと思ってましたが……。
それより女帝の暗殺で悩んでいるんですよね?」
「そんな簡単に話題を変えてもいいのかい?
僕と君との仲のお話は?」
「それなら心配ありません。国民に慕われていて讃えられていても……。どんな人でも人には見せない裏の顔ってのがありますし。
確かめる価値はあるかと」
「完全に話題を変えやがった!?」
というか裏の顔?
確かに女帝にも裏の顔があるのかもしれない。
何かしらの暗躍をしていて、それを隠すために良いことをしまくっている。とか?
何かの目的のためにあえて良いことをしている。とか?
疑い始めたらきりがなくなってしまう。
「なるほど。裏の顔か。確かめる価値はありそうだね」
「そうですよ。そんな善人だらけな人がいるわけありませんし、何か裏があるはずです。
その暗躍を阻止すればこの国はきっともっと平和な国になりますよ。
みんなが笑顔で子供たちが平穏に暮らせる国にね……」
女帝の暗躍疑惑を確認してその暗躍を阻止すれば、平穏に暮らせる国になる……か。
子供たちが平穏に暮らせる国っていう言葉に僕はどうも弱いみたいだ。
確かめてやろう!!というやる気が断然湧いてくる。
「そうだよな。きっとそうだよな」
「はいはい。そうですよそうですよ。気持ちを押し殺すことはありません。フレンドの実力ならばきっとうまくいきますって」
「わかったよ。頑張ってみるよ」
フレンドちゃんから背中を押してもらった僕はなんだか全てがうまくいく気がしてきていた。
この国を救うんだという正義の心が湧いてきた。
なんだか人生うまくいく気がする。
そんな世の中なめてる僕だったが、その後フレンドちゃんから珍しく1つの頼み事を頼まれてしまう。
「それで……ここで会ったのも何かの縁です。フレンドに私からお願いがあるのですよ。
まぁ、簡単なお願いです。今まで通りの事をすればいいだけです」
「珍しいね。でも、僕はかわいい少女とマルバスの頼み事ならドンと来いさ!!」
「へーー。マルバスは特別枠なんですね。どんだけ一目惚れしてるんっすか。
あの女、ただのうつけ者じゃないですか」
自称マルバスの末妹であるらしいフレンドちゃんがマルバスの事を不愉快な表情で呟く。
意外とマルバスの事をフレンドちゃんが嫌っていた真実は驚きだったが。
そんな意外性を僕が告げる隙もなく、フレンドちゃんがお願いについて話し始めた。
「この国にも十二死がいるそうです。ですので……」
十二死とは化物である。動物の姿に似た怪物。
僕はこれまでの国々でも十二死によって酷い目にあってきた。
僕らの敵である十二死がこの国にもいるとは……。
正直、フレンドちゃんの頼み事を断りたくなってきている。
女帝の暗殺、十二死の討伐。この2つを同時に進行していくのはなかなか骨が折れる作業だ。
しかし、フレンドちゃんには前回の恩がある。
受けたくはないが受けざるを得ない。
受けた恩は返さなければいけない。
「わかった。十二死の討伐だね。フレンドには恩があるし全然構わないよ!!」
「さすが私のフレンド。ありがとうございます~」
フレンドちゃんからのお願いも聞き入れ、ヴィネさんからの指令も達成する。
両方とも苦労しそうな案件ではあるが、僕の覚悟は決まっている。
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しかし、その時である。僕がフレンドからのお願いを了承した時。
第3者は突然僕らに声をかけてきた。
「ねぇ~今お前、十二死って言った?
その話、ぼくも仲間にいれてくれないかな?」
僕に声をかけてきたのは1人の青年。
細身の体つきで、ボサボサでもかといって整えられてもいないような水色の髪、雰囲気はイケメンでもなく不細工でもない凡人のようで、服装も豪華でもなく。唯一の特徴と言えば赤い木の実のようなピアスを両耳に着けているか、右目の下に小さなほくろがあるくらい。どこにでもいそうなただの平凡な僕みたいな男であった。
しかし、違和感は感じる。普通で凡人過ぎるのだ。まるでそれを装っているかのよう。
天然の凡人ではなく真似た凡人。
そんな彼がなんだかタダ者ではない気がして、僕は(もしかしたらフレンドちゃんの知り合いなのかも)と考えてしまい、フレンドちゃんの方を見る。
だが、そこにはフレンドちゃんの姿がなかった。逃げ足が早すぎる。
「うそっーーん……」
僕はフレンドちゃんがいないことを確認すると、再び男の顔を見る。
初めて出会う青年の正体はわからなかったが、フレンドちゃんが逃げるくらいの相手なら警戒はしてしまう。
そんな僕の警戒を感じ取ったのか、青年は薄ら笑いを行いながらも自己紹介を始めてくれた。
「あっ、ごめんごめん。先に自己紹介をしなきゃだったね。
初めまして。ぼくの名前は『フォカロル・ハーデス』。
【闇星】水行の使者を名乗りし、青年さ。
それじゃあ話の仲間に入れてくれるよ……ね?」
そのワード。聞き間違えてはいけないワード。
【闇星】の水行の使者。
僕の中で目の前にいる男への印象がガラリと変わる。
その名はこの大陸の中で意味嫌われている奴らの名前と同じであったからである。
【闇星】はこの大陸で暗躍している組織の名前である。
黒と赤の線の五芒星のマークを背中に持っていると言われている組織。
数多くの国や人を殺してきた犯罪組織である。
この組織に所属する者はどんな理由があっても殺害対象とされ、発見次第に殺してもお咎めなしになる。
つまり、この大陸にあるすべての国々の敵ということだ。
また、その犯罪組織をまとめている幹部は全員で5人。
木行の使者・火行の使者・土行の使者・金行の使者・水行の使者。
そのうちの水行の使者が僕の目の前に現れたのである。




