5①・女帝様+2人の語り部
僕らがアンビディオに到着した翌日、今日の予定は妹メイドさんとの聞き込み調査。
僕らは観光客として町中で観光をするフリをしながら暗殺対象の女帝についての情報を聞き出そうとしているのである。
……というわけで、僕は妹メイドさんの後を着いていきながら活動をしている最中だ。
「それでお兄さんはどういうお仕事をしているの?」
「お兄さんの好みのタイプってどんな人なんですか~?」
「お兄さん、お酒飲みます?」
「妹メイド様、もう三本注文されましたーー」
……聞き込み調査の最中だ。
女の子がいっぱいいるお店で女の子が踊り歌いお酌してくれるようなお店ではあるが、真面目に活動中なのである。
「…………いや、すみません。お酒はまだ未成年なので」
そう言って店員さんたちからのお誘いを断り、僕はお冷やを飲みながら下を向く。
極度の緊張状態だ。
こんなにも女性に囲まれてお話をすることは人生で初めての経験である。普通に一対一という1人とのお話が多かった。
そんなメンタルだからこそ、何故妹メイドさんがこんな場所に聞き込み調査をしようと考えたのかが分からない。
女性同士なので話しやすいとかだろうか?
ちなみに、妹メイドさんはボトル瓶に入った高級そうなお酒を既に5本飲んでいる。大酒飲みだ。
その状態なのに酔っぱらうことなく、冷静にも店員さんとの日常会話を楽しんでいた。
てか、彼女も飲みすぎなのに何で呑まれないんだ!?
普通に酔っぱらうくらいのお酒を飲んでいるはずなのに、ケロッとしているし……。
しかも姉メイドちゃんがあんなにも童女であるのにその妹の妹メイドさんがお酒を飲んでいいのか!?
確かに妹メイドさんは大人びているけど。実際の年齢も知らないし、本当に姉メイドちゃんの妹なのかしら?
「う~ん?」
側にいる店員さんの女の子たちの声も聞こえなくなるくらい考え込んでしまう。
すると、それに気づいた妹メイドさんが気を使ってくれた。
少し誤解をしてはいたが。
「エリゴル様、場の雰囲気に酔われているのでしたら、一度外の空気を吸うのもよろしいかと……。慣れない空間なのでしょう?
お代は私が払いますので……ご休憩でも」
単に気を使ってくれたかもしれないし、厄介払いかもしれない。
けれど、少しありがたみを感じてしまう。
「う~ん、そうかも。すみません。ちょっと外の空気を吸ってきます」
「ええ、お兄さん。お外は入り口のドアのみ通じております」
「ういういしさがかわいいわね……」
僕は店員さんに言われたとおり、入り口へと向かう。
その姿を妹メイドさんはお酒を中断しつつも僕の背中を見届けてくれていたらしい。
お店からの解放。
僕は外の空気を吸いながら、大きく深呼吸を行った。
「はあああ……ふううう」
「あの!!」
深呼吸を行っている最中に声をかけられる。
ちょうど僕が出てきたところを待ち伏せしていたのだろうか。
店の入り口のすぐ側に立っていた青年に声をかけられた。
「どうしました?」
「いえ、その……怪しい勧誘とかではないのです。あなたは観光客なんですよね?」
「なんで僕が観光客だと……?」
「あっ、いや~すみません。僕ったら。
ボクがあなたのことを観光客だと分かったのは、ほらこれですよ!!」
青年はそう言うと自分の首にかけられている板を持つ。
緑色の板。
そういえば、青年の他にもこの町の国民すべてには彼のような板を首につけていた。
色の着いた板に鎖が付けられていてそれが首に巻かれている。
失礼かもしれないがアクセサリーというよりは首輪のようだ……。
「それってみんな着けてる……?」
「これはこの国の国民が義務付けられている“身分証明板”です。あなたにはそれがないので……。
それでですね。ボクはもうすぐ“出世”の時期なんです。国外旅行が解禁されるんです。なので国外のことを知りたくて。お話を聞かせてもらえませんか?」
キラキラとした憧れの瞳で僕を見つめてくる青年。
服はボロボロでとても国外旅行に行けるくらいのお金持ちには見えない。
生きてるのがやっとみたいな格好の青年である。
けれど、僕はそんな彼に不信感や嫌悪感を抱くことは微塵もなく。
聞きたいなら聞かせてあげようではないかという精神で彼のお願いを叶えてあげることにした。
聞かせてほしいなら喜んで聞かせてあげる。
だって僕はルイトボルト教宣教師であり、読み聞かせの語り部であるのだから。
今回のアンビディオ以外の話を青年に語る。
道端に座っての小さな語り聞かせ会。
その話の様子は省略させてもらおう。
ただの僕がこの大陸で体験してきた話だけである。
さて、僕が語り終えると青年は興奮した様子で僕の手を握りながら跳ねていた。
「すごいですすごいです。
やっぱり国外はすごいですね!!」
「国外に行ってみたいの?」
「ええ、ずっーーと憧れていたんですよ。この国の外の世界。
僕は産まれが国外らしいですけど、国外は知らないので。
いつか【蝕の集合体】に呑まれた故郷に帰りたいと日々を過ごしていたんですよ!!」
蝕の集合体?
なんだか物騒なワードがこの青年からこぼれ落ちてきた。
「蝕の集合体?」
「はい。蝕の集合体から逃れるためにボクの両親はこの国に逃げてきたそうです。この国にはそういう人がいっぱいいます。
ですが、ボクの両親は亡くなってしまいました」
「でも、それなら今戻ればいいんじゃないの?
故郷はもう襲われないんだろ?」
「無理ですよ。この国の政策があります。この板:身分証明板。
これは色によって“この国で何年暮らしたか”が分かります。
ボクは緑色なので20年以下ですね。身分的には無理です。
ですがもうすぐ出世して身分が変わるんです。
身分が変わればこの底辺生活ともおさらば。
胸を張って故郷に帰れます」
身分が必要ということか。
何年この国で暮らしたかが分かる色によって、身分が変わる。
だから彼はこんなにも生きてるのがやっとみたいな格好なのだろう。
いや、でもちょっと待ってもらおう。
話を変えよう。
彼は貧乏ではあるが難民も生きてはいけている。女帝は蝕の集合体から難民を保護している。
──つまり、僕らは結果的に良いことをしている敵国の女帝を暗殺しなければいけないということか!?




