28・乱入者+酉 戦⑦
「アハハハハハハハ。戻った。これであいつらはいない。邪魔者はいない!!」
アドニスの母親の笑い声が周囲に響き渡る。
すべては終わった。今までの彼らの努力は水の泡となって消えた。
アドニスの母親にはそれがとても嬉しかった。心の底から喜びで笑えてくる。
これでアドニスは再び生き残れる。呪いの話題などあいつらのデマに決まっている。
───そう信じていた。
「あ……?」
だが、アドニスの母親は異変に気づく。
『日付戻し』が発動すれば、日付は最初に戻る。時間は過去に戻る。
けれど、彼女が目を開けた場所は外だ。
彼女はループ開始時は家にいたはずなのだ。
「妙だわ。なぜ私は外にいるの?」
こんなの初めてだった。
こんな始まりは初めてだった。
「日付戻しは成功したはず……どうして?」
「教えてやろうか。このオレが自ら直々によ」
─────────────
アドニスの母親は目を開ける。
そして最初に目にしたのはキユリーとハルファスと僕の姿だった。
「えっ?」
アドニスの母親が振り返る。僕らが見ていた視線の先を見る。
───そこには酉がいた。先ほどまでとは同じ、死にかけた姿である。
そして先ほどまでとは違う点が1つ。
それは酉の後頭のくちばしを大太刀の刃が突き刺して口が開かないようになっていたことである。
そして聞こえてくるのは2人の男女の声。
「友の姉貴。俺の相棒を折らなかった事には感謝するけどよ。投げ物じゃねぇぞ」
「それは悪かったよ。だけど仕方がないじゃないか。エリゴルが止めろって頼んできたんだからさ」
僕らを通り越して、酉の前方に立つ2人の男女。
アドニスの母親は片方の人物だけは知っていたがもう片方は知らない。
目の前に現れた強者にアドニスの母親は腰を抜かしている。
「え……?(アドニスの母親)」
「「マルバス、赤羅城!!(キユリー&僕)」」
「ちょっと待って。あの女性がマルバス?
モルカナ国の管理者の!?
うそ。やだ。ちょっと待って。心の準 (ハルファス)」
突然の味方の登場に驚きながらも、僕は安堵した。
これで日付戻しは行われない。
ループ現象とはおさらばである。
これでアドニスと酉の計画も途絶えたのだから。
アドニスの母親は腰を抜かした状態でマルバスを見る。
「モルカナ国の管理者……」
これまでのループ現象の日々を僕以外ではアドニスの母親しか覚えていないらしいが、その中でもマルバスとは出会う日はなかったようである。
ハルファスにはあれほど反抗しようとしていたアドニスの母親もマルバスには反抗しようという意思がないらしい。
ハルファスにはないマルバスの圧倒的なオーラを感じ取ったのだろうか。
「…………」
アドニスの母親はすべてを諦めたように無表情で地面に座っている。
それはおそらくマルバスにも原因はあるが、ループを行うことが出来なかったという現実を味わっていることも理由なのだろう。
さて、アドニスの母親をそこまで落としたマルバスさん。
「悪いが従者達。美味しいところは持っていかせてもらうよ」
戦闘手段のない僕らの代わりに彼女は酉の目の前に立つ。
トドメを刺そうというわけだ。
「赤羅城!!」
「あーせっかく匂いに連れて来てみりゃ俺は荷物持ちかよ。
チッ、ほらよ。友の姉貴」
不満そうな赤羅城がマルバスに向かって武器を投げる。
マルバスはその大きな武器を片手だけで受けとる。
こうして片方の手には拳銃。もう片方の手には先ほど渡された機関銃。
そして彼女は叫ぶ。能力を発動するために……。
「『Mixer arms』!!!!」
それは彼女独特の超能力である。マルバスの父親ヴィネはそれを『付喪人の能力』と言っていた。
魂の宿りし物と人が契約して力を得る。
マルバスの能力は『ミキサー』という【物を合わせる】能力だ。
ちなみに、なぜこの大陸にミキサーが伝わっているのかについては後日聞くつもり。
さて、そのマルバスの能力によって拳銃と機関銃が合わさった。
「介錯はオレがやってやろう酉よ」
「…ッ………!!!」
マルバスが武器を酉に向ける。手加減をして生き延びられては敵わない。
酉には後頭の瞳で時戻しを行う手段だってある。
酉の時戻しが速いかマルバスの合成武器が速いか。
これは速打ち勝負である。
「─── !!!?!?」
ダダダダダダダダ!!!
酉の時戻しよりも速く合成武器から連続で放たれていく銃弾。
酉の体に突き刺さっていく弾丸。
速打ち勝負の勝敗は決した。
酉は鳴き叫ぶことなく、体に銃弾が貫く。
「………ッ…………ッ…………」
酉は次第に動かなくなっていき、その瞳を閉じていく。
そして、トドメの一発とばかりに酉の頭に銃弾が貫通する寸前。
酉の姿は消えた。
誰もが酉が消えた事に驚く。
「なっ……!?」
それがまるで幻だったかのように、一瞬の隙もなく姿を消した。
誰も酉が何かを行おうとした姿を目撃していない。
酉にも諦めたように抵抗の意思がなかった。
そんな酉が消えたのだ。
「どうして?」
訳がわからない。
こんな結果で僕らの努力が終わってしまうのか?
別に絶対に殺してやりたいほど酉を恨んでいたわけではない。
アドニスを楽に死なせてあげるために、僕は努力したのだ。
だけど、この結果はなんだかあんまりだ。
勝負には勝った、試合には勝った。けれどなんだか違う。
当初の目的は遂行されてはいる。
けれど、この決戦の結果は僕らに後味の悪さを残して終戦を迎えるのであった。
──────────────
決戦を最後まで見届けていた1人の男。
男は自分の手のひらで魔道具を転がしながら、語る。
「ムムムム…………。どうやら戦場に行かなくても正解でしたね。
此度のループで終わらせた事には感謝しますよモルカナども。
お陰で楽々と“横取り”できました。
さてさてさて、“敵対者”側も働き終わった頃でしょう……。
麿もそろそろ退散しましょうかね。
ただ、麿としてあの女子には会ってみたいですが。あちらが麿をお嫌いの様子。
麿が【闇星の土行】であるからでしょうな。
後悔はあれど、是非もないんですよねーこれ。
さてさて、あの表情を見届けたい者ですが、麿も忙しい身ですので。
【此岸の王魔】降臨の生け贄を集めねばなりませんのでねぇ」
青い目の男はそう言ってニヤリと笑うと、次の瞬間にはもうこの国からはいなくなっていた。
次は27日23時です。




