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27・日付戻し+酉 戦⑥

 兵士たちはすでに酉を見捨てて後方へと退避した。

酉に炎を浴びせて、自分達は襲われない位置まで退避した。

酉は目の前で今も焼かれながら苦しんでいる。

悶え、狂い、苦しみ、焼かれ、叫び、暴れる。


「ひどいわ。あの国の奴らは本当にひどい……」


酉はただ時を戻し続けていただけだ。たまに縄張りに現れた馬車を食べていただけだ。

生きるために生かすために……。

栄養となる者を食べていただけだ。今回もそうなるはずだった。

だが、兵士たちはどこでその知識をつけてきたのか。

時戻しの事を知っていた。

誰も知らないはずの時戻しの事。この国が今日という日を繰り返し続けている事。


「それもあいつのせいだ。あの子の友人だと信じていたのに……」


それはあいつのせいだろう。理由はわからないが、あいつらがこのネゴーテェウムにやって来てからおかしくなった。


「ああ、かわいそうな酉。十二死の中でも弱い部類に立っているのによってたかって虐められて。かわいそうに」


かわいそうな酉。

私は酉に向かって水をかける。消火活動だ。

兵士たちの馬車にあった樽の水を組み上げては酉にぶちまける。

しかし、酉の体にまとわりついてくる炎はなかなか消えない。

どうした物かと考えていると酉は最期の力を振り絞って樽を咥えた。

そして自力で宙に投げ飛ばし、頭から樽を破壊して水を被る。

それを何度か繰り返すと、ようやく炎が消えた。

私は変わり果てた姿になってしまった酉を見ることになる。


「ヒッ……!?」


その体の体毛はすべて黒く焦げ果てて、肉が炙られたような匂いがする。

そして双頭の前方の瞳は片目が開かなくなっている。

だが、後方の頭は無事だ。焼かれてはいるがまだ瞳は開きそうだ。


「神様、後頭の瞳を開くのです。時戻しを……いや口を開いてください。もう朝日が昇ってしまいます。口を開き、一番鶏のようにそのサケビを聞かせください。

このままじゃ私の息子が……私の息子が!!」


酉は私の懸命な願いを聞き、目を細める。

機嫌を損ねたようではあったが、酉はゆっくりとゆっくりと立ち上がろうとする。

夜明けまではもう少ししか時間が残っていない。早く。早く。


「急いで立ち上がってください。早くしないと私のアドニスが…………」


私の脳裏に浮かぶのは嫌な妄想。私の息子がついに死んでしまう妄想。

───あの予言者である青い目の男に、言われた予言の日が近づく度に私は震えた。

そして酉に出会い、願った。私の願望を願った。

【十二死が契約者の願いを叶えようとする】とは昔からの伝承であったがそれが真実だったのには私も驚いた。

だが、今まさにその願いを叶えることが出来なくなりそうだ。

私はそれだけは避けなければいけない。酉にはまだまだ働いて貰わなければいけない。


「待った!!」


だが、その声が聞こえた。私を邪魔する他国の息子の友人の声が……。


──────────────


 僕とキユリーとハルファスが酉のもとへとたどり着くと、そこにはやはりアドニスの母親がいた。

「待った!!」という僕の声に酉も彼女も視線を向けてくる。

どうやら間に合ったようだ。まだループ現象を行う前だ。


「おい、貴様。その酉から離れろ!!」


ハルファスがいつから持っていたのか不明の銃を酉に向けながら、アドニスの母親に要求した。

アドニスの母親はその突きつけられた銃に怯えて、その場から後退しようとするのだが。


「シャュ……」


酉が彼女の方を虚ろな目で見ながら、一声鳴いた。

その声を聞いたアドニスの母親は考えを変えて地面に足を踏ん張り、酉の前にたつ。


「させないわ。この神様は絶対に傷つけさせない!!」


「退くんだ。管理者からの頼みだぞ」


「断る!!

権力を見せつけられても、これだけは断る。殺るなら殺ってみなさい」


ハルファスとアドニスの母親との間が不穏な空気になっていく。

キユリーは何が何だかさっぱりな様子で、視線を両者に向け続けている。

ぼくはそんなキユリーを庇うようにして前に立ち、両者に集中する。

ハルファスがアドニスの母親を撃つのかは分からないけれど……。

その行く末は見届けたいと思ってしまったからだ。




 だが、ハルファスが撃つよりも先に、アドニスが撃たれるよりも先に動く物が……。

それは酉である。

僕らの意識がアドニスの母親に向いたことで、酉への注意が削がれた。

そこを酉は利用しようとしたのだ。


「「……!?」」


ハルファスとキユリーにはこれから起こることが分かっていない。

だが、ハルファスは危機を察知したようでアドニスの母親から酉へと銃口の向きを変えた。


「させない!!」

「なっ……!?」


そのハルファスの隙をついて、アドニスの母親が銃を奪い取り投げ捨てる。

これで酉を邪魔する者はいなくなった。

酉は最期の力を振り絞って後頭の口に力を込める。

後頭の瞳が時を戻す。後頭の口が日付を戻す。

瞳と同様に縫い付けられていた口がこじ開けるように血を流しながら開いていく。


「酉を止めるんだ。後頭のサケビは止めるんだ。

さもないとすべてがまたループ開始時に戻ってしまう。

酉を叫ばせるなーーーー!!」


時戻しよりもたちが悪い『日付戻し』が発動してしまう。

ループ現象を起こし、日付を戻すサケビ。

僕だけが知っているその能力は最悪の能力だ。

今までの努力すべてが無駄にされてしまう。

だが、ハルファスも僕もキユリーも酉を止めることができる武器や体力が残ってはいない。

例え、そうだとしても日付戻しだけは止めなければいけなかった。


「いざ神様。声を聞かせる時です!!」


「『『◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯!!!!!!!』』」


──────すべては遅かったのである。

次は27日22時です

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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