24①・混乱+酉 戦④
僕がハルファスのいる場所へと命からがらの状態でたどり着くと、一番最初に寄ってきてくれたのはキユリーであった。
「エリゴルさん!!」
「やぁキユリー。酉はどうなっている?」
「おそらく弱ってます。このままいけば飛び立つ体力もなくなるはずです」
このまま仕留めるのも時間の問題ということか。
僕は少しホッとした気分になり、草むらに座り込む。
視線をずらすとハルファスたちが慌ただしい様子で話し合いを行っていた。
「ハルファス様!!
全砲撃隊から同様の連絡です。砲弾がもう残り少なくなってきています!!」
「よし、分かった。兵士団の出番だ。
いいか? 合図を行ったらすぐに変更だ!!」
ハルファスは酉の隙を探る。
砲撃を撃たれ続けている酉は今にも倒れそうなほど体も傷ついてはいるが。
ハルファスはジッと酉の様子を伺っている。次第に酉は視線をそらす。
そして時は来た。
「撃ち方やめ!! 兵士団かかれ!!」
「オオオオオオオオ!!!!(兵士たち)」
ハルファスの合図を耳にした各方位に配置されていた兵士団が一斉に武器を構えて酉に向かって走る。
トドメを刺すために兵士団は向かうのだ。
しかし、酉はまだ諦めていなかった。
「────────────!!」
兵士団の目の前から一瞬にして酉の姿が消える。
「嘘だろ!?」
「何があったんだ!?」
「あの重傷だぞ。あんなに怪我をしていたんだぞ」
「どういうことだこれは!?」
目の前から酉が消えたことに驚く兵士団たち。
ハルファスも酉の行方が不明になったことに驚いてはいたが、ふとそれが視界に入ってきた。
「なッ……!?(ハルファス)」
「「酉が空を飛びやがった!?!?(兵士数人)」」
馬車の墓場道の上空。
遥か空の上から人間たちを見下すように酉は飛んでいた。
傷一つないきれいで元気な状態で酉は宙を飛んでいた。まるでホバリングである。
「全体の時間だけじゃなく自分自身の時間だけを戻すこともできるのか……?」
冷静にそれを眺めている人間たち。
けれど、ハルファスは大慌てで声をあげる。
「全兵士団逃げろ!!
その場に止まるな!!」
遥か上空から地面を睨み付けている酉にハルファスは何かを感じ取ったのだろう。
急いでその場から逃げるように全体に指示を行った。
向かっていた兵士団も命令であるからという理由でその指示に従うように退却を行い始める。
しかし、それは遅かった。
──────────────
酉は狙いを定めたように一気に地面に向かって落ちてきた。一筋の槍のように落ちてきた。
そしてその勢いを利用し足で兵士を踏み潰す。
「キャシャァァァ!!」
前頭の酉が復讐と言わんばかりの怒りをあらわにしながら叫ぶ。
その落ちてきた酉を兵士たちは目視した。
「潰されたぞ」
「逃げろ!!高台に逃げろ!!」
「あああああ助けてーーー」
兵士はその場から逃げ始める。武器を投げ捨てて逃げ惑う。手に持っていた松明も投げ捨てたからか、松明の火が馬車の瓦礫に引火し、さらに明るくなる。
「キシャョアァァァァァ!!」
酉の近くにいる兵士も逃げようとするが、襲いかかる酉に喰われていく。
その光景を目視してしまいさらに兵士たちは恐怖する。死を感じる。
そうなってしまえば冷静で入られずもう大混乱である。
まるでエサ場だ。兵士たちは酉から逃げようとしても元の位置に戻されて喰われる。
彼らは馬車の墓場道から出られずに、永遠に移動し始めた位置に逆戻り。
それを酉が捕食する。
酉はただ少しだけ移動すればいいのだ。酉が時を戻すことで目の前に兵士が現れる。それを食べる。
その繰り返し。次々と繰り返し。
これ以上は危険だと判断したのだろう。
兵士長の1人がまだ兵士たちが逃げ切っていない状況でも砲撃命令を下そうとしていた。
「砲撃用意!!」
「待て。まだ逃げ切れていない兵士が……」
「待てるものか。酉の近くにいた奴らは逃げ切れん。奴の時戻しを遅らせて少しでも兵士を生かすしかあるまい!!」
しかし、兵士長達の中でも意見が割れているようだ。
きっと東西南北すべての陣営で意見が割れているのだろう。
彼らはハルファスの意見を求めたいが彼女も考え込んでいる。
「撃ってもその場しのぎだ。
兵士が巻き込まれるかもしれないし、また時戻しで距離が縮まる。
だが、撃たねば兵士がどんどん死んでいく。くそっ……」
ハルファスは悩みに悩みながらも、悔しくて机を殴る。
外では兵士の叫び声や酉の鳴き声が今も聞こえてくる。
その様子を僕は黙って見ていることしかできないのだろうか。
「何かないのか?
このままじゃ全滅だ。
せめて、酉の注意を反らすことは。うーーん……?」
酉の注意を反らす?
僕は手に握られた短刀を見る。
これまで必死に十二死たちと対決してきた短刀。今では僕の相棒とも呼べる武器だ。
視線の先では今もハルファスたちが悩んでいる。
おそらくしばらくは良い考えが思い付くとも思えない。
「エリゴルさん。ダメですよ?」
キユリーが僕の考えを感じ取ったように、不安そうな顔で否定してくる。
しかし、今キユリーに否定されても僕にできることはこれしかない。
そう思って僕は今も酉が大暴れしている馬車の墓場道に向かおうと決意したのだが……。
「ダメです。ちゃんと考えましょう?」
それを両手で止めたのはキユリーであった。




