22 ・再降臨+酉 戦②
アドニスの母親との再会。
彼女はこれまでのループと同様に僕に接しようとしてくる。
「もう一度聞くわ?
なんで君はこんなところに来たの?」
「それはあなたにも言えることだぞ」
「それもそうね。それで、なんで私がここにいるのか説明してあげましょうか?」
「いや、いい。だいたい分かってる」
「そう、ねぇ聞かせてくれない。あなたが見たアドニスの死因はどんな物だった?」
「衰弱死だよ。外で倒れてた」
「そう、やっぱりあの呪いによる不治の病のせいかしら」
ここまでは前回の答え合わせと同じだ。
もちろん、このまま彼女との会話を今まで通りに繰り広げるべきだったのだろう。
だけど、僕は我慢できなかった。
ここで言ってあげなければ彼女のためにもならない。
「だが、あんたの考え方は間違っているぞ」
「……!?」
僕のこれまでとは違うイレギュラーな発言にアドニスの母親は驚く。
そして僕の顔をギィロッと睨み付けてきた。
やはり怪しまれただろうか?
だが、それでも僕は彼女の失態を語り続ける。
「僕の友人…………いやフレンドが教えてくれたんだ。
そいつは『どんな十二死の効果でも十二死相手には弱体化してかかるようになっている』
『完全には戻せずにだんだん体を呪いは蝕む』って言っていたぜ」
その言葉を聞いたアドニスの母親は先程までの冷静さを失うほど衝撃を受けていた。
僕が十二死なんて言葉を使ったことなど気にも止めていない。
「嘘よ……あり得ないわ」
「信じるも信じないもあんたの勝手だが、僕の意思は固い。だから、あなたがどうやって時間をループさせているのかは知らないけれど、今すぐにやめてもらおうか!!」
「ダメよ。ダメよダメよダメよダメよ。
愛する我が子と1日でも長くいたい。それは罪なの?
愛する我が子を失いたくない。愛する我が子と別れたくない。例え他人を巻き込んでも……長く愛する息子と暮らす。それが罪だというの?」
罪ではない。愛する人と少しでも暮らしたいという気持ちは僕にだって理解できる。
けれど、僕はアドニスの母親を否定しなければいけない。
「…………それは罪じゃない。けれどあなたは他人を巻き込みすぎたんだ。やりすぎだ」
「…………そう、あなたは完全に私たちの敵ってわけね?」
「私たち?」
「この場所で充満している邪気の匂いの正体よ。私に力を与えてくださる存在よ。
教えてあげるわ。あなた……神様って見たことあるかな?」
アドニスの母親が言う神様と言う奴は知っている。何度も会っている。
だが、ここで知っているなんてバレるわけにはいかない。
「神様ぁ?」
「そうよ。神様よ。
ループ現象を起こしてくれる神様。時間を戻せる獣、十二死の怪物。『十二死の酉』」
「十二死の酉だと…………!?」
「人類には勝てない。災厄の獣のうちの1体よ。契約者の願望を叶えようとする破滅への怪物。
町を島を国を……幾度となく滅ぼしてきた神秘の化物。その1体がこの場に降臨するのよ!!」
アドニスの母親は空を指差す。
僕もその指の向いた方向を見る。
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空はより一層深い闇に包まれる。
光も通さないような深淵の色。
星の光も通さない。世界は闇に隠される。
されど、東の空が明るい光が希望となった。希望となってやって来る。
それはまるで朝日が昇るように……。光が闇夜に
舞い上がる。
それは鳥というにはあまりにも美しく、神様というにはあまりにも異形な姿であった。
闇夜に輝く黄金と紅き肉体は、書物でも見ることができないほどの幻想的な見た目である。
神聖な存在が羽ばたく姿も美しい。
しかし、その美しき肉体のせいで見た目がさらにいびつに見えてしまう。
足が4本。鳥と鳥とを合わせたような見た目であり、本来尾があるべき位置にも首が2つあるのだ。
双頭の鳥。前方の目は開いているが、後方の目も口も縫い付けられている。
さて、そんな異形の鳥は僕たちの目の前に着地。
すぐに飛び立つ様子もなく、完全に油断しきっている。
その姿をこの目で見るのも何回目だろうか。
「この方こそが神様。時間を戻せる獣、十二死の怪物。『十二死の酉』。それがこの神様な 」
「放てぇぇぇ!!」
「何!?」
アドニスの母親は何故僕が合図を行ったかもわからず、考える暇もなかった。
馬車の墓場道の中央付近に向けてライトが照らされて、僕たちは思わずその光に目を瞑る。
「まさか……!?」
そして、アドニスの母親がこの状況を理解した時にはもう遅い。
馬車の墓場道を囲うように並べられた大砲から砲弾が酉に向かって放たれ始めたのだから。
次は27日17時です。




