19① ・モルカナファン+オアズケ
大広間は会議場となり、僕たちやたくさんの兵士長たちが机を囲む。
そして、一通り僕が酉についての秘密を全て話す。
僕の陥っておる状況、酉の居場所、それを従えている正体、酉の能力。
最初はみんな信じられないといった表情で僕の話を聞いてくれていた。
「…………以上が僕が知っていること全てです」
僕の知っているすべての状況を話し終わった僕は席に座る。
けれど、大広間に来ていた数名の兵士長たちが僕の話を信じてはくれなかったようだ。
「そんな伝承のような生物がいるのかね?」
「アハハハハ、確かにプルフラスの飼物のようだな。ワシも読んだよ。子供の頃にね」
「ハルファス様、いきなり兵士団を集められて驚きましたが。まさかこのようなおとぎ話を聞かせるために私らを集めたのではありませぬよな?」
彼らは僕ではなくハルファスに問う。
確かに彼らが僕の話を信じられないのは分かる。上司に問いただしたくもなるだろう。
けれど、ハルファスは僕の話を信じてくれていた。
「ああ、もちろんだ。信じられないか?」
「しかしハルファス様。この者が真実を口にしている証拠もありますまい」
「私を信じられないのか?
では私が貴殿らに問おう。近年の馬車の墓場道での出来事を説明できる者はいるか?」
「…………(兵士長全員)」
ハルファスからの問いに黙ってしまう兵士長たち。
彼らも馬車の墓場道での現象を調査してきていたがその原因は不明だったのは知っている。
馬車の墓場道と酉との繋がりがあるとは兵士長も信じてはいないが、馬車の墓場道が異様な場所というのは知っている。
だからこそ、その繋がりを否定しづらいのである。
そして、静かになった大広間にハルファスの一声。
「それならば、皆には信じるという判断で行動してほしい。
では、今より作戦会議に移行する。
これまでエリゴル殿が上げた情報と地図をもとに作戦を経てる!!」
ハルファスは無理やり兵士長たちを納得させた。そして馬車の墓場道対策の作戦会議が本格的に始まったのである。
2時間後、会議は終わった。
兵士長たちはそれぞれ自分の隊に連絡をしたり、必要になる武器をかき集めるためにルーラーハウスから離脱する。
僕は特にやることもないので、考え事を行っていた。
時刻はこれまでのループ内でマルバスたちがやって来ていたはずの時刻である。
僕はそろそろ同盟作りに関するマルバスへの言い訳を考えなければ行けない。
僕はルーラーハウス内にある中庭にあったベンチに座り、空を見ながら考えていた。
「うむ…………」
すると、ハルファスが中庭で考え事をしている僕に声をかけに来てくれたのだ。
「同盟作りのことか?」
「ん~そうなんだよ。先に同盟作りよりも先にお願いを優先してしまったからな~」
「それならば今この場ですればいいんじゃないのか?」
「こんな中庭で?」
「ああ、書類など何処でだって書ける。ほら貸してみろ?」
僕はハルファスに言われた通り、書類の入ったカバンごと彼女に手渡す。
彼女はペンを持ち、書類の内容も速読で読み終える。
「ススーイ。すいすい~っと。ほら」
「もう終わったのかッ!?」
数枚の書類にある記入項目をすらすらと書き終えて判を押す。
そして彼女はホイッと軽い雰囲気で僕に書類を返してくれた。
(本当に目を通したのか?)と思うくらいの素早さだったが、僕としては問題ない。
これにて同盟作りというミッションは僕1人でも成功しているのだから。
暇になった。
色々と説明しながら同盟作りの話を進めていこうと思っていたのだが。
30秒くらいで説明する暇もなく終わった。
戦の準備は夜だし……。酉との決戦は夜の11時よりも後。
それまでの時間が暇なのである。
最後になるかもしれない勝敗を決める決戦前に暇なんて言うべきではないのかもしれないけれど。
僕としてはハルファスたちの軍事力や作戦を信じるしかない。
今から必殺技を産み出すなんて事は普通に出来ないので、焦っても意味がない。
なので、(のんびりとハルファスと日向ぼっこでもしておこう)なんて考えていたのだが。
ハルファスがふと呟いた。
「私も貴国の生まれになりたかった。
誰にもバラしたくない秘密なのだが。
私は実を言うとモルカナ国のファンでな。
特にマルバス殿は尊敬する憧れの管理者だ。そんなあの人の近くで働きたかった」
「うん、知ってる。あんた明らかにマルバスの前と態度が違うもん」
たぶん執事さんでも知ってると思う。
前のループではテンションの高いハルファスに驚いてもいなかったし……。
「なッ!? まぁいい。
私は嬉しいのだ。モルカナ国に一番に頼って貰えたことが……。
私はモルカナ国のためならば何だってする。
貴様と政略結婚も構わん!!」
「はぁ? 僕と!?」
急展開だ。初めて受けた告白。
「ああ、貴様と政略結婚した暁には毒殺して権力を奪い取ってから……いずれはマルバス殿と……」
おいおいおい、僕は権力のために利用するだけか。
僕の期待を返してほしい。愛の告白レベルで嬉しい一言だったんだぞ。
顔が妄想しているバティンみたい表情になっている。
バティンもハルファスもマルバスオタクだったのか。いや、バティンはマルバスガチ勢でハルファスはモルカナファンか。
しっかし、困った。
僕以上のマルバス好きがこの世に2人もいては僕の存在が薄くなってしまうかもしれない。
「あんた、そんなこと言ってていいのかよ。その軍服姿のかっこよさが台無しだぜ……」
「私はモルカナ国の事を考えると震えが止まらなくなる。
マルバス殿&バティン殿を見てオアズケの私。
その後、ヴィネ殿&エリゴルの部屋での出来事を目撃し、地下牢に監禁された私はヴィネにこう言われるのだ!!『オアズケだお前はそこで私たちの…………」
「待った!!
それ以上はアカン!!
初期のイメージが。イメージが崩れる。崩れ落ちる!!」
そして上の3人は何をしているんだ!?
なんのプレイだ。ヴィネと僕が部屋での出来事って何なのだ!?
軍服姿の彼女が逆に何をされるというのだ!?
分からない事はいっぱいあったが、それを聞くのも恐ろしい気がしたので僕はとりあえず彼女を止める。
ハルファスはまだまだ語り足りないようであったが、僕の要望を聞いて口を閉じてくれた。
これで一安心。
「あっぶない。モルカナ国ファンがここまでヤバイやつだったとは……。危うく攻受話が展開される所だったぜ」
これが全体を愛するか、個人を愛するかの違いか。
いや、ハルファスはお預けされるのが好きな、一番狂国好オアズケ軍服女であることには間違いないか……。
───こうして僕の中でハルファスのカッコいい印象が崩れ落ちたのであった。
次は27日13時です




