17 ・1人でのお使い+『アドニス・アムドゥスキアス』
1人でのお使い。
ネゴーテェウム国とモルカナ国の対魔王国のための同盟作り。
普通なら、マルバスのアシスタントとして僕も参加するはずだったのだが……。
キユリーの提案により、僕1人で行かされる事になってしまう。
先程、キユリーとマルバスが2人きりで話し合い、そしてキユリーの提案を許可したようだ。マルバスはわりと簡単にすんなりとキユリーの提案を許可していた。
僕が同盟作りのためにルーラーハウスへと出向き、3人は武器を買うために行動する。
ハブられたというか面倒な事を押し付けられたというか。
キユリーの提案はこれまでのループ内でも初めての出来事。イレギュラーなイベントである。
しかし、決まってしまったのはしょうがない。
なので、僕は今ルーラーハウスへと向かうために通りを歩いている。
「はぁ、なんでこうなってるんだよ」
僕は正直乗り気ではない。
このループ現象がフレンドちゃんが手助けしてくれる最後のループ現象であるというのに……。これ以上は失敗をしてはいけないのに……。
こんな謎の展開になってしまい、これが原因で失敗したらどうしよう。
……なんて考えている。
そういえば、フレンドちゃんはキユリーとの会話中にいつの間にか姿を消していた。
音もなくいつの間にか現れていつの間にか消えてしまった姿はやはり異様ではある。
いつの日か、自称ゴエティーア家の末っ子フレンドちゃんについてマルバスに聞いておいた方がいいかもしれない。
「おや?」
考え事をしすぎて無意識に歩いていると、僕はあの裏通りの前にいた。
方角的にこの裏通りを通ってもルーラーハウスには行ける。
「…………」
会っても辛くなるだけだ。僕の決意ではアドニスを救うことができない。だからこそ、会わずにルーラーハウスに向かう方がよいはずだ。けれど、僕の足は裏通りへと歩いていくのであった。
裏通りに彼はいた。ループを繰り返してきた僕にとっては何度も出会っている場所に今回も彼はいた。
彼は白いシャツとズボンという単純な服装を着ており、手にはヴァイオリンを持っていた。
その姿は白い髪に赤い目をした好青年というよりは美少年と呼ばれるくらい美しい。まるで白色のバラのように美しいのだ。
そんな彼が大きな階段に腰かけて、いつものようにヴァイオリンを弾いていた。
明日の朝を迎える頃ができないという事実を知らない美青年がヴァイオリンを弾いていた。
「…………」
僕はただの通行人のようにアドニスを一瞥して立ち去ろうとする。
ループ内では何度も友人になっていた彼。
彼にはその記憶もないが、僕にはたくさんの彼との記憶が残っている。
「…………なぁ。そこの美青年」
会えば辛くなるだけ。それなのに僕は階段を上がる最中に声をかけてしまう。
「どうしました?
ボクに何かご用でも?」
「僕は今、通りかかっただけだけどさ。君の弾いている姿もとても素晴らしいね」
「……? ああ!!
どうもありがとうございます。ボクのヴァイオリン、久しぶりに他人に褒められたので」
「あなたのその演奏は素晴らしいと思うよ。だから、これからも応援してます」
これからなんてない。今日がその最後の日。
けれど、僕は口にしてしまった。何故口に出たのか分からない。
アドニスからすれば普通の応援のような物であっただろうが、僕からすれば意外であった。
自分の口から出た言葉を僕は恥じるような気持ちになっていた。
「あっ、いや。その……。それじゃあ失礼します」
僕は表情を隠すようにその場から立ち去ろうとする。
アドニスは不思議そうに僕の後ろ姿を見送ってくれる。
そうして、僕とアドニスの最後の出会いは終わりかけた時である。
「この曲はとある有名な作曲家の『Farewell on that day』という曲です。ボクのおすすめ曲ですよ」
アドニスが大きく手を振りながら、僕に先程聞いていた曲を教えてくれたのである。
その行動は僕の心に辛く突き刺さる。
だが、それと同時に少し嬉しくも感じた。
最後に、元気なアドニスの姿を見れたからだ。
「ああ!!
いつか聞いてみるよ!!」
僕は大声でアドニスに返事を行って手を振りながら、立ち去っていく。
今度こそ、僕とアドニスの最後の別れはこうして幕を閉じた。
次は27日10時です




