16②・十二死同士は友じゃない+アドニスの呪い
アドニスにかけられた呪い。そのせいで明日アドニスは死んでしまう。
それを避けるためにアドニスの母親は酉との契約を行い、これまでに数えきれないくらいの今日を繰り返してきた。
その呪いさえどうにかできれば、今回の事件は解決できるはずだったのだが……。
「無ッ理でーーーーーす(part2)」
フレンドちゃんの口から語られたのはそれが不可能だという事であった。
フレンドちゃんはそのまま悪魔の笑みのような表情でその理由を語り始める。
「彼の呪い……それは十二死による物です」
「十二死…………まさか酉か?」
「まぁまぁ、確かに普通の呪いであれば解く方法はあります。
しかし、今回の相手は十二死。それも酉じゃない。
願望を形作る呪いの獣。国々を滅ぼせる異形の異界物。人では及ばない化物。
この大陸には十二死による呪いを解除できる方法がありません…………他世界から連れてこれればいいでしょうがね」
「じゃあ、アドニスは救われないのか?」
「ええ、そりゃもう」
「じゃあやっぱり、アドニスの母親は正しかったのか?」
アドニスの母親を思い出す。我が子のために時間まで戻して死なせないようにとしていた母親の愛。
それはやはり正しく。僕らが引くしかなかったのだろうか?
「いやいや、誰がその人の正統性を主張しました?」
「えっ?」
「実は十二死には特性がありまして【十二死同士は弱体化】するんです。
簡単に言えば、超能力の弱体化とかですね。
十二死は共食いを避けたいんです。十二死同士で争いたくない。だから、どんな十二死の効果でも十二死相手には弱体化してかかるようになっている」
酉じゃない。十二死の呪いは解決できない。十二死同士は弱体化。
それらのワードからフレンドちゃんが言いたいことがわかった。
「ってことは。酉のループ現象はアドニスの呪いには効果が効きにくいってことか?」
「その通り。完全には戻せずにだんだん体を呪いは蝕む。この事は彼の母親も知りませんよ。そのうち彼は今日を生きることもなく死ぬでしょうね」
アドニスが死ぬ運命は変わることない。このままループをさせ続けていれば、彼の体に負担がかかることをアドニスの母親は知らない。
僕がループを止めてもアドニスは死ぬが、ループを止めなくてもアドニスは死ぬということか。
いったい僕はどちらを選べばよいのだろう。
結論は出掛けている。だがそれを認めたくはない。いっそこの答えを自覚しないために発言を引き延ばしてしまおうか。
などと考えていたのだが、フレンドちゃんがそれを良しとしてはくれそうになかった。
「よかったですねぇ~」
「いや、全然良くはないだろ」
「何言ってるんですか?
彼を楽に殺すか。彼を苦痛に生かすか。
上の二択問題に悩むフレンドではないでしょう?
これで酉を殺せる理由が出来たでしょう?
悩むこともない。殺せばいいだけです。
よかったですねぇ。理由が見つかって」
「それは…………」
それを認めて悩みを解決なんてしてしまうのは後味が悪い。
アドニスに無礼というか、人としていけないことではないかと思う。
すぐに開き直ってもいい選択ではないはずだ。
けれど、フレンドちゃんにはその感情が伝わらないようだった。
「どうしたんです?
もう答えは出ているんでしょう~?
フレンドが選ぶんです。フレンドが決めるんです。
彼のためにフレンドは何を選ぶか。私はフレンドの意思を尊重しますよ」
答えは出ている。それを本当は認めたくはないけれど仕方がなかった。僕がそれを選んだ方がアドニスも少しは苦しまなくて済むからだ。
「僕は酉を殺すよ……」
選ぶのはそれしかない。その答えしかない。
だから、僕はフレンドちゃんの言っていた選択の中の1つを選ぶのである。
僕が頑張って行った決意をフレンドちゃんは誉めてくれるわけでもなく応援してくれるわけでもなく。
興味の無さそうに話題を変えてしまった。
「まぁ、そういう決意をするのなら文句もないですよ。しっかし変ですよね~?」
「僕の決意を何だと思ってるんだ君は。それで変とは……?」
「なんで彼の母親は時を1日しか戻さないのでしょう?」
「そりゃアドニスが死んでから酉に祈ったとかじゃないのか?」
「でも時間を戻せるんですよ?
時を戻せるのなら彼が呪いを受けた人に戻せば全ての問題が解決するのに……。どうして死ぬギリギリなんでしょうね?」
こんな話題を変えた中でもフレンドちゃんは余裕ぶった雰囲気で、寝ているキユリーのほほをツンツンとしたり、寝ているキユリーの顔に落書きをしたりしながら話してくる。
もしも今キユリーが起きたら殺されるぞ!?と思いはしたが、キユリーだし気づかないだろうな~という結論に至ったので僕もちょっと付き合う。
お互いにイタズラを仕掛けて笑いをこらえている最中に僕は彼女に尋ねた。
「確かにそうなんだろうけど。フレンドちゃん?
そんなことを急に聞くなんて、君はもしかして何か知っているのかい?」
「いいえ、知りませんよ。見逃し……いやちょっとフレンドの勝敗が不安になりまして。
まぁ、フレンドには変な事をせずいつも通り頑張ってもらいたいのですが。それも少し難し 」
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ちょうどその時である。なんとキユリーが目を覚ましたのだ。
「ふぁわー、よく寝ました~」
僕らが話していた声で目覚めたのか、先程まで眠っていたキユリーが目を覚ました。どうやら僕らのイタズラには気づいていないらしい。
キユリーは目を擦りながら僕を見てくる。
僕も顔だけをキユリーの方に向ける。
すると、キユリーは起きてすぐの第一声に不思議なことを口にした。
「ねぇ……エリゴルさん。今日の予定はどうするんですか?」
「今日の予定……?」
そんな物は同盟作りと武器の買い物だったはず。いや、確か今の状況では知らないが、同盟作りのためにルーラーハウスに向かうんだった。
ルーラーハウスのことは知らないにしても、それ以外のことくらいはキユリーであっても把握しているはずなのだが……。
だが、キユリーも忘れてはいなかったようで続けて口を開く。
「正直、武器の買い物を先にしたいんですよね。この国の管理者ってなんか怖そうじゃないですか?
マルバスさんにもお願いしたいんですよ。だから、エリゴルさんに頼みがあるんですけど」
「なんだよ?
キユリーの頼みなら僕は火の中水の中さ」
そう言って自信満々でキユリーの頼みを聞いてあげようと思っていた僕であったが、キユリーからの頼みというのは予想外の物であった。
「私がマルバスさんを説得している間に、エリゴルさんがちゃっちゃと同盟結んできてくれません?」
僕が1人でこの国との同盟を結んでくる……?
次は27日1時




