1①・朝の読み聞かせ+宣教師
───これは過去、現在、未来へと続く物語だ。
現在から未来を知るのが大半ではあるが、未来から過去を観ることもある。
現在から未来、未来から過去というように流れは規則性を保つことなく、時間はあらゆる時と干渉する。
ただ言えることがあるとすれば、これはとある大陸で流れ行く時間の流れの物語だ。そして、僕が大陸統一を彼女の側で見届ける物語でもある。
ここはどこかは分からない。
この世界なのかもしれないし、この世界ではないかもしれない世界。
そんな世界の東側にあったとされる『宝石の大陸トウエイ』。
この物語はそんな大陸にある1つの国、『モルカナ』という場所に1人の男がたどり着いた所からスタートする。
モルカナ……。別名・ガラスの国。
そこは異色奇妙な他国とは異なり、いたって平和な国。
ここに来た旅人が一番始めに見る物となるのは、レンガ作りのきれいな三角屋根のお家達で、きれいな芸術や建築が彼らを心の底から出迎えてくれるだろう。
国の名物はガラス工芸。
コップやステンドグラスなど、綺麗なガラス細工が目白押し。
“国の外観調査アンケート”では「美しい国だモルカナ」「ここに住んでみたいです!!」……なんて書かれて、“行ってみたい大陸内ランキング第4位”という栄誉も貰えるほどである。
そんな国を訪れる事になった1人の宣教師。
高台の丘からモルカナという国を遠目で眺めている青年───それがルイトボルト教新人宣教師『エリゴル・ヴァスター』。これが僕の名前だ。
この頃の僕はルイトボルト教という宗教を広めるための宣教師として、初めての仕事に期待と不安で心が踊っている。こんな外国に来るのは初めての経験。
新しい暮らし、新しい出会い……。
モルカナ……僕の宣教活動のキッカケになる国。
そんな風に思っていた時代が僕にもあったんだ。まぁ、純粋な時期があったのだ。
今の僕は宣教師ではなく1人の国民と化している。
初めの頃は僕だって、宣教師としての活動を率先して行っていたさ。
国にある小さな噴水の広場にて、僕は毎日毎日10分間……ルイトボルト教の教えを国民のみんなに語っていたのである。
一生懸命、一生懸命、一生懸命に!!
しかし、この国の国主は布教活動を許してはくれなかった。
この国はすでに他の宗教が根付いており、彼らにとっては僕は異教徒で異分子だったのだ。
本来なら、領主さんから国外追放を命令されても僕は反論できないのだろうが、彼は僕に対してそんな仕打ちを行うことはなかった。
その代わり、その国主さんの命令で、何度も何度も国の役人さんから御叱りを食らうはめになったのだ。
それでも、僕は小さな噴水の広場にて教えを広める活動を行う。
正直に言うと、もうこの国では宣教なんて出来ない。
なんて分かってはいたが、もうヤケクソ。
宣教師? 布教? そんなものはもう意味のない。
堕ちるところまで落ちた。宣教師の落第生といったところである。
まぁ、こっちとしても別に本気で布教活動したかったわけではない。
こうして、やる気に満ち溢れていた宣教師としての僕は死んだ!!!
それからというもの、近頃は意味もない布教活動が僕の日課になってしまったのだ。
ただし、前の時とは少しだけ違う。
今日もまた、町へと行くためにお城の前を通る。
そのお城はモルカナ城と呼ばれていて、立派なお城。
そのお城へと続く門前で役人さんが噂話をしているのを僕は発見した。
「おい、聞いたか?
我が国が魔王国と戦うために他国との同盟を考えてる噂」
「マジで?
うちに力かしてくれる国があるかな?」
今日も役人たちがお城の門の前で立ち話をしているようだ。
もしもこれが以前だったら、「どこへいく」「宣教師の活動?」「すぐやめろ」の三段重ねで即お叱りを受けるのだが。
「やあ、元気?」
今では僕が挨拶すると、手を振り返してくれるようになるまで親交が進んでいたのだ。
やはり、地道なコミュニケーションは大事である。
さて、今日も小さな噴水の広場にたどり着く。
すると、僕の話す神話を楽しみに待っていたのか、近所の男女20人ほどの子供達がちょこんと体育座りで座っていた。
彼らと僕はこの数日で生徒と教師のような信頼関係で結ばれているのだ。
「みんな、早起きだね~!!」
僕は遅れて来たにも関わらず、呑気に子供達に手を振る。
「宣教師さん。早く昨日の続きを教えてよ!!」
前から2番目の金髪の少女『パパズ』ちゃんが僕の話をせがんできた。
そして、その隣にいた三つ編みの女の子『シトレア』ちゃんも僕の話を聞きたがっているようで、僕にせがんでくる。
僕は人気者なのだ(神話を話す時だけ)。
「大悪魔vs双子の魔王の話はどうなるの? 三大能力者大戦はどうなるの?
ねぇどうなるの?」
この少女、マニアックだ!!
でも、神話の話と言うのに、ここまで子供達が興味を示してくれるのはなんだか嬉しいものである。
「もう布教なんてせずに執筆を行った方が楽な生活を送れるのではないか」と思ったが、僕は宣教師。そんなことは宣教師としてのプライドが許してくれない。
僕はただ、これからも布教という神話語りを話していればいいのだ。
「──それでは今日はその続きから話していこうか」
こうして、僕が聖書を開いて読み聞かせを行おうとしていた。
その時!!
この小さな噴水の広場に訪れる者が1人。
その者は黒き布に赤い線の入った羽織を着て、黒く長い長髪、その目は獲物を狩る狩人のように少し尖っていた。刀を懐に差している和服美人である。女侍だ!!
そして、そんな彼女の背中は憧憬を抱かれる者の背中であった。
彼女は僕がその存在に気がついた事を確認すると、ニコッと笑顔を見せてこちらへと近づいてくる。
「その神話とやら。オレにも聞かせてはくれないかい? 宣教師さん」
怪しい雰囲気をなびかせながら、こちらへと近づいてくる。
一般人が出さないような怪しいオーラを放ちながら、先の尖った靴の音をカツッカツッと響かせて歩いてくる謎の女侍。
俺という一人称を使う謎の女侍。
僕はこの数ヵ月間、噴水の広場で読み聞かせを行っていた時も、国民の人にお世話になった時も、一緒に朝まで飲み明かした夜も………。
こいつの姿を見たことはない!!
もしかして、旅行客であろうか?
いや、こんな奇抜なファッションの旅行客がいるとは思えない。
───ドッドッドッドッ。
不安と焦りで僕の心臓に心音が響く。
すると、彼女は地面に座って、子供達の頭を撫でながら再び口を開く。
「ほら、早く話せよォ?
ねぇ? みんな彼の話を聞きたいよね~?」
口調からは怪しい感じは全くないのだが、その目は何を見ているのだろう。怪しさ満載の眼だ。
こいつ、いったい何者なんだ??
この世界には付喪神というものがいる。
付喪神……それは物が100年たって魂が宿ること。
近年、人々は邪悪な付喪神によって平穏な人生を送ることができなくなってしまった。
しかし、そんな中、一部の人々のに付喪神の力をその身に宿し付喪神と戦う者が現れる。
その人々を皆は敬意を持ってこう言う。
付喪人と…。