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夕食はホテルの厨房からの出張サービスを依頼し、鈴佳と二人だけで二日遅れのクリスマスを祝った。まあ下ごしらえした材料を持ち込んで調理するだけだから、テイクアウトとかルームサービスのちょっと高級なのと思えば良い。中味はイタリアンという触れ込みの国籍不明料理だ。
有頭海老のパスタ・アメリケーヌソースには少し甘めのスペイン産スパークリング、豚とあさりのアレンテージョ風にはポルトガル産の若いワイン、白身の魚(鯛っぽいが沖縄産の他の魚かも)と蕪のカルパッチョ・グリーンソースにはイタリア・ヴィンチ村にあるワイナリーの辛口白ワイン、ラムチョップの炒め煮にはボルドーの赤という風に、片っ端からソムリエのお勧めをそろえさせた。
全部フルボトルなので当然飲み残しが出る、はずなのに鈴佳の奴が! ソムリエの為にグラス一杯分残せと言うのは、自分の身体のためでもあるんだぞ。
確かに俺が意図した通りではあるのだが、少し腹が立つ。矛盾してる?
デザートの頃になると、鈴佳は完全に出来上がっていた。俺は『ジェラートの生クリーム載せ』の甘さをエスプレッソで洗い流しながら、撤収のために片付けを始めた厨房のクルーに心付けを渡した。
サービス用の電動キッチン・カーみたいのがあって、ヴィラ・スイートの側に横付けされている。その中には調理用のIHのコンロやオーブンばかりでなく、エスプレッソ・マシーンまで完備されているんだ。ちなみにそれぞれのヴィラには、専用の外部電源端子が設置されている。
彼らは雰囲気を壊さぬよう物静かに、使用済みの食器や空き瓶を運んでいる最中だった。
手渡されたチップと酔いつぶれている鈴佳をチラ見したクルーたちは、そこからは超特急で後片付けを終わらせ、引き上げていった。
「まったく、この呑兵衛め!」
俺はそう呟いて鈴佳の服を全部脱がせ、ベッドまで運んだ。
こいつはどれだけ飲んでも、次の朝はケロッとしている。まあ、大丈夫だろう。ベッドサイドのテーブルに氷を入れたワインクーラーを置き、中にペリエを三本突っ込む。スクイズキャップのやつだ。
外は少し冷えてきたようなので、ジーンズとTシャツの上にジャケットを羽織る。カウスエードのローファーを足に突っ掛け、俺はスイートを出た。
構内の通路は、テニスコートの全天候型舗装みたいな踏み心地だ。その道をたどって、海から離れる方へ歩く。所々に照度を抑えた照明が配置されているので、足元に不安は無い。
ずんずん歩いて行くと、やがて照明と舗装が途切れ、雑木が茂っている場所を抜けた。低い尾根を越える。その向こう側にまたある浜は、星空が綺麗に見えた。
砂浜に降りて周囲を見廻す。人影は無い。これが師走の肌寒い時期でなけりゃ、人目を避けて星空の下であれやこれやをしたいカップルが、どこかに寝転がっていてもおかしくない。でもいくら沖縄でも、クリスマスの直ぐ後に青カンする奴はいないだろう。
「IL(In Loca)」
俺はスマホを取り出し、短いメッセージを送った。
北の空を見上げる。星空を切り取る黒い姿が、上空から段々近づいて来た。
「周囲ニ人影無シ。着陸シマス」
黒い影が覆い被さるように降りて来た。結構な大きさだ。
砂浜に着地……、しない。したら、大きな跡が残るからね。下の砂地から十センチ位の隙間を空け、浮かんでいる。
「海側ニ廻ッテ下サイ」
ぐるっと廻って歩いて行くと、どん亀が心話で、この小型艇(!)の概要を送ってきた。
空飛ぶ円盤型短艇。直径一六m、全高七m。上部コックピットの天井高二m、貨物室の天井高二・五m。
上部コックピット六箇所に、機外観測用の丸窓あり。貨物室容量一一八㎥、有効積載量一六二t、空虚重量三三t。AIによる全自動操縦。垂直離着陸。
巡航速度マッハ〇・八八(高度一八〇〇〇m)、最高速度は第二宇宙速度以上(対流圏内では境界面制御技術を利用しマッハ一五)。
宇宙空間での生命維持・簡易生活環境装置、バルーン型(拡張)エアロック、光学・電磁迷彩装置、通信機器、牽引光線、障害物排除用レールガン、等完備。
何に使われるのか分からないが、底の曲面に直径二メートル位の球体が、等間隔に三つ、くっついている。
その内二つの間の部分が、幅二メートル程の長方形にウィーンと開き、傾斜路になった。
そこを航空貨物で利用されるのでおなじみのULDコンテナが、滑るように降りてくる。多分牽引光線を使って動かしているんだろう。傾斜路必要?
砂浜に八個のコンテナが並んだ。外寸が一五六×一五三×一六三(㎝)、内容量三・八(㎥)、自重一二〇(㎏)、自重を含んだ重量制限一五八七(㎏)の航空ULDコンテナLD-三だ。
「三個ノこんてなニハはしぶとがらす型、二個ガ燕型、二個ガ雀型、一個ニ昆虫型ノぼっとガ収納シテアリマス。出撃サセテ良イデスカ?」
「えっ、ここから? 空中から投下でよくない?」
「出撃許可ヲ願イマス」
「?」
「願イマス!」
「き、許可する」
「了解。許可アリマシタノデ、作戦ヲ開始シマス」
何の作戦なんだ? 俺のそんな疑問を他所に、全てのコンテナの扉が開く。航空コンテナには自動で扉が開く仕掛けなんか無かったはずだ? あ、牽引ビームか!
するとバサバサバサッと、カラスの黒い姿が飛び出し、群れを成して飛び上がるのが見えた。続いて燕と雀の群だ。こりゃあ、昼間だったら大事だぞ。絶対誰かが見つけて騒ぎ出す。
最後はブブーンという地響きのような音を立てて昆虫の集団が飛び立って行った。
「おい、どん亀、これは何なんだ? 作戦って?」
「限定サレタ地域ヘノぼっと類大量投入ニヨル、非顕在的管理ノ試ミデス。実験的作戦ト言エマス。宮古島市ノ人口ハ六万足ラズ。外来者・観光客ヲ含メテモ十万ニ至リマセン。今回投入シタ昆虫ぼっとノ数デアレバ、一対一ノ対応ガ可能デス」
「在島者全員に対して、一対一の監視網を布くっていうことか? まるで、大きなお友達じゃあないか!」
これじゃあ旧東ドイツの秘密警察・諜報機関スタージも裸足で逃げ出すレベルだ。もっとも、情報は集めるだけでは意味が無く、分析が必要だ。
「で、何をするんだ?」
「取リアエズ、橘優奈ヲ見ツケマス」
「ビッグブラザー」は言わずもがなですが、ジョージ・オーウェルの小説「1984」に登場するあれ、です。
なお、短艇の情報については設定資料を『みてみん』においてあります。興味がおありの方は、「野乃たんぽぽ」で以下の検索を。
短艇設定資料20200620
ただし子どもにのお絵かきレベルですので、自分のイメージを壊したくない方は、手を出さないようにしましょう。すべて自己責任でお願いします。
見てから「ひどい!」とか、言わないで下さい。 2020.06.28. 野乃




