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◆07◆

 大金(俺にとって)が入ったので、都会でいろいろ贅沢しようと構えていたのだが、自分の正気に自信が持てなくなった俺は、尻尾を巻いて家に戻ることにした。


 え? 秋田市は都会だよ。まあ俺が今住んでるところに比べれば、どこだって都会だろうけど。新幹線で首都圏に行けって? まあ、そのうちね。


 家にたどり着いた俺は、薪ストーブ用の薪作りの作業が中途半端なままなのを思い出し、作業を再開することにした。着替えて道具を準備し、エンジン・チェーンソウを担いで裏山に登ろうとしていたら、どん亀が心的通話テレパシィ(で、いいんだよね)で話しかけてきた。


「ソノ機械デ、何ヲシヨウトシテイルノデスカ?」


「薪を作るんだよ。最低一年は乾燥させないと、いい薪にはならない。だから先延ばしにはできないんだ」


「そーらーノ電力デハ不足デスカ?」


「冬は日照時間が短いしね。それに薪ストーブの方が暖かいんだよ」


「オ手伝イ、シマショウカ?」


「お、それはありがたい、ぜひたのむ」


 俺は牽引光線トラクタービームで倒木を引っ張ったり、玉切りした丸太を運んでもらうことを考えていた。


「ソノ機械ハ効率ガ悪ソウデス。コレヲ使ッテクダサイ」


 どん亀が転送してきたのは、長さ三十センチ弱で断面が楕円形の、棒のような物だった。で、これは、まんまビーム・サーベルだった。


 つかにあたる部分は、握ると少し弾力のある手応えで、掌にしっくり馴染む。例の指輪に同調していて、俺以外には使えないという。両手又は片手で持って構えると、刀身がヴォーンと光って姿を現す。ただしこれは、使う時分かりやすいように表示しているだけで、見えないまま切ることもできるようだ。


 『不可視の剣』なんて、厨二病の武器そのものだろう! 喜ぶべきなのか?


 刀身の長さは可変で、十メートル程まで伸ばせるが、俺はやらない。コントロールできる自信が無いからだ。下手に振り回したら、周囲の物をバラバラに斬り刻む自信がある。


 実際は柄の先端から伸ばした単分子ワイヤを超高速で振動させている()()で、視覚効果は見掛けだけ(ギミック)だそうだ。もっともこれが無いと、どこに刀身があるのか分かりづらく、使いにくいし危険でもある。


「先端部ノミ表示サセルコトモデキマス。ゼヒオ試シクダサイ」


 そんな機能、何に使うんだよ? 暗殺か? え、暗殺か?


「万ガ一ノ必要ガアルカモ知レマセン」


「あって欲しくないよ!」


「備エアレバ患イ無シ」


 何に備えさせようというんだ?



 まあ、道具としては便利な物で、ほとんど手応え無く大木でも岩でもスパスパ斬れる。ただ心配なので、自分の身体は切れないように、安全装置を追加してもらった。


 このビーム・サーベルとどん亀の牽引光線のお陰で、一週間もかかるだろう仕事が、半日で終わってしまった。


 手頃な樹を五本ほど切り倒すのも、その枝を打ち払うのも、二時間もかからずに終わってしまう。


 何しろ樹を選んで倒す方向さえ決めてやれば、後は切れ目を入れればいいだけだ。どん亀が空から牽引光線で支えているので、倒れる前に逃げる時間はいくらでもある。適当な空き地に運ばれて、横たえられた樹の枝を切り落とす間も支えてくれているので、どこかを切断した結果、樹体が暴れ出すおそれも無かった。


 それで太い幹、太い枝、中ぐらいの枝、末端の枝に仕分けて、長さと方向を揃え積み重ねておく。夜になって暗くなってから、どん亀に家の裏まで、牽引光線で運んでもらった。


 次の日長さ一尺半に玉切り。その後太さに応じていくつかに割る。去年は叔父が遺してくれた北欧G社製の薪割り斧を使っていた。斧刃はスウェーデン鋼製で二キロの重さがある。一応初心者向けとされているが、半端な力では十分振り上げることができず、何本か割るだけで汗が噴き出してくる。思った通りスパッと割るのは至難の業だ。


 ところがビーム・サーベルを使うと、薪を割るのではなくちょっと固めの豆腐を切るようなものだ。唯一気を付けねばならないのは、置き台に使っている切り株まで切ってしまわぬよう加減しなければならないことであった。


「ありがとう、どん亀。お陰で薪のストックはバッチリだ」


「備エアレバ患イ無シ」


 単に言ってみたかっただけのようだ。


 俺は付近(と言っても、車で三十分ぐらいかかる距離だが)の廃業農家から、不要になった単管を安価で譲ってもらい、それで薪小屋を増設した。単管というのはご存じの方も多いと思うが、建設現場で足場を組むのに使う直径五センチ弱の鋼製パイプのことだ。


 この単管の規格に合った多様なクランプやジョイントなどがあり、簡単に丈夫な構造を組み立てることができる。この構造の上にツーバイ材で作った枠を木ねじで固定し、ポリカ又はトタンの波板で屋根をかける。今回、これだけは新品のポリカ波板をホームセンターから買ってきて、傘釘で枠に留めた。


 薪小屋を増設したのは、去年より多くの薪が出来上がったからだ。叔父は誰かに手伝って貰い薪を作っていたようだが、そのつても俺には無い。おまけに冬中ずっと薪を焚くだけストックしていたわけではなかった。残されていた分の薪では足らなくて、この前の冬寒い思いをした。


 ただし今回作った薪では、この冬までに乾燥が十分ではなく、燃えが良くないことになるだろう。


 そこまで考えた俺は、灯油ストーブの購入を決めた。俺の性格として、増えた収入を酒や女に費やすなどということをしても、楽しむことはできそうもない。それぐらいなら住環境の改善に使った方が、後で後悔しないで済むような気がしたからだ。



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