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俺と鈴佳が泊まるリゾート・ヴィラには、各棟ごとに専属コンシェルジュなるものが配置されていて、その棟の利用者の要望に何でも応えてくれる。
うーん、これ、部屋付きのバトラー・サービスとかメイド・サービスと、どう違うんだろう? 鈴佳に聞いても、また適当な説明をされるだけだろうしな……。
で、コンシェルジュの女は、鈴佳が俺の正式なパートナーじゃないと聞いて、一瞬目で誘ってきた。え? 俺だって最近は余裕ができて、そういうの分かるようになってきたんだよ。
当然、いきなり押し倒したりはしない。必要があれば一歩一歩手順を踏んで、相手の意思を確認する。必要があればね。
単なる遊び相手としては、鈴佳よりこの娘の方が面白いかもしれない。左手にも指輪の痕跡は無いし、一夜の相手としても楽しめそうだ。
今のところ予定に入れるつもりはないが、今後どうなるかは分からない。保留というやつだな。
「ねえ。専属のテニスコートもあるんだって」
鈴佳、お前テニスなんて、やるの? 最近はどん亀のアプリで強化されたお陰で、かなり改善されたけれど、俺は身体を激しく動かすことが苦手だった。特にヤリサー系のテニスとかの人間には、大学時代もできるだけ近づかないようにしていた。
「十棟に対して三面ですので予約が要りますが、コーチング・スタッフをお相手に呼ぶこともできます」と、コンシェルジュが付け加えた。
ええっと、この女、何て言う名前だ? 俺は胸のネーム・プレートを確かめる。
「謝花さん、だっけ?」
「はい、謝花桃花と申します」
おう、末尾が花揃いだけど本名か?
「専属コンシェルジュって、部屋付きのメイドさんってこと?」
「私はこの棟の管理責任者でもありますので、スタッフの力も借りて、ここに宿泊される方の要望にお応えするのが仕事です」
あー、管理人なんだ。スタッフがいるってことは、中間管理職なのか? 係長扱い? 二十四時間対応みたいだけど、名ばかり管理職じゃないだろうな? ちゃんと時間外手当貰ってる?
にっこり笑って受け流す女に、俺が余計な心配をしつつ考え込んでいる間に、鈴佳が質問する。
「ねえ、アロハ売ってるとこ教えて」
「隣接するホテルのショップにもございますが、専用の店をご希望ですか?」
アロハかぁ、俺も着ることになるのかなぁ? 熱心に話し込む二人を眺めながら、俺はぼんやりとしていた。それでいつの間にか、ホテルのショップで取りあえず一着ずつ買い、次の日に本島、那覇の専門店まで出かけるスケジュールが組まれていた。
沖縄本島から宮古島まで約三百キロ、那覇との間は空路で片道五十分間前後のアクセスだ。午前中早くの便に乗れば、日帰りも容易である。
十二月の沖縄は暑くない。街はクリスマス気分だが、無論雪などは無いし、日中風が無いとTシャツで過ごすこともできた。あれ、やっぱり暑いのかな?
今頃北日本は積雪がある場所も多い。そっちから来た人間には薄着の気候に思えるが、地元の住民はウィンド・ブレーカーなどを着込んでいるのが多い。確かに北風が吹くと少し肌寒いか。でも晴れると暑くって、俺は海に入りたくなった。
那覇空港からハイヤーに乗り、買い物に出かける。街にはサンタやトナカイの装飾が目立った。陽はまだ高いけど、今夜はクリスマス・イブだ。
「お買い物、お買い物」
鈴佳はるんるん気分である。買い物するのが嬉しいらしい。こいつには旅行前にお小遣いを渡してあるんだが、やっぱり俺に買わせる気? まあ、クリスマス・イブだから期待しているか。こりゃあ、アロハだけじゃ済まなそうだな。
結局「アロハだと腕が寂しいから」という理由で宝飾店に入り、純プラチナ喜平のブレスレットをペアで買わされた。デザインは同じだが俺の方が太くて、当然重い。俺のは二十グラムで、鈴佳のは十二グラムである。俺の方の値段が高い訳だが、鈴佳に言わせると「それはいい」というか、「それがいい」そうだ。分からん。
アロハはデザイン物だ。専門店でオリジナル・デザインのワンシーズン一点物というやつを買った。ハイビスカスやパイナップルと沖縄っぽいプリントである。鈴佳が自分にオフ・ピンク、俺にオフ・ブルーの同柄を選んだ。
鈴佳は俺に散財させるのを楽しんでいるみたいだ。前に俺はどん亀に、金を遣うことは楽しいと言った。でも鈴佳のは、それとちょっと違うように見える。
鈴佳も俺と同じように、いやそれ以上に、金銭的には恵まれなかった。傷つくのが怖くて見栄を張っても、肝心のものが無いので結局見栄を張り切れない。足元がぐらぐら揺らいでいる中での不安が、あの他人に対する不快な態度に繋がったのだろう。
鈴佳は今、俺が金を持っているのを知ってる。通帳の数字を見せた訳では無いが、「億はある」と言ってある。
金に困ることは無い。それは鈴佳にとって、大いなる平安の元だ。それならちょっとぐらいの我慢や頑張りが必要なことは受け容れられる。訳の分からない指示や命令も呑み込める。これって一種の宗教とか信仰に近いんじゃなかろうか?
天気が良かったのでホテルのショップで買ったアロハを着て来た。正解だった。風が無く暑い。
鈴佳が塩味のソフトクリームを奢ってくれた。宮古島で塩を作り、沖縄中の塩を集めて売っているという店だ。四百円のソフトを俺に奢る鈴佳は、嬉しそうだった。ペアで三十万以上するブレスレットを買わせたお礼だと、恩着せがましく言った。
それから鈴佳は、地元限定のコスメショップで、ハンドソープやらバスソルトやらを買った。昼になって腹が減ったので、俺たちは行列に並び、混ぜ麺を食べた。買った商品を持ち歩いていたので、宅急便にするべきだったと後悔する。どん亀のアプリで体力が付いていたせいか、荷物持ちもそれほど苦ではなかったのだが。
でも平和通りを歩いて最後に「やちむん通り」とかいう所に着き、そこで鈴佳が買い漁った陶器を持ってみると、さすがに重かった。いや、持てはするよ、だけどねえ。
直ぐ引き返して、宅急便で家に送って貰うことにした。
それから「ゆいモノレール」の牧志駅まで歩き、それに乗って那覇空港に向かった。漫湖と言うちょっとHな名称の干潟の側を通過する。十二月なのに夏っぽい景色を眺めながら、俺は疲れと共に妙な充実感を抱いていた。
「休暇というのはこういうものなのか」という思いだ。就職した初年度には、研修と称する職員旅行に無理矢理参加させられた。高校一年の旅行行事にも一応参加している。だが人間関係の薄かった俺には、学校や職場と違う場所でただ時間が過ぎただけだった。
因縁があって鈴佳が俺の所に押し掛けて来たのは、俺にとって幸運なことだったかもしれない。
コンシェルジュが予約を取っておいてくれたので、帰りの便にも余裕で乗れた。座席でベルトを締めた鈴佳は、俺にもたれ掛かると直ぐに寝てしまった。そして俺もぼーっとして、一時間弱のフライトを眠って過ごそうとしていた。
だがその時、俺は遠目に見てしまった。前方の搭乗口から忙しない足取りで入って来てバッグを荷棚に押し込む、橘優奈の姿を。
Femme fatale!
「さ・い・や・く・の・お・ん・な」、フェム・ファタァル再登場でございます。
乞うご期待!
2020.06.14. 投下! 野乃
追伸)別件ですが、「H」は「HENTAI」のHで、合ってるんでしょうか? 野乃




