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◆22◆

 俺は二十八歳、だ。結婚歴無し、彼女無し、離婚歴も無し。現在も過去も付き合った相手はいない。当然子どもなんて、無いよな?


 いや、童貞ではない。OJTのチューターだった先輩に、そういうお店に何度か……ごにょごにょごにょ……まったく、面倒見の良い先輩だった。俺の対人関係(特に女性に向けての)を心配してくれ、「一皮むけろ」と……うっ。何言ってんだ!


 しかし俺二十八だよ! 繰り返すけど!


 改めて今回の依頼品を……じゃなくて、この突撃して来た女を見てみよう。こいつ、どう見ても十八以上、ひょっとすると二十歳超えているだろう。いや、ちょっと童顔かもしれないが、十六より前はあり得ない。


 いくら何でも、俺が十二歳頃の子どもって……無理筋過ぎる。


「何かの冗談? お前、誰?」


 俺がもう一度、そう尋ねたのは悪くない、絶対悪くない。


 ところがそれを聞いて女は、じわっと涙を浮かべて見せ、声を上ずらせた。


「酷い! あれだけ何度もあたしに『お父さんて呼べ』って言ったじゃない! そりゃあ、あたしとは血は繋がってないけど、あれって嘘だったの?」


 血は繋がってないんかい! じゃあ、無関係じゃないか!


「も一度聞く! お前は誰だ?」


「あ、そうか! 誠次さんと最後に会ったの、あたしが中一の時だもんね。分かんなくとも仕方ないか。あたし鈴佳よ! 憶えてるでしょ」


「中一?」


「七年前だから……そんなに変わってる?」


「鈴佳?」


「風間鈴佳です。風間玲子の娘の。……まさか、ママのことまで忘れたって言うんじゃ……」


 中一が七年前なら、今こいつは十九歳前後のはずだ。それにしても、()()だと!


 こいつが俺を誰と間違えているのか分かった! 誠次叔父だ! 


 だが、七年前の叔父は五十代半ば過ぎだ。今生きていたとしたら、六十代じゃないか!


 俺って、そんなに老けて見えるのか?


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。あの時は、あたしも子どもだったの! そ、その、ママをあなたに取られるような気がして、どうしてもママの気持ちを考えることなんかできなくて、あなたを受け入れられなかったの!」


 俺が何と言って良いか分からなくて、沈黙を続けていると、女はおっ被せるようにそう続けた。あ、これは駄目な奴だ。相手のことなんか見てない。


「だから、あの、あの、あの、ママが死んじゃって、その、死ぬ間際に、いろいろそれまで話してくれなかったこと、話してくれて……それで、誠次さんに会いに行けって言われて……」


「死んだ?」


「び、病気だったの。膵臓癌で、見つかった時はもう転移があって、もう緩和療法しかなくて、し、四月に……ほ、本当にあっという間だったの。あ、あたしは誠次さんを呼ぼうかって聞いたのよ。でも、その時はママ、癌が進行して、酷いことになってて……こんな姿を見られたくないって……」


「なるほど」


「ママが死に際にあたしに、誠次さんに相談に行きなさいって……」


「相談?」


「あたし、この春に大学に入学する予定だったの。だから就職とか考えてなくて、それが卒業前にママが入院して、合格通知貰ったけど……入学金も、学費も払えなくって……」


 ん? もう十月なんだけど! こいつ、今まで何してたんだ?


「まず、はっきりさせておく。俺は岡田誠次ではない!」


「はっ?」


 女は、いやもう鈴佳と呼ぼう、鈴佳は最初きょとんとした表情になった。それからインターホンの上の辺りにある表札を見上げ、口を尖らして言った。


「いや、でも、ここに岡田って書いてあるし!」


「お前、何を見ている!」


「表札!」


 怒ったように応えるその態度を見て、俺も大概だがこいつはそれ以上だと呆れた。


「見るのは俺の顔! 俺は誰だ?」


「え、誠次さんでしょ」


 確かに誠次叔父と俺は血が繋がっているから、容貌が似通っていると言われれば、そう言えないこともない。だが七年前と言うと叔父は五十八・九になっていたはずで、俺の見掛けがそんなに老けているはずはない。ないよね?


「えっと、違う人?」


 俺が頷くと鈴佳は目を白黒させ、顔を真っ赤にして、それから挙動不審になった。右手と左手の場所が定まらない。忙しい奴だ。


「じゃあ、誰?」


「俺は岡田英次、岡田誠次は俺の叔父だ!」


「そうなの? じゃ、誠次さんはどこ? あなたは何でここにいるの?」


「俺が俺の家にいておかしいか?」


「だって、タクシーを運転していた人も、この家は一人暮らしだって……」


 あ、タクシーは俺も何度か利用したし、田舎では個人情報が知れ渡っているのは普通のことだ。


「叔父は二年ぐらい前に亡くなった。だからこの家で暮らしているのは、俺一人だけだ」


 声も出ないって表情で、鈴佳は俺の顔を見上げている。はー、この女、何を考えてここまでやって来たんだ?


 ヒロイン候補(?)やっと登場でございます。「『どん亀』は?」と聞かれても、性別不明(!)としか、お答えできません。母ちゃんぽい言動をとっているので、確かに怪しくはあるのですけれど。

 今後の展開にご期待下さい、と書いて、話が進む速さどうなるのかなっと、心配しております。今回は、無理矢理終わらせるのは避けたい、そう思っております。 野乃

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