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◆14◆

 一週間後、テレビ二台が納入される頃には、九月の声が聞こえてきた。


 ビニールハウスの中の土作りも終わり、俺はホームセンターから半値で買ってきた、売れ残って伸びすぎているトマトとキュウリの苗を植えた。ハウスの外の畑には、前から植えてあったトマト、キュウリ、茄子、セロリ、長ネギが、それなりに大きくなって並んでいる。


 なにしろ素人なので売り物になるような物は作れないが、完熟してから収穫するトマトは、スーパーに並んでいる物よりずっと濃い味である。


 俺は相変わらず、毎月どん亀から『お手当』を貰う、ヒモのような生活を送っていた。


 今までと違ったことと言えば、テレビを視るようになったことぐらいだ。有機ELで見る大画面の四K放送は、感動するくらい鮮烈だった。



 まだ暑いその日、俺は成長して伸びすぎたトマトの支柱に沿って誘引するための紐を一度解き、下部のもう葉枯れしたところを地面まで引き下ろす作業をやっていた。大玉トマトの茎は放置すると、どこまでも先に伸びて始末に負えなくなってしまう。もう実を付けなくなった下の部分を引き下ろし、再度支柱に結びつけるこの作業は地味に面倒臭いんだ。


 汗を拭き拭き裏口から入って、土間の洗い場で手と顔を洗った。それからリモコンでテレビを点ける。


 番組は昼のワイドショーの途中で、最近各地で未確認飛行物体ユーフォーが目撃されている話題を取り上げていた。この局の番組は何だか態度の大きいオッサンがMCで、そいつがあまり好きではない俺は、テレビの方を見ずに内容を聞き流していた。


「えっと、これが旅客機の窓から撮影されたユーフォーの写真で、いいんですか?」


「最近のスマホは性能が高くて、良い写真とれますネェ」


「それにしてはボケてませんか」


「いやあ、これで十分でしょう」


「ユーフォーの背後に積乱雲がありますが……動画は無いんですかネ?」


 司会者の背後に置かれた大型ディスプレイに、旅客機の窓とその外の翼の向こうに見える何かの画像が映るが、何だか分からない灰色の物体にしか見えない。


「フェイクじゃありません」


「確かに本物らしいです」


「何かパッとしない形のユーフォーですね」


「まるでお釜みたいな」


「のっぺりです」


 元アイドルだったはずの、中途半端に若い女が舌足らずな口調でコメントしたとこで、そっちをちら見した。冷蔵庫で冷した麦茶を、サーバーからマグカップに注ぎながらだけど。


「それでこちらは北海道の黒岳に登山した方が撮った写真です」


「あ、これは同じ物だ。色も同じグレーだし。不格好だなあ」


 準レギュラーの出演者である太った芸人が、縁の太い眼鏡を指で押さえ、いかにも分かったふうに貶してみせる。頷いた司会者がそれを受けコメントした。


「大きさは分かりませんが、石油基地にあるタンクみたいじゃありませんか?」



 そこで俺は、思わず画面を見直した。マグカップをテーブルに置いてテレビの側まで行く。



「おい、どん亀! これ、お前じゃないか!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その時俺はキレて、怒鳴っていた。


「どん亀! そこに正座!」


 無論どん亀の本体はここには居ない。だが、何時でも何処でも話しかけてくるどん亀は、今では常に傍に居るようにしか感じられなかった。


 本人(?)申告によれば、太陽系のどこに居てもリアルタイムでアクセスできるという。だが俺にとっては、常にどちらかの肩の直ぐ後ろから俺のやっていることを覗き込み、俺の言動に茶々を入れてくるウザい存在以外の何者でもない。


 だから俺は、どん亀の奴は何時でも俺と一緒に行動している、みたいに思い込んでいた。


「何で俺の知らないところで、コソコソやっているんだ!」


 これは質問ではなく詰問であり、腹立ち紛れの罵声に他ならなかった。


「何で姿を見られるような迂闊なことをしたんだよ!」


「航空自衛隊とかにミサイルで攻撃されたら、どうするんだ!」


「おい、何とか言えよ!」


 肩で息をしながら、自分の理不尽な激昂に、心の片隅で疑問を感じていた。どん亀は沈黙を守っている。


「おい……居るんだろう。何とか言えよ……聞こえてないのか?」


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