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◆12◆

 どうやら、あれより小さい発電装置が「余ッテイナカッタ」らしい。


 それなら仕方ないね?


 どん亀は今、地下壕に設置した中継装置を介し、俺の家まで引かれた光回線を使ってネットサーフィンしまくっている。


 今まで傍受一辺倒だったのが検索も可能になったことで、人類文化の調査が飛躍的に進展しているらしい。つまりアップロードできなかったってこと? それでネット利用してた?


 あれだけすごい能力を持っている奴だから、当然その辺の問題もクリアしているものと思えば、実は変にポンコツな所があるんだ。


 俺の家は魔改造によってだんだん秘密基地化してきた。


「万が一何かでバレて、当局(?)の捜査が入ったらどうすんだ? これ?」


「大丈夫。チャント自壊装置ガ設置シテアリマス」


「自爆装置?」


「イイエ、『自壊』装置デス。爆発ハシマセン」


「そうか、それなら安心だな、って、そんなわけないじゃん! 家が壊れたら住むとこ無くなるじゃないか!」


「ソノ時ハ、ワタシノ中デ暮ラシマセンカ。絶対安全デスヨ。今カラ準備シテオイテハ?」


 嫌だ、お前の中狭いんだもの。


「中ノ設備ヲ移動シテ、すぺーすヲ作ルコトニシマス。ドウデス、新シク家具ヲ買ッテ、住環境ヲ整エテオイテハ?」


 何だよそれは? ひょっとしてお前、俺のことペットのハムスターか何かみたいに考えてないか? その勧誘はペットショップからの『お迎え』のつもりか?


「ソンナツモリハ、アリマセン。ナンナラ、アナタヲ『ますたー』ト呼ンデモイイデスヨ」


ご主人様(マスター)ね。いいだろ、呼んで貰おうじゃないか」


「ますたー」


 うー、何だか嘘くさい!


「ますたー」


「よーし、今後は俺が『ご主人様』だからな」


「ハイ、ますたー」


「ふん、それじゃ、食料ぐらいは念のため運び込んでおこうじゃないか」


 こうして俺はツンデレになった……うー、気色悪い。




 どん亀はどこからか大量の砂利と土を運んできて、例の不整地を均し高低差を無くした。石垣は俺が、県外の廃業した石切場に忍び込んでビームサーベルで切り出し、どん亀がそれを運んで積み直した。


 完成してみると内側の敷地面より石垣の方が六十センチほど高くなって、その部分が周囲を囲む石塀のようになっている。


 今は夏の終わりなので、灯油タンクは三基とも満タンだ。だから灯油を配送するタンクローリーもしばらくは来ない。この家には郵便の配達も通販の品物を持ってくる宅急便の車もめったには来ないから、家やその周辺の様変わりに気付く人間はいなかった。



 敷地の東側にある十坪の家庭菜園の近くに、六坪ほどのビニールハウスを建てた。骨組みになるパイプハウスの鉄パイプは、雪害対策の支柱なども含めて、近所の廃業農家から格安で譲って貰ったものである。全体を覆う透明のビニール・フィルムの方は、新品をホームセンターで買って来た。


 このハウスの建設だって、本来は一人でできるような作業ではない。だが俺はズルをして、どん亀に手伝って貰って造り上げることができた。ハウスの地下に発熱体が埋めてあり、冬でも作物の栽培ができる予定だ。


 車庫兼用の納屋やその前の車廻し、家の周囲と通路の地下にも、発熱体を埋めた。これは雪が降った時、できるだけ除雪をしないで済ませるためだ。当然整地をした時敷地内に設置した排水溝にも、発熱体を配置してある。降った雪を溶かしても、排水溝が凍ったら溢れてしまうからね。




 この県では七月盆が普通なのだが、月遅れで八月下旬に旧暦盆を行っている地域もある。県道を下った盆地の村落もその一つで、近くまで車を走らせていくと神社に祭りののぼりが立てられ、祭り囃子が聞こえた。


 俺は町場に出て、スーパーで食料品を買い込むついでに、家電と家具の量販店を見て回るつもりだった。冷食を持って帰るため、大型のアイスボックスを二個積んである。


 現在家にある家具と同様、このアイスボックスも叔父が遺していった物だ。多分俺と同じで、食料品の買い出しに使っていたのだと思う。


 俺はまず家電量販店で大型の液晶テレビを下見することにした。


 特定の番組を毎日視るというような習慣の無かった叔父が家に置いていたのは、古い三十二インチの液晶テレビだった。ひとつ大きめのいいやつを買ってやろう、そう言う意気込みで店内に入った俺は、展示されている製品の余りの多さに、最初からわけが分からなくなってしまった。


 なにしろ大画面のテレビになると、同じサイズで値段が四・五倍違うのがある。確かに値札に書かれた価格が高い方が綺麗な画像であるように見えるけれど、値段ほどの違いがあるかというと、俺には何とも言えない。


 売り場の店員があれこれ説明してくれても、俺にはほとんど理解の外だ。


「できるだけ大きくて、画像の綺麗なのが欲しいんだけど……」


「皆様そう言われますが、どのぐらいの広さのお部屋に置かれますか?」


 俺の服装を見定めながら店員が尋ねる。夏場でもあるし、新しくないTシャツに汚れたジーンズ、仕事用の安全靴。あまり金持ってるようには見えないだろうな。


「ダイニング・キッチンが十五坪で、その内土間になっているキッチン部分が半分だから、ダイニングは十五畳かな。リビングは二十二畳だね」


「ずいぶん広いお家ですね!」


 店員がびっくりした顔をしてそう言った。


「ああ、元農家だからな。家だけは無駄に広いのさ」


 叔父は受け継いだ家屋を建て直す際、規模を縮小することは考えなかったみたいだ。退職に当たり、連れ子のある相手と結婚するつもりだったとも聞いた。ただ相手の家族に、そんな僻地には行きたくないと拒否され、破綻したらしい。


 叔父にとっては、祖父から受け継いだ思い入れの深い土地だったのだろう。俺には曾祖父に当たるその人との思い出を、何度か聞かされたことがある。引退後はそこで余生を送るのが、叔父の計画だったのだ。


 ただ中学生だったというその子どもにしてみれば、何が悲しくてそんな山奥で暮らさなければならないのかと、絶対拒否を貫いて当然だろう。アルプスの少女じゃあるまいし。


「えーと、ご予算はいかほどで?」


「そうだな、ダイニングとリビングに一台ずつ。その二台と、テレビ台その他全部合わせて百万以内ってとこか。あ、運搬と設置は頼めるよね。車で一時間ぐらい掛かるんだけど」


「勿論でございます。あの、アンテナ設備とかは?」


「建て直してから六・七年だから、そっちは大丈夫。衛星アンテナも付いてる。あと現金で支払うから、勉強してね」


「はい、はい、それはもう。精一杯値引きさせて頂きます」


 結局、「お部屋に適した製品をご紹介いたします」と言い出したその店員が、次の日俺の家まで来ることになった。商売のチャンスは逃したくないけど、本当に代金を支払ってくれそうか確かめたい、と言うのが本音かな?


 その後ちょっと家具を見てから、大量の冷凍食品やら缶詰やらをスーパーで買い込み、俺は家へ帰った。



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