◆11◆
次の朝仙台を出て、また七時間位かけて家に戻った。軽自動車で高速は疲れる
スーツを普段着のポロシャツとジーンズに着替え、床に置いたビジネスバックを眺める。そこには二回の遠征(?)で現金化した、五百万余りが入っている。
遠征(?)では、ガソリン代とか高速料金、ホテル代や食費それと土産代(自分にだ)なんかに二十万くらい使ってしまった。これって必要経費(?)だよね。
あー、俺は何言ってるんだ! 別に領収書を提出する先があるわけじゃなし、必要経費って……
俺は今のところ、金の亡者にも、ハーレム・ヒャッハーにも、世界征服目指す何かにも、なれないらしい。俺は何をすれば良いんだ?
取りあえず、毎月くれると言う五百グラムの金は貰っておくとして、そんなに急いで現金化する必要もない。だって出所を追及されさえしなければ、自由に使える五百万ほどの現金がもう、手元にあるわけだから。
当面生活に困ることは無いだろ。まあ、来月は気晴らしも兼ねて、東京に出てみよう。それとも大阪か名古屋がいいかな?
運転は疲れるから、今度は新幹線にしよう。あ、どっちみち秋田までは車か。
さて、当面の運用資金(?)は確保できたので、俺はどん亀の提案に乗って家の魔改造計画に着手することにした。
元々俺の家の基礎は、大きな鉄筋コンクリートの箱に隙間無く砕石を詰め込んだような構造になっている。基礎の地上に出ている部分は一メートル弱で、地下部分も一メートル位、だと工務店の主人が言っていた。
家の敷地は緩斜面に石垣を積んで、その内側に土盛りすることで造成されており、これは元々の牧場時代から長い年月を掛けて少しずつ広げられたものらしい。
それでまず、どん亀の指示に従ってこの石垣を強化することになった。と言っても俺のすることは、簡単な測量だ。ホームセンターから買ってきたオートレベルとレーザー距離計を使って割り出した敷地面の四隅を、アバウトな空間座標として指定する。奥行き五十メートル、幅二百メートルで、長い辺が傾斜と直交している。その後どん亀が補正を掛け、造成の設計が終了だ。
この敷地の、家の建っている辺りの地盤はさすがに建築の際に整地転圧してあるが、離れたところの地面は昔盛土したものらしく不均等な高低があった。だから雨の後、けっこう深い水たまりができたりする。
どん亀はまず、人目を気にしなくて良い深夜、石垣の下側の斜面から家の建っている位置の真下に向かって横抗を掘った。やり方を尋ねたら、「ソノ部分ノ土壌ヲ圧縮形成シテしーるど・ちゅーぶヲ造リ、ソレヲ圧縮スルコトデデキタ空間ニ挿入シマシタ」という回答を貰った。
どうも例の牽引光線投射器は斥力光線投射器にもなるらしく、両者を交互に使うとそういうことができるそうだ。
この隧道を利用して、今度は家の真下に空間を拡張することで地下壕を作った。むろんこれも、ただ穴を掘っただけでは上からの重量に耐えられないから、アーチ構造の天井と壁面で支持するようにしてあった。
後はフィールドワーク用の簡易発電装置を運び込んで据え付けるだけだ。そいつは縦横一メートル、奥行きが四十センチほどの箱形で、地下壕の壁際に据え付けられている。それから出て天井に突き刺さっている径五センチの金属のパイプが枝分かれし、装置の作り出したエネルギーを家の基礎に埋め込まれたいくつかの発熱体に伝えるということだった。
「コノゆにっとハ可搬式ノ簡易型デスカラ、六十万キロワット毎時程度ノ出力シカアリマセン」
いやいやいや、それって七ヶ浜にある火力発電所の発電量より多分多いぞ。確かあれって、天然ガスで発電しているんだよな。
「燃料は何だ?」
「水デス」
「は?」
「正確ニハ水ヲ分解シテ得タ水素ヲ核融合サセテえねるぎーヲ得テイマス」
ああ、核融合炉ね、って、危なくないか?
「薪すとーぶヨリ安全デス」
そうかよ。
どうやら我が家の電力は、全てこの発電装置に任せていいようだ。太陽光発電とか石油ストーブとか不要じゃん。
「かもふらーじゅトシテハ必要デス」
当然、斜面に掘った横坑の開口部も、某宇宙救助隊もかくやという隠蔽が施された。
電力は地下の発熱体だけでなく、家の中にも供給されるらしい。ちなみに発電装置から出ていた金属パイプの正体は、常温超伝導体を封入した電力供給線だった。でも、過剰供給じゃん電力六十万キロワットなんて。そんなに使い道があるわけ無いぞ。
「備エアレバ患イ無シ、デス」
ああ、いつものアレね。でも本当に、何に使うんだ?