スタンピード
人数も増えてパーティっぽくなってきた。
ミナとルナが前衛。
俺が中衛で、マミが中後衛。
マミは体術もある程度出来るらしいので接近されても何とかなると。
俺は棍棒なので戦うとしたら接近戦。自信はないが。
なんか武器欲しいな。杖とモーニングスターが合体したような感じ。何かないかな?
そういえば、しばらく蜘蛛狩りしていたのでレベルが上がっている。俺は32、ミナは20、ルナは15、マミも20だ。強すぎじゃないか?ちなみにこの付近の冒険者は10から20辺りだ。
それはさておき、ミスリルの武器が欲しいよな。この世界にあるのか?魔法を付与するとか出来るのかな?
「マミ、ミスリルって知ってる?魔法が付与された武具は?」
「いきなりですね。ミスリル知ってますよ。ミスリルの産地に行けば普通に手に入ります。軽くて丈夫で強力です。あと、魔法が付与された武器とかは殆ど伝説でしか出てこないですね。普通は無いです。」
「そうか〜。そういう武器か欲しいなって思ったんだが無理そうだな。ミスリルはどこで手に入るんだ?」
「この大陸にはなくて、別の大陸に行かなければならないです。船で移動ですね。」
「そういや俺この世界のこと何も知らないなぁ。王様とかいるの?」
「え?ここは王国なので一応王様がいるはずですけど……ショウはどこから来たんですか?」
「なんか小さな村だよ。サラスの街から更に奥地。」
「そ、そうなんですか……。それは遠いところからいらしたんですねぇ。」
「マミはエルフの隠れ里か?」
マミが固まった。
「ん?どうした?」
「いえ、なんでそれを知ってるのかなぁと、思いまして……。」
「いや、エルフってそういうもんでしょ。」
「そんな引き篭もりみたいに言われると心外ですけど………。」
「秘密だろうから話さなくてもいーよ。気になる訳でもないし。」
「それもなんか悔しいですね…」
因みに今は遅い朝飯中だ。このあとギルドに顔だしてクエスト探す。
まぁ旅が目的だったのにいつの間にかガッツリ冒険者って感じになっちゃったなぁ。
金も貯まったから慌てる必要は無いんだけどね。
別の大陸行く前にルナの親に会っておきたい気もするが無理だろうか?襲われたら死ぬよな。災害クラスだもんな……。まぁいいか。
そういや魔族っているのか?でもこれ聞くと前フリっぽくなるよな。聞いたら出てくるよな…。これは胸にしまっておこう。平和に暮らしたいからな。
街が何かいつもと違う。ギルドに入ると何か慌ただしい。
「何かあったんですか?」
「あっ、ショウさん!良かった!探しに行こうとした所です。森の魔物が暴走して、大量に街に向かっているらしいんですっ!」
「えぇ〜!」
「スタンピードですねぇ。原因は良く分かりませんが稀に起こりますね。」
「なんで落ち着いてんだよ!街を防衛に行こうっ!!」
「よろしくお願いします!」
いつもの森に向かう門へ向かうと人だかりが出来ている。ルナは何かを感じているのか門の方をじっと見ている。
森からは距離があるが地響きが聞こえてくる。
この門じゃひとたまりもないだろうな。外のほうが良いかもしれない。
人混みをかき分けて門まで行く。
「この門じゃ守りきれない!外で防衛準備するから出してくれ!」
「駄目だ!危険過ぎる!」
「大群に体当りされたらこんな門なんか簡単に吹き飛ぶぞっ!」
「分かっているが他に手が無いっ!!」
「いや、だから俺たちを出せっ!迎え討つ!」
「……っく!くそっ!分かった!だがヤバくなったらすぐ戻れよっ!」
「分かってるよ、死にたくないからな。」
「どうするんですか、ショウ」
「何か作戦があるのかな?」
「見た感じ俺たちにとっては雑魚ばかりだ。問題はその数だけだ。ルナに全力で遠吠してもらって怯んだ隙にマミの魔法でスパスパと切り裂いて貰おうかと。俺とミナは打ち漏らした奴らの掃除ルナは遠吠えのあとは臨機応変に!混戦になったらマミは敵を散らす様に魔法を使っていってくれ!よし、やるぞ!」
「「了解っ!!」」「ガゥ!」
「よし、ルナ!全力で吠えろっ!」
「ワゥ、ウォオーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
あの小さい身体の何処から出るんだっ?ってくらいのでかい遠吠えで、魔物達が硬直したっ!
びびって逃げる奴もいるようだ!
「マミっ!」
「我の呼び掛けに応えて全てを斬り裂けっ!」
その瞬間、凄まじい突風が魔物の群れに向って飛んでいくっ!硬直した群れを吹き散らすように斬り裂いていく!
やっと我にかえった魔物達の怯えと混乱でパニックになって同士討ちが始まった!それでも何匹かはこちらに向かうものもいるが近付いた奴らはミナとルナにあっという間に叩きのめす!
そして混乱している群れにマミの次の魔法が、轟音と共に炸裂し集まった魔物達を吹き飛ばす!
直撃し爆散したもの、余波で吹き飛ばされたモノ、それを見て怖気づくモノ。
魔物は四方八方に飛び散り地面に叩きつけられていく。そこを俺とミナ、ルナでトドメを指していく!
ルナは疾風の如く駆け回り魔物を仕留めていく。恐ろしい強さと速さだ。それを見た魔物は最早、戦意を無くし森に逃げ込んでいく。森にもまだ居るようだが、前方から押し寄せる魔物達の恐怖が伝染し、次々と逃げ出していく様だ。
あっという間の出来事だった。
いつの間にか、他の冒険者も飛び出して来て散らばった魔物達を倒していく!
全ての魔物の息の根を止めて街に戻ると大歓声で迎えられた!
「うおぉぉぉっ!あんたらつえー!」
「すげぇーー!」
「助かったぞぉぉーー!」
様々な声が飛び交い大音量で空気が震えているようだ。興奮した集団は留まるところを知らない。
こっちも危険だ。
「ルナ、一声頼む!」
「ウォォォーーーーーーーン!!」
遠吠えに威圧され、しーんと静まり返った群衆はやっと落ち着いた様だ。
「皆落ち着け!この人数で騒ぐと2次災害が起こる!後方にいる者から順に街に知らせに行ってくれ!」
ルナの声で腰が抜けて立ち上がれない者もいるので、と言うか殆どそんな感じだな。
「すまん、助かった。人も暴走するところだった。」
門番の兵士が礼を述べた。
「後はこちらで対処しよう。ありがとう、君達!」
「あのままだと自分達も危なかったのでそんなに感謝しなくて良いですよ。」
4人は顔を見合わせてホッと一息。
「今日は休むか〜!」
「「賛成〜!ですっ」」「わふん!」
行きつけの酒場に入りテラス席に落ち着いて酒を注文すると
「いや〜凄かったですねぇ!」
「流石ショウ様!見事な作戦でした!!」
「わんわんっ!」
「いや、あんなに上手くいくとは思わなかったよ。ていうか、マミの魔法の威力無茶苦茶じゃなかったか?ルナの遠吠えも完璧だったし。」
「わ、私はっどうでしたかっ!?」
「うん、ミナも冷静に向かってくる魔物を仕留めていたね。打合せ通りに動いてくれたから、俺のやる事が殆ど無かったよ。」
そう言ってミナを撫でてあげる。ルナも足元で待っているので、頭を撫でてやる。
マミは…期待した目で微笑みながらこっちを見てる。
苦笑しつつも、手招きして頭を撫でてあげる。
何だこれ?何かみんなペットみたいになってるんだけども……。
まぁ大活躍だったからいいか。
現場を見ていた冒険者達に見つかって店中は大宴会になったが、適当なところで抜け出した。
いい感じに酔っ払って何故か手を繋いで宿に帰った。
ルナは賢くて暴れたりしない事が分かってから同じ部屋で寝ることを認めてもらっている。
ミナとマミは褒められて嬉しかったのか左右からギュッとしがみついている。
シャワーを浴びる時もミナはついてきて背中を洗ってくれた。勿論前は自分で洗った。
ミナは残念そうな顔をしたが、ここはまだ早い!
ベッドで横になって今更思う。
街を守れて良かった…。
仲間を守れて良かった…。
この世界に来られて良かった…と初めて思った。