生まれ変わり
1
佐藤 章
42歳。
平凡にも届かないしがないサラリーマンだ。
ある日、仔猫を助けた。
塀の隙間に落ちて出られずにいたようだ。
良いことをしたなと思っていたら、自分は事故で死んでしまったようだ。
気がついたら、不思議な場所にいた。
白いような、黒いような、何とも表現出来ない場所。
神様と思われる、シルエットが現れて、言った。
「貴方は、子猫を助けた直後の事故で亡くなりました。予定外の行動だったため、死ぬ筈ではありませんでした。なので生まれ変わる事が出来ます。ただし、同じ世界と言う訳にはいきませんので、別の世界になります。その代わりと言うわけではありませんが、少しサービスをしておきますので頑張って下さい。」
死んだ事は多少ショックだったが、どうせつまらない生活だったんだ。
特に不満は無い。むしろやり直せるなら望むところだな。
「分かりました。お願いします。子猫は無事ですか?」
「…いえ、残念ながら一緒に亡くなりました。」
「そうですか……では、一緒に生まれ変わらせてもらえませんか?」
「もちろん、そのつもりでした。すぐに会えるでしょう。」
知らない、匂いと音が聞こえて気がついた。
周りを見ようと思っても、身体が上手く動かせない。
怪我ではないようだが。
女性が近付いてきて、何か話しかけて来た。
「あ〜、う〜」
うまく喋れないと思っていたら、抱き上げられた。
母親らしい。
どうやら赤ん坊からやり直すようだ。
5歳になった。
父親は、いない。どうやら死んでいるらしい。
この世界は、獣人がいる。他にもエルフやドワーフ等の亜人も暮らしている様だ。
獣人は、奴隷になる事が多いらしく、どこの家にも大体1人いて一緒に暮している。
家にも、今度奴隷を買うらしい。そんな余裕かあるのか不思議だったが、子供だから安いそうだ。それに労働力があるほうが重要とのこと。
その日はすぐに来た。
猫の獣人で女の子だった。初めはおどおどしていたが、俺を見ると安心したようだ。
猫耳だ。かわいい。
自分と同じくらいの子供がいると分かったからだろうか?
「ミナといいます。よろしくおねがいします。」
「よろしくね、ミナ」
簡単に自己紹介を済ます。
奴隷の扱いなど分からないので、友達感覚で良いか。子供だし。
母親もおっとりしていて、子供が一人増えて嬉しい様な感じだし。
「ミナはショウ様と会ったことが有ります。助けていただきました。」
「え?誰かを助けたこと無いけど?」
「覚えてませんか?前世で私は猫でした。塀の隙間から出られなくなって、寂しくて泣いていました。」
あ。覚えている。すぐに会えると神様が言っていたが、猫がいないから忘れていた。
「あの時の子猫か!よく僕だとわかったね。」
話を聞くと、神様が生まれ変わらせてくれる事や、僕にまた会える事を教えてくれたらしい。
で、顔を見たらあの時の人だと何となくわかったらしい。
神様凄い。
僕らはすぐに打ち解けて、ミナの仕事のない時に一緒に遊ぶようになった。
それから更に10年が経っていまは15歳。
この世界での独り立ちの時。
この世界は、魔物がいて、レベルがあって、魔法が使える。
神様のサービスは、レベルアップが早いこと。経験値が普通より多く入るらしい。
サクサクとレベルが上がり村1番の高レベルになっていた。と言っても10レベルだけど。
ミナはすっかり大人の身体付きになっていた。
獣人だからだろうか?引き締まったしなやかな筋肉だけど、女性らしい丸みも備えているがスタイルが良かった。
顔は整っていて、何より胸がでかい。
何より、俺になついていて、いつも近くにいる。少し照れる。
話を戻そう。
独り立ちするのに、この世界を見てみたかった。旅に出るのだ。
母親にはもう話してある。
ミナは、寂しそうにしていた。
「ショウ、気をつけてね。いつでも戻ってきて良いからね。」
「ミナ、今までありがとう。母さんを助けてあげてね。」
「………」
ミナは、うつむいていたが、何かを決意した様にこっちをみる。
「ショウ様についていきたいです。奴隷の身なのはわかっていますが、ショウ様を守るためにそばにいさせてください。奥様にはたくさん良くしてもらい、どんなに感謝しても感謝しきれませんが、この気持ちも止められません。どうかお願いします。」
母親は黙って聞いていたが、やがてニヤニヤと笑うと
「こうなるだろうなと思ってました。普段のミナの態度を見てたら、いつ言い出すのかなー?ってドキドキしてましたよ。」
ミナは真っ赤になってしまった。
「分かりました。ショウをよろしくね、ミナ。それと奴隷も解放するわ。今までありがとう。」
「奥様…。ありがとうございました。」
ミナは、感極まって泣きながらそう言うと、母親と抱き合った。
そんな出発から半日ほど。
行商人の馬車に同乗させてもらい最寄りの町まで送ってもらった。
小さな町だけど、まず何をするべきか?
冒険者のシステムがあるのでまずは登録してこよう。
旅するのにお金も稼がなくてはならないし。
「ミナ、まず冒険者の登録しよう。」
「はい、ショウ様」
「もう、様はいらないよ。奴隷じゃないだろ?」
「…うん、…ショウ」
えへへと照れながら、呼び捨てにするミナ。
可愛すぎだな。よし。頑張って自重しよう。
冒険者ギルドの受付で、登録したい事を伝える。
カード登録に必要なのは、名前と自分の一部。
まぁ髪の毛でいい。
未登録のカードに髪を乗せて、魔力を込めると髪の毛が吸い込まれた。
これで登録完了。レベル10と表示された。
「え?10レベル?」
受付嬢が驚いていた。普通はせいぜい3レベルらしい。村人なら1のままなのがほとんどだそうだ。
ミナもレベル5。
こちらは、獣人ならば普通らしい。
「このレベルならお願いしたいクエストが有りますから、また来てください!」
そう言われて悪い気はしないので、頷いてひとまず宿を探しに行く。
あまり金がないので、やや低めのランクだ。
「お金稼がないといけませんね。後でさっきのクエスト聞きに行きましょう、ショウ様」
様が抜けないが、まぁそのうちなれるだろう。
「そうだな。クエストの準備って何が必要かな?傷薬とか?」
「私もあまり詳しくないですが、そうですね。薬は必要かと。後食料とかでしょうか?」
「低ランクのクエストでも受けてみて、考えてみようか。」
「そうですね。ショウ様武器はどうしますか?」
ああ。村では木の枝とか蹴りとかで倒してたなぁ。スライムとか少し大き目の虫とかだったからなぁ。
ミナもそんな感じだったな。
「ミナはどうするの?」
「私は剣や槍なら普通に使えますし、素手でも問題無いですよ。」
「…獣人凄いね。それともミナが凄いのか?まぁそれなら何とかなりそうだね。どちらにしても買い揃える程のお金無いし、それで行ってみよう。」