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12話:さっそくやらかした聖女

 乙女ゲームヒロイン希望の聖女、コレカが召喚されてから、私はフォルライン卿と額を突き合わせて方針を決めた。

 と言っても、要は様子見。


 コレカの言動を聞いた私の印象は、周りをNPCとみなして、学園に入るまでをチュートリアルだと思ってい込んでいるということ。

 知ってるとかスキップしたいとか言うけど、基本コレカは従順だった。

 お世話をするメイドの報告から、常にニコニコした温和な少女という印象。

 ただし、話は聞かない。


「聞き流しているというほうが適当かもしれないな」


 そう言ったのは、コレカに学園生活について説明をしに行ったシオンだった。


「マリーが現実だとは思っていないと言ったのは、当たっているだろうな。なんと言うか、こちらの話を真面目に受け入れてはいないのがわかる。注意をしても、困ることはあり得ないと高を括っている雰囲気を隠そうともしない」

「先生、お疲れさま。それで、攻略対象が誰かわかった?」


 コレカに会うと言うシオンに、私はそれとなく名前を挙げられた生徒について探りを入れてもらうようお願いしていた。

 全員に満遍なく食いついたと言うシオンは、灰色の目を下に向けて、ちょっと考え込む。


「…………マリー、サポートキャラ、という言葉に聞き覚えは?」

「まさか…………、コレカにそう呼ばれたの、先生?」

「やはり何か意味のある言葉だったのか。『さすがサポートキャラ、仕事できる!』と言われた。メイドたちはそのような言葉を言われたことがないらしい」


 あ、あー! 白か! 先生の銀髪がキャラ的に白なんだ!

 やっぱり属性の七色に合わせたキャラクターがいるんだ!

 となると、この先も先生はコレカというヒロインと関わっていく役どころだと思われている。これは、キャラ配置的に、やっぱり黒のキャラもいるのか?

 いや、今はともかくシオンにサポートキャラの説明をしなきゃ。


「つまり、私が聖女さまと関わっても、聖女さまの知る物語と齟齬は起きないと考えていいのかな?」

「たぶんね。仕事ができるって言われたなら、きっと先生は攻略対象についての情報を教える役どころなんだと思う」

「となると、誰が意中の相手であるかを知れる立場になれそうだ」


 私たちの方針は様子見であり、コレカの暴走防止だ。

 魔王の再封印ができるのはコレカしかいない現状、コレカが恋愛に溺れて無茶な命令をしても、止められない事態が想定される。

 だったら恋愛に溺れないよう、裏で手を回すしかない。


「先生、私なりにメイドからの報告を読んで、コレカの言動から考えたルートを書き出しておいたよ」


 フォルライン卿が手配したメイドを使って、それとなくコレカに入学後の行動を聞いてもらった。

 すると、コレカは教えてもいない学園の行事と時期を知っており、好感度を稼ぐと豪語したそうだ。全員を回るには、時間がかかるから、と。


「先生が攻略対象全員の情報に食いついたって言ったから、たぶん合ってると思う。コレカは、逆ハールートを狙ってる」

「ギャ、クハー、ルート?」

「攻略対象、五人全員を落とすつもりなんだよ」

「複数の相手と恋をするということなのか? それは、許されない」

「うん、私の世界でも許されないの。そんなの浮気だもん。だから、物語の中でだけ許されることなの」

「…………つまり、ここを現実と思っていないから、全員と恋愛ができると思っている、と? それは、こちらでは悪女という存在になってしまう」

「まぁ、聖女さまのやることじゃないよね。けど、それを目指して前向きになってるとしたら、止められないし、ゲームの強制力が何処まで発動するかわからないし」

「結局は、聖女さまの行動で周囲がどう反応するかを見守るしかない、か」


 フォルライン卿との話し合いでも、結局そこに落ち着いた。

 私はこの世界を乙女ゲームだとは思わないけど、コレカがそう思って行動すると、もしかしたら主人公補正のようなことが起こるかもしれないんだよね。

 ゲーム通りになるなら、コレカはハッピーエンドを迎えるために頑張るだろう。

 魔王の再封印という目的は理解していたので、ゲームの中でも魔王の再封印が最終目的のはずだ。

 だったら、コレカが一番やる気になる方法で役目を果たしてもらう。

 巻き込まれる攻略対象にはアフターフォローが必要だろうけど、そこはフォルライン卿が大人同士の話し合いをしてくれることになってる。


「ともかく、私たちは先に学園に戻ろう、先生。できる限り私も手伝うから」


 不安は拭えないけど、それでもシオンに笑って見せた。

 するとシオンは頬にかかる私の髪を指先で優しく避ける。


「マリーには笑顔でいてほしいけれど、無理に笑うことはない。…………ありがとう」

「う、うん」


 びっくりするなぁ。

 結構最初からだけど、シオンっていきなり触ってくるから心臓に悪いよ。


 なんて思ってたら、もっと心臓に悪いことが起こった。

 いや、起こされた。

 相手は、聖女ことコレカ。

 入学一カ月で、コレカはやらかした。


「イジドール! 待って!」

「マリー…………。どうしてここに?」


 私はシオンからの報せを聞いて、イジドールを捜し回っていた。

 校舎である城の裏手に広がる林の中にいたイジドールをようやく見つけて、言葉を繕うことも忘れて声をかける。

 振り返るイジドールは、今までに見たことないほど顔を顰めていた。


「あ、ごめんなさい。いえ、失礼しました。不躾なお声かけをいたしまして」

「いや…………、はぁ、その様子だと、フォルライン先生辺りから今日のできごとを聞いたのかな?」

「はい。それで、イジドールさまをお捜しするようにと、言いつかりました」

「言葉遣いは気にしないでいい。聞いたなら、俺がそんな敬われるような人間じゃないってわかっただろ?」


 何処か投げやりなイジドールは、一人称も俺に変えて自嘲した。


「俺は妾の子だ。本妻が死んで母親が後妻に収まったからこそこうして継嗣だなんて言われてるけど、そうなるよう生まれて育てられたのは、腹違いの弟のほうだよ」

「ご、ごめん。クリスマスの時、何も知らないのに、適当なこと言って」

「なんだ、適当に言った嘘だったのか?」

「え、いや、偉い家の長男って大変そうだなって思ったのは本当だけど」


 そう言うと、イジドールは普通の男の子みたいに笑った。


「知ってる。マリーは嘘吐けるタイプじゃないしな。言葉遣いも喋るほどにボロが出る」

「う、それは、私こういうお上品な所に住むの初めてだから」

「うん、同じだと思ったから、マリーのこと覚えてたし、クリスマスの時もみくちゃにされてるの見て、つい手が出た」


 なんか、知らないところでシンパシーを感じられてたらしい。

 で、こんな会話することになった理由なんだけど。


「イジドール、聖女さまのことは…………」

「わかってる。あの方に魔王の再封印をしてもらわなきゃいけないんだ。これ以上無礼な真似はしない。必要なら、俺から謝罪もする」

「怒ってない、わけじゃないよね?」


 イジドールは表情を消して、いない相手を睨むような顔をした。

 今日、イジドールは公衆の面前で聖女であるコレカに黙れと声を上げている。

 そうなったのは、コレカがイジドールの家庭の事情を大きな声で喋り、纏わりついたせいだった。


 正直、コレカが悪い。

 悪いんだけど、聖女に無礼を働いたイジドールのほうが立場的にまずくなってる。なんせ、聖女の後ろ盾は統一連邦なんだから、侯爵家の継嗣なんて目じゃなかった。

 その上、コレカが吹聴したせいで、侯爵家のお家事情を知らなかった生徒たちもイジドールの育ちを知ってしまってる。

 妾の子として生まれていると知られたイジドールは、とても心象が悪くなるだろう。


「気分悪いかもしれないけど、大事なことだから確認させて。イジドールは、聖女さまに家の事情、話した?」

「俺が? まさか!」


 答える声には、隠しようのない苛立ちが含まれていた。


「正直、どうして俺なんかに付きまとってたのかさえわからないんだ。天の国から召喚されたんだから、昔に会ってるなんてこともないだろ。なのに、どうしてか最初から知り合いのような距離に詰められて」


 イジドールも無碍にはできず。かといって合わせるにはあまりの近さに警戒心のほうが勝ったらしい。

 そしてイジドールの連れなさに、コレカは周りの目など気にせず、イジドール相手に教えてもいない過去を暴露した。


 正直私も、コレカが何をしたかったのか全くわからない。

 コレカの行動がゲームのシナリオに沿ってるとしたら、クソゲーだと思う。


「そっか、わかった。先生にお願いして、聖女さまの思惑聞き出してみる」

「…………マリー、君は何者だ?」


 イジドールは私に向けて警戒を含んだ声を発した。

 こうして聞いてみると、イジドールは最初から私を警戒してなかったのがわかる。

 基本的にイジドールから声をかけて来たから、警戒される謂れなんてなかったんだけど。


「フォルライン卿の遠縁の、マリー…………アー、なんだっけ?」

「アイネスだろ。自分の名前を忘れる時点で、嘘を吐く気もないと見るべきなのか?」

「イジドールはたぶんこの先も関わるから、一人くらい味方に引き入れておきたいなっていう、打算かな」

「はっきり言う」

「嘘下手みたいだからね」


 あえて笑って言ってみせると、イジドールもつられて笑ってくれた。


「けど、今は言えない。あの聖女さまの思惑がわかってから、かな?」

「つまり、君はフォルライン卿から送り込まれた、聖女さまの見張りか」

「うーん、違うと言えば違うけど、当たりと言えば当たりだよ」

「全く、謎めいていることだな」


 そう言う割に、イジドールは何か納得した様子で、それ以上聞いては来なかった。


「マリー、少しここで頭を冷やす。寮の門限までには戻ると、フォルライン先生には伝えておいてほしい」

「他に、先生に何かしてほしいことあるなら伝えるよ」

「いや、考えてみれば俺の生まれは知る者は知っていることだ。今さら態度を変えるなら、その程度の相手ということだ」


 イジドールは自分で対処するつもりらしい。


「イジドールって、強いんだね。格好いいとは思うけど、本当に無理そうなら言ってね。今度は水かけるなんて馬鹿な助け方はしないよ」


 胸の前で拳を握ってやる気をアピールしたら、イジドールは口元を覆った。


「…………マリーが、そうやって変わらないから」


 くぐもってて聞こえない言葉を聞き返しても、イジドールは教えてくれない。

 仕方なくその場を離れて、私は足早にシオンの下へと向かった。


 イジドールに実害が出てしまった以上、もう様子見なんて言っていられない。

 コレカのルート選択を聞き出す必要がある。

 どうして同学年の攻略対象じゃなく、いきなり上級生のイジドールに狙いを定めたのかもきちんと調べなきゃ。私の逆ハールート予想が間違っていた可能性もある。


「私のせいでもあるんだし」


 本当にどうして楽しめると言う条件だけで、コレカが召喚されたんだろう?

 人選に悪意を感じるのは私の思い込みなんだろうけど。

 コレカに私の存在をばらすかどうか、悩みどころだなぁ。


毎日更新、全十六話予定

次回:ヒキコモリ聖女

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