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パンプス

あー疲れた。

ただ毎日生きてるだけなのに何でこんなに疲れるんだろう。

こんな事言ったら親に怒られるだろうなー。

生きると言うことはとても大変な事だ。

それを今の子は簡単に死にたい死にたいって。そんな甘い事言ってる子達何を甘えてんだって言ってやりたい。

って言って怒り狂う母親の姿が容易に想像できてしまう。

いや、そんなの分かってるよ。だけど、

40過ぎたら生きてるだけで疲れるって言ってもバチ当たらなくない?


いつもと同じ黄昏時。

ボロアパートのポストの中に入ってる数枚のDMを取り出すと、間から1枚ハガキがゆらゆらと地面に落下した。


『私達結婚しました!』

などと書かれている文面と幸せそうな花婿と花嫁の写真が早く拾ってくれと私に訴えているようだったが拾うのを拒んでしまう自分がいた。


一体何通目だろう?こんなハガキうけとるのは…。

深く息を吐きながらそれを拾い階段を上がる。

一歩一歩上る度に息切れしてしまう。

しかもその上今日は朝からアキレス腱に嫌な感じの違和感を感じていたから余計に歩きたくなくなる。

昨日買ったばかりのパンプスはそんな私の気持ちなんて知るはずも無くキラキラと輝いていた。

やっぱり見た目だけで選んじゃダメだね。

控え目についている赤や青のラインストーンが美しく彩っている光沢のかかった黒のパンプス。

歩くには不向きなピンヒールの高さ。

そのピンヒールの高さに比例して値段もバカ高かった。

今までの私なら絶対に買わない。

たかが靴でしょう?靴なんてセールで充分。5000円の靴でさえ高く感じてしまう私が…まさかこんな高級なのを買ってしまうなんて…。

で、結局靴ずれを起こす結末。


特に趣味も無く18歳の時から社員として黙々と働いてきて。毎月頂けるお給料を使うのはアパートの家賃、光熱費、食費など生活に必要なものだけ。

別にケチって訳じゃない。ただ特に欲しい物も無いし、貯金したい訳じゃないのに、結構な金額が貯まってしまった。

だからと言う訳では無いが、たまには自分へのご褒美に何か買うのも悪く無いだろうと思い仕事帰りに寄ったデパートでこのパンプスを目にしてしまったのだ。

きっとこのパンプスを買う女性は私とは違いキラキラ輝いた人生を送っているのだろうな。

今の生活に何の不満も無いんだろうなー。

そんな事思っていたらこのパンプスをレジに運んでいる自分がいた。

このパンプスを履けば何かが変わるかもしれない。

今までと違う何かが起こるかもしれない。


だけど。


現実はそんなに甘く無かった。


何も変わらない。

エレベーターも無い安アパートに住む初老の女がシンデレラになんてなれるはずがない。

四階まで上りながら息切れしながらの溜息。

きっと酸素を吸いたいのか吐きたいのか脳も混乱している事だろう。


何とか痛みを抑えて部屋の前に立ちハンドバッグから鍵を探していると。


「あのー」


不意に背後から声を掛けられた。

びくっとして振り返ると、そこには黒いフードを深く被った長身の男が立っていた。

ただでさえ住人の少ないこのアパートで他人に声を掛けられるなんて初めての経験。

無視して部屋に入ってしまおうと思った瞬間。

柵に止まっているカラスがバサッと大きな羽音を立てたのと同時に腰に鈍い痛みが走った。


え?


イタ…。え?何コレ?


右手にベットリついた血痕。


え?え?え?これは夢?

立っていられなくなり膝から地面に落ちた。

カシャンと音を立て赤く染まったナイフが目の前に落ちた。

途絶え途絶えになる視界から足早にそこから立ち去っていく男の影を見た。


私、このまま死ぬの?

何で?


『もしこのまま死んでしまうのだとしたら?』


頭の中に直接聞いたことの無い甲高い声が響いた。


『キミは何を願う?』


もし…。このまま死んでしまうとしたら…。


私は…。


私は…。


一度でいいから結婚したかったーーーーーー!

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