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十環伝  作者: kiori
才獄城編
7/92

再会への別離

「おじさん」

 

 その声に、斜木が声を上げると、鉄格子の外で丸い瞳の少女がこちらを見ていた。

 右腕に布が巻いてあるのを見て、あの子だと気がついた。


「あ……あぁっ」


 それ以上、声が出なかった。

 斜木はその場にうずくまり、嗚咽を漏らして泣いた。

 その斜木の丸まった背を、鉄格子の隙間を伸びてきた、小さく温かい手が撫でた。




 あの日からひと月半過ぎたこの日、斜木は監獄を出た。五十件もスリを働いた男の早すぎる釈放に、町民や監獄内からも批判が殺到したが、才がその決断を覆すことはなかった。


 並んでこの町を出て行く二人の後ろ姿を見送りながら、この町を離れる、と話した十環を思い出して、燦利は胸につかえるものを感じた。



「おじさんと話して、そうすることに決めました。才様も、了承してくれました」

「……この町にいれば、飢えることはないし、何かあれば助けてやれるぞ」

「もう、十分助けていただきました」

「まだ、右手も不自由だろう。せめて、もう少し回復するまでこの町にとどまったらどうだ」

「あとは、よく動かすようにするだけだと先生も言っていたので、大丈夫です」


 燦利は、決心が固そうなのを感じて、それ以上言い募るのをやめた。

 あの黄蘭という男がいた屋敷は、ここからそう離れてもいないらしい。もし、十環を探しているとしたら、この町に留まり続けるのは危険でもある。

 

 十環は、布に巻かれた右手を伸ばして、燦利の手にそっと触れてきた。


「優しくしてくれて、ありがとうございました」


 そう言って、ほんのり浮かべた笑みは、春の風の様に柔らかかった。


 

「寂しそうだな」


 そう声を掛けられて、はっと横の父を振り返ると、いつになく穏やかな表情をしていた。


「寂しい……のでしょうか。少し、違う気がします」

「どう違う?」

 

 そう問われると、答えを見つけるのは難しい。

 燦利は、遠くなっていく人影に目を凝らしながら、考えた。


「多分、近くで見たかったのだと思います」

「見たかった? 何を」

「あの子が、幸せになった姿を、です」


 優しくしてくれてありがとう、と言った。優しくできた覚えなどない。あの程度で、優しくしてもらったなどと思わなくていいのだ。

 そのもどかしい気持ちが、寂しさに似ている。


「……そうだな」


 才も静かに同意した。


「あの子が言っていた、黄蘭という男の事、何か分かりましたか?」

「あぁ、そのことだが、思い当たる男がいる。ただ、もし予想が的中していれば、とても私だけでは手に負えない。慎重に調べてみる必要がある。燦利、お前の手も貸してくれるな?」

「はい、もちろんです」


 燦利は、あの日見失いかけた進むべき道が、再び真っ直ぐ伸びているのを感じた。そして、その進んだその先で、再会できることを心の奥底で願った。


 小さくなった人影がこっちに向かって手を振り、角を曲がって行った。

 

才獄編。実質この話で終わりです。

サブタイ通り、一旦、燦利達とはお別れです。

寂しい。

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