ギルドへの情報提供
あの後、ずっと休めるかと思っていた俺だが
まず、家に帰ったら、ずっとマリスに泣きながら謝罪された。
私が弱いせいで、お姉ちゃんを危ない目に遭わせてごめんなさいと
何度も何度も謝られた後、次の日の朝にはギルドに呼ばれてしまった。
と言うか、家の位置が分かってるからなのか呼ばれるというか
向かえに来るから、どうしようも無い。
とりあえず俺とマリスはギルドへ連れてこられ
奥の部屋に案内されてしまった。
「昨日は災難だったわね、まさかあんなのが出てくるとは思わなかったわ」
「うぅ、私が強かったら、お姉ちゃんが危ない目に遭わなかったのに…」
「謝りすぎだって、気にしないでいいって言ったじゃないか」
「うぅ…私のせいで…」
「そ、それに! 昨日はお前が居なかったら捕まってた場面が多かったろ!?
だから、お前は気にしないでいいって!」
「責任感が強いわね、強すぎてその内壊れそうだけど」
「うぅ…」
「え、えっと…その…それで今日呼ばれた理由は?」
「そうね、今日あなた達を呼んだ理由は、報酬の受け渡しと
後、昨日のデカいスライムについて話を聞きたいからね。
実は、あなた達があのデカいのに遭遇する前に
全国的に子供の失踪事件が多かったの、大体が森に入ってでね。
で、今回あなた達が遭遇した大きなスライム、とりあえず今は仮に
キングスライムと名付けられているのだけど、そいつについて話が聞きたいの。
現状、あのキングスライムに遭遇したのはあなた達だけだし…
いや、どうかしらね、キングスライムに遭遇した人物は他にも居るのかもだけど
遭遇し、生存したのはあなた達だけだという形になるのかしら」
ルアもあのキングスライムはそう言う存在だと言ってたしなぁ。
「えっと、良くは分からないんでしょうけど、
あなた達はキングスライムについて何処まで知ってる?」
実を言うと、大体を知っているという状況なんだよなぁ。
名前も、ターゲットも、でも、それを伝えるのは危ないか。
とりあえず戦闘で把握した情報だけを教えるべきかな。
「えっと…戦ったときの情報だけなら」
「それで構わないわ、教えて頂戴」
「はい、えっと…あのスライムは攻撃したら小さいスライムを出して来て
その小さいスライムは殆ど動くことが出来ないみたいで。
後、キングスライムはワープが出来る感じです。
攻撃手段は体重を乗せて相手を潰す攻撃と
手を出して、相手を攻撃する攻撃もありました。
後、戦ってる間は他のスライムは攻撃をしてきませんでした。
赤スライムみたいに塩を使って弱体化するかは試してないので分かりませんけど
でも、赤スライムみたいに物理攻撃が効かないと言う事はありませんでした」
そう、今更だけど、何故塩を試さなかったのだろう…気が動転していたのかも。
「うーん、その話を聞いた感じ、獲物を意地でも逃がさないタイプね。
通りで今まで目撃証言が無かったわけだ…でも、まだまだ冒険を初めて
すぐのあなたが1人で撃破出来るレベルの相手…何で今まで…
いや、あなたの能力が冒険始めたばかりにしては
異常に高いのは事実だけど、完全に冒険をする為に生まれたような
そんな才能の持ち主だと言う事は間違いないのだけど。
それでも実戦経験が初めてのあなたでも倒せるレベルというのに
今まで目撃証言が無かったと言うのは不自然ではあるわね」
一応、格闘(特大)という、相当な才能があるのは違いない。
それでも初めて経験の浅い俺が勝てるレベルの相手に
他の冒険者が負けるのはおかしいという考えは正しいだろう。
そりゃあ、そうだろうな、キングスライムの狙いは小さな子供だ。
俺はルアの加護で情報も把握して、なおかつ格闘(特大)がある。
それを駆使して辛うじて勝てるレベルの相手。
いくら才能があったとしても、情報が無いなら攻略は困難だしな。
「もしかして、子供だけを狙って現われるのかしら」
「多分、そうだと思います」
「実際、スライムは力が弱いから子供を狙う例は多いのよね。
簡単に撃破出来るし、子供の魔力も大人の魔力と遜色ない。
純粋さで言えば、子供の方が魔力が上質なのも事実。
子供を狙うのは理に叶ってると言えるわ
そのキングスライムもやはりスライム…子供を狙っているとしても
違和感は全く無いと言えるわね」
……やっぱり子供って、この世界だとかなり不味いのではないだろうか。
しかし、子供の冒険者的な何かが居るみたいだけど…
やはり魔力量だとかその純粋さとかで魔物の脅威度も変るのか?
「本当、思うんですけど…子供をギルドに入れるメリットって何ですか?」
「無いわね」
「そんなキッパリ…」
「事実無いわ、魔力が純粋なのは間違いないのだけど
それで魔物の脅威度が変るわけでは無いからね。
いやまぁ、子供の一撃の方が魔物に通りやすいのは間違いないかしらね。
純粋な分、破壊力が十分あるから…でも、そのメリットよりも
子供が戦うというデメリットの方があまりにも大きすぎる」
「それじゃあ、なんで子供がギルドの依頼を受けられる制度が?」
「……魔物が蔓延ってる世の中よ…理由は察しなさい…あなた達だって…そうでしょ?」
「……」
マリスの表情も変った…そう、大体理解した、何を言いたいかは把握できた。
そりゃあ、魔物が蔓延る世界、現に俺達2人の両親だって死んでるんだ。
子供がギルドの依頼を受けられる理由はそこだろう。
両親が居なくなった子供達がお金を稼ぐためにその制度がある。
「しかしまぁ、悪循環でしょうね」
「それは分かってるんだけどね、この制度しか今の所無いの。
出来ればあなた達は大きくなるまでのびのびと育って欲しかったんだけど
残念ながら、マリスちゃんの真面目な性格はそれを許さなかった。
別にいいのよ、その内こうなること、早い段階で私達ワード村ギルドが
あなた達を全力でサポートするわ、今回のスライムは取るに足らない相手だと
思って誰も付けなかったんだけど、流石にこの騒動の後じゃ
油断も出来ないから、一応、こっちも新米だけど経験がある
ギルドメンバーをあなた達に付けるわ。
ベテランを付けてもいいけど、残念ながらこのギルドに動けるベテランは居ない。
私とケミーはギルドの仕事が多くて動けないからさ。
暇をしてるギルドのメンバーはそいつしかいないのよ、ほら、入って」
アリスさんが手を叩くと、後ろの扉が開いた。
そこには白い髪の毛に白黒の猫耳、先端が黒く、根元から先端までが白い尻尾。
髪の毛はそこそこ長く、白いシャツに緑の胸当て、緑のミニスカートを履き
黒いスニーカーに白いロングソックスを履いた、俺達よりも大きな
そうだな、年齢的には16程の女の子が入ってきた。
「よろしくお願いします」
「彼女はレベッカ、見た目通り猫のワーウルフよ、彼女は弓術の才能が高くてね
弓術(大)よ、新米でこれだけの実力があれば十分過ぎるわ」
「普通の新米はどれ程です?」
「普通は小からのスタートね、中ならまぁまぁ、大なら天才かしら」
「特大はどうなの? お姉ちゃんは特大だよ?」
「特大は今まで例が無い程に稀でね、天才を通り越して神童かしら。
特大はベテランでも中々に行き着けない領域でね
はっきり言うとえげつないわ、とは言え、その先もあるわ。
その先って言うのは、極、極大ね」
まだまだ先があるという事か…まぁ良いんだけどね。
正直、俺はそう言うのに興味は無いし。
お金さえ稼げればいいのだ。
「まぁ、スキルはいいわよ、どうせ成長するんだから。
それよりも経験を積むことが大事でね、経験が無い神童よりも
経験豊富な凡人の方が実力は上なのよ、だからスキルよりも経験ね」
「うん!」
「はい!」
うーん、俺は何かあまりやる気が無いからなのか、あの言葉で決意は出来ないと言うか。
「でまぁ、今までレベッカがでなかった理由だけど、この子、1人だけでね」
「うぅ…」
「友達居ないのよ」
「止めてください!」
何だ同胞か、何だか安心出来た。
「とは言え、仕方ないのよね、この村あまり発展してないから。
25程の住民が多いのだから、先があるのは間違いないんだけど
如何せん、それより若い子供が非常に少ないというか居ないからね。
0歳児は結構居るけど、やっぱり0歳だしね。
で、現状ギルドで戦える若い面子はあまり居ない。
16歳以下はあなた達3人の他に2人程で
その2人はもうすでに村を拠点にしてないからね」
「先輩って事?」
「そうなるわね、あの子達も才能溢れてたわ、最初にギルドに来たのは
私が20歳の時で、今が25程だから、16歳ジャストね。
で、レベッカがギルドに参加したのが今年だから
同い年ではあるけど、交流は無かったのでしょう」
「つまりもうすでに5年の経験をしてると」
「えぇ、3回ほど酷い目に遭ったけど
ギリギリ最後の一線は越えてないわ」
最後の一線というのは何処の事かは大体分かってしまった。
セーフなのだろうか、うん、多分セーフなんだろう。
「3回って…多いんですか?」
「いや、少ないわ、普通は5年で40回あってもおかしくないわ。
平均するとそれ位でね、大体が1回目で再起不能になるけど
そう言うのは数に入れてないからこの数なのよ」
いや、それを抜きにしてもその数は異常なのでは?
「最高で5人での行動だからね、不意打ちされたり
包囲されたりすると、どうしてもね。
救助に行くまでに時間も掛るし、仕方ないとしか…」
「救助って言うのはどうすれば?」
「依頼を初めて、所定の時間までに帰ってこなかった場合救助作戦が開始されるの。
つまり、早い段階で掴まったりすると、長く散々な目に遭ってしまう。
その間に精神は摩耗し、最終的に壊れるわ…」
うへぇ、やっぱりヤバいなこの世界。
こんな世界、さっさと帰りたい物だ…
「だから、勝ち目が無いと判断した場合は全力で逃げて。
最悪…仲間を見捨てることも大事だから」
「な! そ、そんな事!」
「出来ればやって欲しくないことだけど、でもね、冷静に考えて。
状況次第だけど、仲間を見捨てて急いで逃げる。
そして、拘束されたと言う事をギルドに報告する。
そうすれば、救助が来るまでの時間を短縮できるの。
僅かかも知れないけど、その僅かで掴まった人の人生は変るわ。
ただ戦う事が正義ではないし、仲間の為でも無いの。
勝ち目の無い戦いには挑まない…それこそが最終的に正しいのよ」
勝ち目の無い戦いに挑んで、まとめて食われるより張って感じだな。
ふふん、しかしながら、俺は内面は野郎なのでね。
何か妄想してしまって…エロス!
とか、そんな軽いノリの話では無いのだけど。
「心得てね、何かあった場合、最悪仲間を見捨てることが正しい選択だと」
「……」
「それじゃあ、今回は解散で、キングスライムの情報はギルド本部に連絡するわ。
後、報酬、中身をしっかり確認しててね、報酬額は5000ゴールドよ」
あまり高額には思えないが、確か円に換算すると1ゴールド100円だったはずで
5千ゴールドと言う事は、50万って所かな、十分多い。
子供が2人1ヶ月生活するには十分過ぎる額だ、多分上手くやれば3ヶ月以上持つ。
「あ、ありがとうございます!」
「結構少ない気もするけど、キングスライムの脅威度も分からないからね。
あ、そうだ、最後に聞きたかったんだけど、どうやってキングスライムを倒したの?」
「えっとですね、攻撃してたら背中に宝石みたいな石が出て来て、そこを壊したら」
「ほぅほぅ、分かったわ、ありがとう」
マリスは渡された5000ゴールドを見て、嬉しそうにしている。
生活が苦しかったのかもな、支援をして貰っているとしても
やっぱり、そんなに沢山の支援は難しいだろうし。
でもなぁ、5000ゴールドか…先は長いなぁ。
だって、100億だろ? 円換算するなら1億ゴールド必要で
残りは…計算するの面倒くさいや、とりあえず適当に依頼をこなしていくか。
だがまぁ、今の依頼をこなしていくだけじゃ、とてもじゃないが不可能だが。
「あ、忘れてた、さっきのはキングスライム討伐の報酬で
こっちはスライム5体撃破の報酬ね」
「100ゴールド…ですか?」
「ま、まぁほら…最初の依頼だったし…」
……やっぱり、高レベルの依頼をこなすようにならないと駄目だな。