無謀な戦い
何とかキングスライムの動きを封じ、森から逃げ出すことに成功した。
あんなの…い、今の状態で撃破とか出来ないっての。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
「い、急いでギルドの人達を呼びに行こう!」
「分かってるよ! あのままだと不味いし!」
「あ、お、お姉ちゃん後ろ!」
「へ? いぐ!」
クソ! 追いかけてきやがった…な、何とか拳を止めたが
う、腕が超痛い! 一撃重すぎか!
「くぅ!」
しかも、勢いを殺しきれず後方に少し飛ばされるなんて。
「お姉ちゃん!」
「マリス! お前はギルドの人を呼んできてくれ! ここは俺が食い止める!」
「でも!」
「この会話をしている時間は無駄だ! 少しでも早く大人を連れてくることが
お前が俺を守る為に、最も最善の方法なんだ!」
「わ、分かった…」
さて、完全に死亡フラグを立てちまったわけだが…大丈夫かなぁ。
(死亡フラグですねぇ、死にますよ?)
(知ってるけど、ああ言うしかないじゃん)
(しかし、かなり不幸体質ですね、最初からこんな目に遭うとは)
(言葉を返すというか、その言葉の全てに刃を付けて返すのだけど
全部お前のせいだろ、お前がこれ俺を子供にしなけりゃ
この問題はそもそも発生してないんですが弁解プリーズ)
(私の前であんな言葉を言わなければ問題は無かったのですよ)
(誰がこんな事態になると想像して言葉を発するかぁ!)
(なら私もこの事態になると思って無かったので)
(創造主だろうが…このキングスライムを作ったのもお前だろうが!)
(いえ、自然発生ですよ、情報を仕入れているだけで)
(じゃあ知ってたんじゃ無いかぁ!)
(まぁまぁ、初っ端から湧くとは思って無かったので、許してください)
(全然反省してるような口調じゃ無いから許さん!)
(まぁまぁ、逆に考えてくださいな、この場面で生き残れば
ギルドの大人達が合流して、キングスライムの存在を把握してくれます。
もしこれが無ければ、キングスライムという存在は周知されていないので
そもそも信じて貰えなかったという可能性が発生していたのですよ。
ですが、ギルドの大人達がこの存在を把握してくれれば
子供が言う事では無く、実際に大人が確認したという事になりますので
確実に報酬を貰えます、いやでしょう? 折角倒したのに
存在を把握していないからと信じて貰えず、嘘を付いた扱いになって
結局報酬も何も貰えず、最初の安い報酬と名誉も貰えないよりは
苦戦しても状況を把握して貰って、追加報酬と名誉が貰える方が)
(確かにそうだけど)
でも、それはあくまで生き残ったことが前提なわけで…
でもやるしか無いのか…あぁもう! だったらやるって!
「でも、さっきのでちょっと腕が…」
「まぁ、頑張ってください」
「あぁ、普通に喋れるのか、さっきは無駄な事をしたな」
「あ、周囲に人が居る場合は喋りませんけどね」
「変な目で見られたくはないしな」
「そうでしょう? さ、会話はいいですが前を見てください。
で、さっきの攻撃で多分骨にヒビが入ってるので無茶しないでくださいね」
「え? ヒビは入ったの? でも、そんなに痛くないんだけど…」
「特性ですかね、あまり痛みを感じないんですよ、ワーウルフは
傷の治りも早く、骨が折れても1週間で回復します。
ヒビは3日程度ですかね」
「なんでその程度の差しか無いんだよ」
「まぁ、ゲームの世界観なので多少はね」
「確かに瀕死になっても数秒で回復する世界だしな、ゲームの世界って」
「若干リアルよりですがね、いやほら、骨折ってゲームの世界だと
超短期間で回復したり、眠っただけで全快したり
ご飯を食べただけで回復しますので、それが殆ど無い分リアルよりです」
「回復アイテムとかねーの?」
「ありませんね、傷の治りが早いだけです」
うへぇ、ゲームの世界観だというのに、嫌な所がリアルだなぁ。
そこはゲームよりであって欲しかった、回復アイテムを使えば
瞬時に回復とかなぁ…てか、どんな感覚なんだろうか。
薬か飯を一瞬で食ったり飲んだりして、しかも完全回復って。
と言うか、ターン制じゃないから分からないんだけど
もしターン制だと、どんな風に相手の行動を待つようになるんだろうか。
相手はどんな風にこっちの行動を待ってるのかとか気になるんだけど
どうもアクションRPGの世界みたいだからそれは無いけど。
「さて、会話はここまでですかね」
「ち!」
キングスライムが腕を何本も出してきた。
これは向こうもマジみたいだ…だが、身体も最初と比べると小さいし
まだ…でも、油断すればやられるだろう、あの状態での拳でも
俺の腕がヒビ貰うくらいに強烈だったんだから。
「来ます!」
「分かってる! 危ね!」
キングスライムがワープをしてきて、俺の目の前に姿を見せると同時に
拳をいくつもこちらに向かって殴りかかってきた。
まさか連打をしてくるとは思わなかったが、何とか身を引き回避は出来た。
しかし、最後の一撃として、拳をこちらに飛ばしてくる。
「くぅ!」
ギリギリで身を逸らしたが、少しだけ服が破れた。
よくあるよな、拳圧で服が破れたり、皮膚がちょっと切れて血が出て来たり。
「だらっしゃぁ!」
その状態で身体を捻っての跳び後ろ回し蹴り。
ふふん、格好いいからと言う理由で練習した技だぜ!
足技って格好いいよね、アクションゲームで足技特化のキャラを見て
何か憧れたのが全ての始まり! 拳ばかりはちょっとあれだけど
ここからは足技を使った方が良い気がしてきた。
「無駄に練習していた足技が活躍することになろうとは思いませんでした」
「それは俺も思った」
確かヤンキーに絡まれたら活躍できる! 的な事を考えて練習してた記憶が…
何か今考えてみると恥ずかしいというか何というか。
まぁ、結局練習が功をそうした訳だが、こんな形で活躍するとは思わなかった。
「だが、実際この足技は効果的、殴った場合は小スライムは左右平均的に
飛び散って行くけど、足技なら蹴った方向に全部跳ぶからやりやすい」
「回し蹴りを使った場合はですけどね」
「うぉっと!」
攻撃を受けた後、すぐにキングスライムはこっちを叩き潰そうとする。
その攻撃を後方に飛び退き回避したが、風圧半端ない。
あんなの食らったら死ぬぞ! マジで死ぬぞ!
「完全に殺しに来てるよな! あれ!」
「多分死なないと思いますね、瀕死になるだけです」
「死ぬだろ…と言うか、なんで当たり前の様に即死攻撃を出してくる!」
「ほら、リョナ系エロアクションRPGの世界なので拘束も多いですよ」
「勘弁してくれよ…」
はぁ、これはこの先、どうしようも無い程にしんどいだろうなぁ。
つうか即死攻撃とかマジで勘弁して欲しい。
「当然、即死攻撃があるという事は1人での行動は極めて危険だと言う事です。
即死と言っても、実質は動けなくなるだけで回復は可能ですしね。
それを食らったときに1人ではまず命と貞操は無いでしょうが
複数人居た場合は仲間に救助して貰ったりする事が出来ます。
死亡というも、動けない状態で拘束され救助されなかった場合は
死にますけど、一撃で死ぬ事は無いので仲間を集めることをおすすめします。
とは言え、多くても4人までの仲間しか集められませんが」
「それは自分を含めて4人か?」
「いえ、自分を含めず4人です」
じゃあ、5人での行動が基本になるのかな。
いやいや待て待て、そんな事を考えてる暇は無かった。
「跳んだか!」
やっぱり考え事をしている暇は無いか。
あいつの跳躍、ちょっと高すぎやしないか?
とりあえずここまで分かりやすい行動なら回避は容易だ。
「っと」
「油断は禁物ですよ! 相手は手を出せる知性持ち!」
「そうか!」
ギリギリで回避しての反撃を狙っていたわけだが、
女神の言葉で危機を知れた。
考えてみれば、知性があって手を出せるという状況ならば
着地と同時に叩き付けを仕掛け、俺を仕留めに来る!
「うぐぅ!」
あ、危ねぇ! あ、あのまま近場で待機してたらあの手で叩き潰されてた。
だが、何とか回避出来た! そして、あそこまで大きな攻撃の後は
必ずと言っても良い程に隙が出来る、それがゲームって奴だ!
「うらぁあ!」
回避と同時に接近し、手を踏み台にして頭上を蹴り攻撃をした。
キングスライムはかなり動きが鈍くなり始めている。
そして、背後に宝石のような物が見えた、これは…勝てる!
「だらっしゃぁ!」
頭上を蹴った後の着地と同時に一気にキングスライムに接近し
その背後に現われた宝石を全力で蹴った。
殴っても良いんだけど、見た目宝石で硬そうだったし蹴った。
宝石はゆっくりとひび割れていき、キングスライムが妙な挙動を始める。
「お姉ちゃん! 呼んできた!」
「何あのデカいの! あんなの見たことが無い!」
「急いで彼女の保護を! 子供の命を最優先で!」
「はぁ、少し遅いよ……でも、ありがとう」
マリスの姿を見て、安心から無意識にお礼を言ってしまった。
同時に、背後でガラスが割れたような音と爆発音が聞えた。
「え?」
「まさか…」
「ひ、1人であれを倒したの?」
「いえーい! 流石俺だぜ!」
つい笑顔がでてしまい、マリスに向けてグットをしてみた。
「はぁ…しかし疲れた」
とは言え、流石に疲れがたまったのか、その場に座り込んじまった。
足痛い…ずっとインドア派を貫いてきた俺があそこまで身体を動かせたのは
まぁ、この世界の俺があっちの自分とは身体が違うからなのだろうが
それでも流石に疲れた、子供の無尽蔵の体力でもしんどいっての。
「……まだ唖然とはしてるけど、今はやることをしないと。
ケミー、あなたはあのデカいスライムの破片を採取して。
あのデカいのを元締めに報告しないといけないし、性質や
動き、どんな風な存在かを調べないといけないから」
「はい、分かりました、アリスさんはセイナちゃんの保護ですか?」
「えぇ、かなり疲れてるみたいだしね」
「お姉ちゃん!」
「駄目、心配なのは分かるけどあなたはここで待ってて」
「なんで!? お、お姉ちゃんが辛そうなのに!」
「あのデカいスライムの正体も何も分かってないからね。
あの子が撃破したとは言え、何があるかも分からない。
だから、あなたを危険かも知れない場所に連れて行くことは出来ない」
「うぅ! でも…」
「私に任せて」
ま、実際何があるかも分からないし、その判断は正しいんだけど。
でもなんかこう、安心したからなのか力が入らないな。
「……特に何も無し、大丈夫? セイナちゃん」
「な、何とか…」
「じゃあ、掴まって、背負ってあげるわ」
「ありがとう」
背中に掴まり、ゆっくりと揺られながらその場から脱することが出来た。
あぁ、何とかこの災難を生き残る事が出来た…はぅ、もう休みたい。
ゲームしたい、ソシャゲーしたい、なんで命の危機に瀕しないと駄目なんだよぉ…
もう休みたい、借金返済とか放置して休みたい。