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決死の一撃

「お、お、お姉…ちゃん、お、大きい…凄く大きいスライムが…」

「わ、分かってるよ…」


ただでさえ動揺していたマリス、まだ精神的には成熟してなのに

ここまで衝撃的な場面を2連続で見てしまったんだ。

精神的に激しい動揺を受けても不思議では無い。


「に、逃げよう!」

「あ、あぁ」


そして当然、逃げるように言ってくる、それは特性を知らないから。

俺も知らない風を装い、別方向への逃走を開始する。

するとキングスライムがその方向に再び現われた。


「そ、そんな! ち、違う方向に!」

「……」


どの方向に逃げようとしても、キングスライムは立ちふさがるように出てくる。

数が増えているわけでは無い、増えていれば、もうすでにどうしようも無い。


「あ…あ…あぁ……に、にげ…られない…」

「た、戦うしか無いのか」


やっぱりこうするしか方法は無いのだろう。

あいつを飛び越えることも可能かも知れないが

そんな事をしても、すぐに奥に姿を見せるだろう。

あ、そうだ! 木の上ならどうだろう!

もしかしたら逃げ切ることが出来るかも知れない!


「マリス、俺の背中に」

「う、うん」


急いでマリスを背負い、木を登った。

結構あっさり登れる物だな、やっぱり格闘(特大)はこう言う面でも便利か。

そのままバランスを崩さないように木の上を渡る…が。


「うわ!」


足下の枝が不意に破壊され背中から落下してしまう。

そして首と目を動かし下を見た、そこに見えたのはキングスライム。

まるで獲物を口を開けて待っているかのようにそこに居た。

正確には口など開けては居ないし、表情など無い液体。

だが、俺にはそんな風に思えた。


「くっそぉ!」


急いで落下中に木を蹴り飛ばし、落下先を変えた。

その間に落下向きも変え、俺は顔面から落下する、超痛い。

だが、キングスライムを回避できた。


「だ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫だ…うぅ、しかしこれはどうも本格的に…」

「うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい…私のせいで…こんな事に…」

「謝るな、だ、大丈夫だから」


まだまだ子供であるマリスにこの状況は凄く辛いだろう。

しかも真面目な女の子、自分が感じる責任は大きいのだろう。

真面目なのは真っ当なのかも知れないけど、こう言う場面では不便でしか無いなぁ。

俺は不真面目でよかったよ…まぁ、真面目であろうと不真面目であろうと

この状況が非常に不味いのは変ることは無いのだけど。


(キングスライムは青スライムと同じ様に物理攻撃は効きます。

 しかしながら、ダメージを受けると周囲に自分の身体を飛ばし

 追い込んでいくスタイルになっていきます。

 小スライムは殆ど動かず、相手の動きを制限することしかしませんが

 キングスライム相手に足を取られるのはかなり危険です。

 攻撃のタイミングをしっかりと見計らう必要があります。

 余談ですが、キングスライムと対決している間は

 通常スライムは手を出してきません、しかしですよ。

 キングスライムが敗れた後は普通に攻撃してくるので

 キングスライムを撃破しただけで生き残れたという訳ではないので

 そこはしっかりと覚えていてくださいね)

(わ、分かった)


こう言うアドバイスがあると戦いやすいのは間違いない。


「よし…覚悟を決めるか」

「うぅ…」


ただでさえ色々と相手の方が能力が高いというのに

こっちは妹を背負って立ち回ると言うハンデがあるなんてな。

ただでさえフェアじゃ無いのに、更にフェアじゃ無い条件か。

正直、マジで勘弁して欲しいと思うが…だがしかし!

果たしてこの可愛い妹を背負って立ち回るというのはハンデなのかな?

否! 俺にとっては大きなプラス補正なのだ!

この可愛い妹が俺を、自分を頼ってくれていると感じる事が出来る!

そして、可愛らしい呼吸の声を聞く事が出来る!

そして何より! このスライムを倒した後に聞けるであろう

妹からの勝算の声! 笑顔! ふふふ、ははは! 妄想するだけで

心の! 奥底から! 燃えたぎるこの感情と決意!

そう! 全然ハンデでは無いぞ!


「マリス、ちゃんとお姉ちゃんの背中に掴まってるんだぞ」

「お、お姉ちゃん…だ、大丈夫なの? 凄く大きいよ…?

 わ、私を置いて逃げた方が…せ、せめて…」

「はっはっは! 断る! お前を見捨てる物か!」

「お姉ちゃん、何だかテンションが…」

「大丈夫だ、全てお姉ちゃんに任せなさい!」

「う、うん!」


すぐにキングスライムに接近することにした。

長期戦になるとちょっと不味いだろうしな。

出来る限り短期決戦に臨むべきだろう。

時間が掛れば掛るほど、こっちの体力が切れちまう恐れがある。


「うぉ!」


俺が接近するとキングスライムは大きな手を出し、叩き潰そうとしてくる。

その攻撃をギリギリで回避し、キングスライムの手の上に乗り

そのまま飛んでキングスライムの頭を強く踏んづけ

すぐにそこを踏み台にして、キングスライムの後方へと跳び走る。

当然、キングスライムは俺を逃がすまいと、俺の前に出てくるのだが

実はこれが狙いでもあった、俺が移動すればキングスライムも移動する。

ならば、攻撃し、身体を周囲に飛び散らせた後移動すれば

キングスライムが飛び散らす殆ど動かない小スライムに

足を取られること無く立ち回れるのではないかという考えだ。

俺の予想は正しく、その作戦のお陰で小スライムの影響がない場所で

立ち回る事が出来るようになった。


「…に、逃がしてくれないみたい…」

「分かってるよ、でも、これで良い」


後は同じ行動を繰り返せば問題は無いのだろうが

知性がある相手に同じ手が通用するかは疑問だ。

だが攻めるしか無い、攻めなければ追い込まれるだけだ。

女神の話が正しいのであれば、ワープして攻撃してくるだろう。

それだと回避は出来てもゆっくり後方に追い込まれる。

後方には先ほどばらまいた小スライムが転がっているのだから

その中に再び戻るのは本当に危ない気がする。


「うおぉお!」

「お姉ちゃん、何かあの大きいの変な動きを」

「へ?」


確かに少し下に何かを…そんな事に気付いた時、足下に違和感を覚える。

何だか少し盛り上がってるような気が!


「うわぁ!」


足下からスライムで出来た拳が飛び出してきた。

この状況、回避方法は後方に逃げる事しか無い!

何とかマリスのお陰で大事には至らなかったが

こんなの、あのまま走ってたら間違いなく食らってた!


(女神、これはどうすれば良い!?)

(この状況をどうすれば良いと言われましても、戦えとしか。

 後、自己紹介をするとですね、私の名前はルアと言います。

 正確にはルドアートで、略してルアです、日本語名は麻績の神ですが。

 ここはルドアートの方でお願いしますね、麻績の神だと言いにくいですし)

(今! 自己紹介してる場合じゃないだろぉ!)

(それもそうですね)


くぅ! こんな状況で名前を言われても忘れちまうよ!


「お姉ちゃん! 大きいのが消えて!」

「うぅ!」


もうすでに嫌な予感がして、後方に跳び下がろうとした…が。

これは生存本能なのか野生の勘なのか、獣人であるから働く勘か。

背後に奇妙な気配を感じたような気がし、足を止めて前に飛び込んだ。

同時に、背後から大きな衝撃音、飛び込んだ時にチラリと背後が見え

そこにキングスライムの姿があり、地面を例の拳で殴っていた。


「ここまで知性が…」

「う、後ろの方へ移動するなんて…あ!」

「何!」


更にキングスライムは自分を殴った。

その行動で周囲に小スライムが飛び散った。

回避をしたから飛び散った小スライムには当ってないが

それでも足下に飛び散ったと言う事はかなり不利になったと言える。


「どうしよう…」


相手の行動を自分の特性を利用して妨害してくるなんて。

知性が…知性があったとしても、ここまでなんて…


「……」


こっちに来て、最初に戦う事になった相手がこれとは…

金を払って能力を買えるという状況だというのに

まず金がない状態の初期状態でボスとやり合うってヤバい。

能力は1つだけで、その1つが突出しているとは言え

格闘術はほぼ素人、無茶な行動をして、運良く成功してるだけなのに。


「くぅ…」


どうしても、ゆっくりと仰け反ってしまう…その行動が危険なのは間違いないのに

目の前のキングスライムの圧にどうしても負けちまう。


「あ! まず!」


ヤバい! 足下に注意を向けてなかったから飛び散った小スライムに!


「お、お、お姉ちゃん!」

「く、クッソぉ!」


そのタイミングでキングスライムが震え、高く飛び上がった。

俺は急いで背負ったマリスを投げ飛ばした。

何故こんな行動をしたのか…完全に無意識だった。


「お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」

「ま、負けるかこん畜生! こうなりゃ全力でぶつけるだけだぁ!」


最後の賭けだ、拳を強く握り締め、飛びかかってくるキングスライムを

後先考える事無くただただ全力でぶん殴った。


「う、腕が痛い…が! やるしかないんだよぉ! ぶっ壊れてもぶっ壊せぇ!」


くぅ! でも、このままだと流石に…!


「私だって…私だって戦うの!」

「マリス!」


危うく押しつぶされそうになった時に、マリスの矢が飛んでくる。

その矢は少しずつキングスライムへダメージを与えていく。


「お姉ちゃん! 私もやるんだぁ!」


矢では威力が薄いと判断したのか、マリスは弓矢による攻撃を止め

身体全体を使って体当たりを仕掛けようとして居る。


「じゃぁ、俺もまだまだ行くぞぉ!」


ならばとこちらも左腕を振りかぶり、マリスがキングスライムへ攻撃を仕掛ける

瞬間に、同じ様に全力の拳を叩き込んだ。


「いっけぇええ!」


俺とマリスは同時に叫び、辛うじてキングスライムを吹き飛ばすことに成功した。


「よっしゃぁああ!」


弾き飛ばされたキングスライムは3回以上地面をバウンドし、巨木に叩き付けられる。

威力がかなりあったからなのか、その巨木は折れ、キングスライムに落下する。


「はぁ…はぁ…」


落下した巨木がかなり重かったようで、キングスライムを潰した。

だが、キングスライムはまだ生きている様で、ゆっくりと巨木を動かしている。


「い、今のうちに逃げるぞ!」

「う、うん!」


その隙に俺達は急いで森から抜けだした。

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