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命懸けの攻防戦

彼女の動きは今まで戦ってきたモンスターの中で最も素早く精密だ。

当然と言えば当然だけどな。

今まで戦ってきたモンスターは図体がデカいモンスターが多かった。

キンスラ、熊、ケルベロス、あそこら辺は俺よりも大きかった。

動きはあまり速くないし、精密攻撃は特異では無かった。

完全に力で相手を圧倒するスタイルのモンスター。


「ふん!」

「っ!」


危ない…危うく食らうところだった! また頬を掠めるとは!

本当、あいつらと比べると、こいつは素早く動いてくる。

とは言え、今回は同じ様な身長なんだからな。

だから、ピンクキャットで習った格闘術を最大限に利用できる。

さぁ、教えを思いだしてみよう。


(対人格闘をする場合は殆どないでしょうけど、万が一があるからね。

 今回は、対人格闘の心得を教えてあげる。

 対人格闘において大事なのは、相手の動きを見ること。

 相手の動きを見て、相手の癖を見付ける事。

 これがしっかり出来ていれば、例え力で劣っていたとしても

 例え速さで劣っていたとしても、相手を圧倒することは可能よ)


相手の癖を見付ける…対人格闘ではそれが最も重要…

相手の癖を完璧に読めれば、力でも速さでも劣っている

今、この状況でも勝算はある!


「そこ!」

「……っふ」


俺の頬を狙い、大きく振り回した拳。

この攻撃には大きな隙が生じる。

ここは攻撃のチャンスだ! 拳の下を潜って!


「な!」

「そこ!」

「うぐ!」


すぐに吸血少女の顎に向けて左アッパーを入れた。

彼女の不意と死角を付いたこの一撃は

彼女に確かなダメージを与えた様で

俺の拳を受け、彼女は身体が僅かに浮いた。

人間が相手なら、この一撃で勝負が着いてもおかしくないレベルの一撃。

それだけの手応えがあった、しかし相手は吸血鬼、ここで油断は出来ない!

大きな隙を突いた反撃、それを食らった後も隙は続く。

すぐに右腕を引き、無防備になった腹部を殴る。


「がふ!」


これも強烈! 吸血鬼はこの一撃を受け、少しだけ吹き飛ばされる。

でもまぁ、相手は吸血鬼、すぐに体勢を立て直し、転けることは無かった。

しかしだ、腹を押さえ、苦しそうにしているのだからダメージはあった!


「うらぁ!」

「いぎ!」


すぐに再び接近、跳び後ろ回し蹴りで彼女の頬を思いっきり蹴った。

彼女は回転しながら飛ばされ、地面にうつぶせで倒れた。

人間相手だったら、あの跳び後ろ回し蹴りで首の骨が折れてたかもな。

格闘(特大)の攻撃なんだから…リミットブレイクを使えば

もっと強力な一撃を叩き込めたかも知れないが

流石に殺しちまいそうだったし躊躇った…それはきっと、失敗だっただろう。


「……はぁ、ここまで私に攻撃を入れるなんて…」


確実なダメージになる攻撃を3発叩き込んだはずだったが

あぁ、やっぱり吸血鬼だ。

ゆっくりと立ち上がり、俺に顔を見せた後

俺の攻撃で受けた傷痕を少しさすると、その傷痕は消えていた。

わざわざ俺に見せた状態でやったのは…再生能力の差を見せるためだろう。

あれだけの攻撃を入れても、瞬時に回復されてしまう。

それを改めて実感するだけで、ショックは大きい。

知ってたはずなのにな…クソ、躊躇ったのはやっぱり失敗だった。

死ぬわけ無いんだよ、首が180度回転しようと、こいつは死なない。

腹を殴り、貫通したところで死にはしないのだろう。

…心臓でも潰さないと殺しきれないんだろう…


「でも、あなたの抵抗は全て無駄。

 どれだけ私に攻撃してもその傷は瞬時に癒えてしまう。

 どれだけあなたが抵抗しても全て無意味に終わる。

 私は吸血鬼、人間とは身体の構造その物が違う。

 お前に私は殺せない。

 どれだけ必死に抵抗しても無駄。

 さ、私は優しいの、大人しく私の物になって?」

「無駄かはまだ分からないだろ?」

「なに、すぐ分かるよ」


また加速してきたか…動きは比較的単調なんだ捌ける!


「っと、そこ!」


やっぱり捌ける! 攻撃を回避し、すぐに反撃を入れる事も可能だ!


「…ふふ」

「っつ! あぐ!」


ま…攻撃を受けても怯まずに反撃をしてきた!?


「それ」

「っち!」


攻撃は捌ける! 捌けるんだ…捌ききることは出来る!

動きが単調で読みやすいから、でも!


「無駄なの」

「あぐ!」


でも…拳を叩き込んだ後、すぐに反撃を食らう…

こっちはその反撃を辛うじて捌き、急所に当らない様にしてる。

だが向こうはそんな事もせず、全て急所に受けてもなお動く!

あぁ、これはバーサーカー戦術って奴か!?

防御を完全放置し、ただ攻撃だけに重きを置いてる!

クソ! そりゃその戦術がもっともか!

どれだけダメージを受けようと、すぐに治るんだから

防御なんて最初から要らない、すぐに反撃に入る!

でも、痛みはある筈なのに何で!


「クソ! 何で殴られてもすぐに動けるんだよ!」

「簡単、痛みを遮断すればいい」

「さらっと馬鹿みたいな事を…い、痛みを感じなかったら怪我とか気付けないぞ?」

「知らない、治るんだから」


そりゃそうだ、どうせ放置しても治るもんな。

畜生…このままだと確実に追い込まれる一方だぞ!

攻撃を捌き、反撃を入れたところで相手は怯まない。

すぐに反撃を仕掛けて来る。

上手く捌き急所を外してもダメージは蓄積されるから

長期戦になればなる程、不利になっていく一方。

相手は痛みを無効化、あげく傷もすぐに治る…

クソ、格闘術はこっちの方が上でも、種族の差で勝ち目は無い…


「さぁ、そろそろ抵抗を諦めて?」

「諦めない、俺は諦めが悪いんだ」

「……そ、ならもっと現実を教えるだけ」


またさっきと同じく単純な接近戦…でも、カウンターは効果が無い。

むしろこっちにはマイナスしか無いんだから、避けるしか無い!


「ほらほら!」

「ち! くそ!」


さっきっから連続で攻撃しすぎだろ! 隙は多いけど反撃が出来ないんじゃ

この隙を突くことも出来ない! 勝つには強烈な一撃を叩き込むしか無い!

攻撃すれば必ず隙が生まれる。

例え拳が当ろうとも、隙が生まれることは変らないんだ。

普通の奴相手なら、怯んでる隙の方が大きいから相殺以上だが

こいつは怯む隙が無いから相殺は不可能…攻撃すれば隙を突かれる。

なら避けるしか無い…避けてチャンスを待つしかない!


「ふふ、逃げてばかりになったね」

「逃げないと攻撃食らうし」

「逃げ回っても、君の体力は減るでしょう?」

「何か、お前から君って変ると、距離が近くなった感じだな」

「ん、戦えば戦うほどに君が欲しくなってきた。

 私、意外と好き見たい、無駄な努力をする奴」

「ははん、それは残念だな、となると俺は好かれないって事だ。

 俺は一瞬一時だろうと無駄な努力なんてしてないからな」

「ふふ、強気なのも好き。ボロボロなのに強気に振る舞う。

 ほら、少し口から血が出て来てるよ? キツいんでしょ?」

「大丈夫だって、俺も傷の治りは早いから」

「へぇ、そんなに回復が遅いのに?」

「うぉ! っは、ハッキリ言うと、俺が遅いんじゃ無くてお前が早いんだよ!」


攻撃をバク転しながら回避して彼女を蹴り上げる。

これはら一応攻撃は出来るし回避にもなる。

まぁ、あまり多様は出来ないだろうけど。


「…私からすれば遅いの、その傷の治り」


口を切ったのか、僅かに彼女の口元に血が滲む。

しかし、彼女はその血を平気な表情で舐め取る。

そして再び気味の悪い微笑み…色々と窮地には陥ってたけど。

今回は…今回は流石に、マジでヤバいと確信できる。

今回は純粋な戦いだ、キンスラの時も熊の時もケルベロスの時も

周りには仲間がいたから何かあっても安心は出来た。

怪我の理由は大体仲間を庇ったり、防衛対象を守ったりが多かった気がする。

だが今回は純粋な実力勝負で俺は完全に劣っている。

今まで受けた傷は正面から戦って受けた傷。

言い訳が出来ない純粋なダメージ。

しかも仲間がいない、何があっても自身で解決するしか無い。


「分かってる筈、君は完全に私に劣っている。

 確かに格闘術は私よりも上なのは分かる。

 でも、力も劣ってる、防御も劣ってる

 体力も劣ってる、速さも劣っている。

 もはや君に勝算はない、諦めて?」

「言ったろ、俺は無駄じゃ無い抵抗をするって」

「そう……じゃあ、もう今度こそ本当に終わらせようかな。

 同じ事を繰り返すのも面白みが無いし」


そう言い、彼女は俺とは違う方向へ歩き出した。


「……ガラスの破片?」


そして、彼女が飛び込んできた窓の破片を取る。


「何をするか分かる?」

「投げるのか?」

「投げる…に、近いけど、少し違う」


そう言い、彼女はその破片を握り潰した。


「……まさかおい!」

「うん、こうするの」

「やめ! うぉ!」


握り潰した破片をこっちに投げてきた!

バラバラになってるから攻撃範囲とかも広い!

しかもガラスは一撃食らえば相当不味い!

最悪死ぬぞ! それをランダムに投げてくるなんて!


「この! 死んだらどう!」

「これで死んでたら、興味が薄れるだけ」

「しま!」


不味い! ガラスに気を取られてたせいで一気に間合いを詰められた!


「うぁ!」

「ふふ、捕まえた」


しまった…両手を拘束されて壁に追い込まれちまった!

この体勢、血を吸われても不思議無い!

早く振りほどかないと…で、でも!


「ぐ、ぐぅうう!」

「無駄、力で私に敵う分けがない」


今の純粋な力だけじゃ、とてもじゃないが彼女には勝てない!


「さぁ、後は吸血をするだけ、ふふ、首筋からすっげあげる」

「ひぅ…な、舐めるなぁ…」

「ふふ、美味しそう…美味しく飲んであげる」


このままじゃ…クソ! こうなりゃやるしかない!


「り、リミットブレイク!」

「ん? 何を言ってるの? まだ無駄な…な!」


よし! な、何とか力が彼女と互角になった!


「く! い、いきなり力が!」

「うおらぁあ!」

「い、急いで血を!」

「遅い! さっさと飲めばよかったな! 挑発しないでよ!」

「うぅ!」


リミットブレイクの強化のお陰で辛うじて彼女の拘束から抜け出せた。

しかし、これでタイムリミットが決った…残り1時間だ。

結構長いこと戦ったが、これで勝負が完全に決る時間は定まった。

1時間以内に何とか彼女を撃破しないと敗北。

最後の切り札は同時に時間の制約も作ってしまう。

ま、このまま長期戦になったら勝算はなかったんだがな。


「さぁ、今度は決着を着ける! 速攻で!」

「何をしたのか分からないけど…余計に気に入った。

 確実にあなたは私の物にする!」


同時に、勝利する最終手段もひとまず考えついた。

切り札発動後、すぐに勝負を着けるのも悪くないだろう。


「来い! 次で決着を着けてやるよ!」

「気が早い、たかが力だけが私と互角になっただけで!

 どれだけ力を上げても、種族の差で君は私には勝てない!」


挑発に乗ったのか、何も考えず俺に突進を仕掛けてきた。

これは好都合だ、俺の背後に何があるか分かってない。

いや、俺の背後には何も無いのか、あぁ、何も無い。

俺の背後は何も無い暗闇だからな、星空は見えるけど。


「あぁ、その通り…俺だけの力じゃ敵わないから」


俺はその突進を大きく避けて、すぐに彼女の背後に回った。


「また避けたか! 絶対に捕まえる!」

「そんなに俺に引っ付きたいなら、こっちから引っ付いてやるよ!」

「え!?」


そして、彼女の背中に飛びつき、一緒にこの上階から落下。


「な、何を!」

「一緒に紐無しバンジーだ、風が気持ちいいだろ?」

「く! そう言う!」


ただ落とすだけでは駄目だった、それでは翼がある彼女には意味が無かったから。

だから背後から抱きつく必要があった、背後を取れば翼を奪ったに等しいのだから。

ここは結構な上層、一緒に落下すれば俺は死ぬだろうな、このまま落下すれば。


「こ、このぉお!」

「いぐ!」


ち! やっぱり今まで何発も攻撃を食らってたから拘束が甘かったか!

まいったな、すぐにあの子は俺から離れて翼を動かした。

これじゃあ、俺が1人だけで死ぬ事になる。


「死なせてたまるか! 私の!」


落下する俺に向けて、彼女は手を伸ばした……俺の想定通りに。

俺はその手を掴み、彼女の力で僅かに落下の勢いを減衰させて

ある程度まで弱まると同時に引寄せる!


「あ!」

「悪いな、全部想定通りだ」


彼女を上空で引寄せ、彼女の背後に戻った。

そして、彼女の背中を全力で蹴ると同時に地面に落下した。


「ったぁ!」


でもまぁ、かなり無茶をした、流石に勢いを彼女の力で多少殺したとは言え

落下のダメージを無効化までは出来るはずもない…

だが、右足を骨折するだけのダメージで済んだなら悪くは無いだろう。


「うぅ…は、はぁ…何とか生き残った……」


落下のダメージと俺の一撃を完全に受けた吸血鬼も流石に伸びている。

ひ、ひとまずもうこれ以上は力が入らない…しんでぇ。


「あ? な、何!?」


え!? お、終わったと思ったのに何かに引っ張られた!?

ま、まさか気絶したわけじゃ無かったのか!? それは流石に不味…


「ぞ、ゾンビ…」

「あ゛…あ゛…」

「や、止めろ! ふ、服を脱がそうとするな! 離れろぉ!」

「あぅ゛」

「3体も…や、止めろ! 離せ! 離せぇ!」


不味い! 不味い不味い不味い! クソ! 冗談じゃ無い!

こんなの! 折角生き残れたのに! ゾンビなんかに!

ち、力がもう入らないのに! 畜生!


「止めろぉぉお!」

「あ゛……」

「は…」


俺に引っ付いてたゾンビのこめかみに小さな矢が突き刺さった。


「お、お姉ちゃん! お姉ちゃんから離れろぉ!」

「この腐肉が! その子から離れろ!」


あ、危ない…あと少しで服を破かれるところだったが

マリスが合流してくれたお陰で事なきを得た…

ほ、本当に助かった……マリスと、あの赤髪の人はギルドの人か?

剣を持ってるし、前衛かな。


「お、お姉ちゃん! 大丈夫!?」

「お、おかげさまで何とか…ありがとう」

「怪我は…してるな、ボロボロに」

「ぞ、ゾンビから食らったダメージでは無いんですよ」

「とにかく急いでギルドへ! 弱い子がこんな場所にいたら危ない!」

「むか! お姉ちゃんは弱くないもん!」

「ま、まぁ、姉を庇いたいのは分かるけど、君の姉はゾンビにやられそうになってた程の」

「お姉ちゃんは怪我をしてただけなの! きゅーけつきと戦ってて疲れたの!」

「吸血鬼なんて驚異的な奴がここに来るわけないじゃないか」

「えっと、功績を発表したい訳じゃ無いんですが、そこで伸びてる奴

 吸血鬼なんで、何処かに拘束しておいてください」

「……は?」


相当驚きながらも、彼女は吸血少女の身体を確認。

特徴などから吸血鬼であると言う事を把握したようだった。


「……ひ、1人でやったのか?」

「はい、まぁ…1人じゃ無いと犠牲が出そうだったんで…」

「ほーら! お姉ちゃんは強いの! きゅーけつきも倒しちゃうほど強いの!」

「あぁ、その言葉は本当の様だな…この事実に驚きは隠せないが

 それでも今の彼女が戦えないのは事実、急いでギルドへ運ぼう。

 吸血鬼も可能な限り拘束だな…拘束出来るかは怪しいが」


俺は彼女に抱きかかえられ、ギルドの救護室へ移動させられた。

救護室には既に何人もの負傷者が運び込まれていたが

俺の怪我が1番酷かったみたいで、最奥で安静となった。

あぁ…吸血鬼を倒したのマジ疲れた。

とは言え、この功績ってどうやって分かるんだろうか。

気絶させただけだからギルドバッチに記録されるわけでは無いだろうが…

まぁいいや、それより今は生き残ったことを喜ぼう。

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