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不運な主人公

こっちに来て災難続きだ、運悪く熊に遭遇したり

運悪くキングスライムに目を付けられたり。

運悪く、ケルベロスと戦う事になったり…


「…何でこんなについてないかな」


包帯でぐるぐる巻きにされてる手を見て、そんな事を呟いた。

今まで骨折なんてしたこと無いぞ、しかも今回はただの骨折では無く

最悪腕がもがれるほどの骨折だったわけで。

人間だったら再生不可能、と言うより今でも意識は保てない。

と言うか、普通ならこの重傷で自宅休養は無いだろうな。

でも、ワーウルフの特性上再生能力も高いし

更には痛みに対してそれなりの耐性があるから

こうやって家で休む事も出来て、目も覚めたままで自分の手を悲痛な表情で拝んでるわけだ。

正直、最初に格闘(特大)を選んでいて正解だったよ。

これ、人間として生を受けていたら、ただ事じゃ無かっただろう。

しかも何か今は魔法を3発もぶっ放した影響なのか

今体中が滅茶苦茶怠い…はぁ、異世界生活ってのは

もっとこう、モテモテでハーレム作って無双するイメージだったのになぁ。

チート能力も即効性無いし、と言うか、格闘(特大)も使いにくいしなぁ。

いや、万能ではあるんだけど、それでも突出はしてない。

早くリミットブレイクを覚えたいな…

あれを覚えることが出来れば、かなり楽になりそうではあるし。

瞬間的に高火力をたたき出すとか、超かっけーじゃん。

なんて事を妄想できてるって事は、まぁ、大丈夫なんだろうな、怪我は。


「でも、不幸体質なのは変らないか」

(まぁ、あなたは言わば主人公ですからね

 主人公は災難に遭遇する物ですよ)

(おかしいだろ、頻度が…重傷ばかりだしよ)

(キングスライムの時は骨のヒビだけだったので)

(重傷だっての!)

(まぁ、今回よりはマシでしょ? それにほら

 何だかんだで腕も付いてますし、まぁまぁ幸運ですよ)

(最悪死んでたんだよなぁ……はぁ)

(ま、無事だったので良しとしましょう)

(女神様よ…もう少し難易度下げてくれないかな?

 そう、最初はやっぱりノーマルからでお願いします)

(いやぁ、この世界に難易度はありませんよ)

(難易度設定が欲しい…)

(まぁ、あなたには主人公補正もありますし大丈夫ですよ。

 今回も結果無事、仲間達の援護もあり辛うじて生存ですし)

(畜生、誰だよ最初は苦戦する要素は無いとか言った奴)

(はて、誰のことでしょう)

(露骨に誤魔化すな)


あぁもぅ…こんな怪我生まれて初めてだよ畜生め。


「お姉ちゃん」

「ん?」

「ご、ご飯を…食べても良いって言われたのを作ったんだ…

 が、頑張って作ったの……」

「あぁ、ありがとう」

「……お、お姉ちゃん…」


ん? マリスの目に涙が溜まってるぞ…


「……ご、ごめん、ごめんなさい! ごめんなさい! 私のせいで怪我して!」

「……良いんだ、お前のお陰でこうして生きてるんだから」

「うぅ…私、もっと弓矢を扱うの上手くなって…お、お姉ちゃんを守るから!

 だから…だから! 何処にも行かないで!」

「行かないって! 全く心配性だな」

「うぅ…ぐすん…私…頑張る…頑張る…から…」


マリスが俺に抱きついたまま泣きじゃくっている。

やれやれ、甘えん坊さんめ、かわいいなぁ、もう。

……なんて、普段なら思うんだろうな。

でも今は何だかそんな邪な気持ちよりも

この間の安心感の方が上だな…。


「お、お姉ちゃん…」

「何だ?」

「が、頑張るから、ご、ご褒美で…もう少し……このままで…」

「良いぞ、好きなだけお姉ちゃんに抱きついてな、甘えん坊さん」

「…うん、私は…甘えん坊さんなの…」


右手がこんな状態じゃ無けりゃ、抱きしめてあげるんだけどな。

でも、左手は動かせる、せめて片手で抱きしめてやろう。


「私…お姉ちゃんに甘えてばかりだね…お姉ちゃんが怠け者だから

 私がしっかりするんだ、なんて言ったのに…お姉ちゃんが居ないと

 私は何も出来ないみたい…」

「そんな事無いぞ、お前は俺が居なくてもしっかりしてるよ」

「んーん、そんな事無いよ…お姉ちゃんが居ないと私は何も出来ない… 

 ずっと、お姉ちゃんに甘えてたの…お家の事が出来るようになったのもね

 お姉ちゃんに褒めて貰いたかったからなの…それだけなの…」

「じゃあ、俺が強いのはそんなお前を守りたいと思ったからだな。

 頑張り屋さんの妹を頑張って守りたいと思ったから」


妹の事を何も知らない俺がこんな事を言うのは違う気がする…

だけど、それでももう、俺にとってマリスは大事な妹だった。

マリスと一緒に育った記憶も無いのに、俺からして見れば

マリスはもうすでに、俺の大事な家族だ。

絶対に守りたい、そう思った。


「…ありがとう…お姉ちゃん」

「…ありがとう…マリス」


マリスが必死に戦ってくれたお陰で、俺はマリスに礼が言えた。

マリスは俺にお礼の言葉も、謝罪の言葉も言う事が出来た。

マリスが戦う事を選んでくれなければ、俺達はもう2度と

こんな会話が出来ていなかったかも知れない。

ケミーさんに感謝しないとな…ケミーさんがマリスを説得してくれたお陰で

俺はこうやって、無事に生きてるわけだから…流石に無傷では無かったけどな。

しかしま、よっぽど安心したのか、マリスはすぐに眠った。

もしかして、3日間寝てないんじゃ?

ずっと付きっ切りで俺の看病してたし…ありえるかもな。

で、俺の容態が安定して、安心したから眠ったと。


「…………」

「は、入りにくい…」

「え? 何これ、見舞いに行こうとか言い出したの誰よ…」

「わ、私です…」

「まいったわね…ピンクキャットのその後とか伝えようとしたのに

 このタイミングに入るとか絶対にあり得ないわ」

「お、お家で休養っていうのが不味かったかも…」

「うぅ、失敗したわ、重傷なんだしギルドの方で休養させてたほうが…」

「それでも、マリスちゃんは毎日来るでしょうね、いや、ずっと泊まり込みか」

「ケミー…何か良い手を考えなさい」

「無理ですよ…ギルドでもさっき言った通りずっと泊まり込みでしょうし」

「うぅ、でも、マリスちゃんの反応は当然だと思います…

 あんな事が目の前であったんですしね…」

「目の前で最悪自分の姉が死ぬところだったしね、1度は自分のせいで

 2度目は蛇に食われそうになって…ショックを受けない方がおかしいわ」

「いや本当、あなた達の話を聞かせて貰ったけど

 よくまぁ、セイナちゃん生きてたわね…普通死んでるわよ、それ」

「ベテランでも生存不可能レベルですからね、あれは」


……そ、そんなに危機的状況だったというのか。

しかしまぁ、3人も声はもう少し小さくすりゃ良いのに。

と言うか、壁の向こう側で話してるし…1枚窓隔てた向こう側で。

聞えないと思ってるのだろうか…まぁ、マリスには聞えてないけど。

……と言うか、マリス寝てるからな、泣きすぎて眠ったって事か。

マリスの料理食べたいんだけど、この体勢だとちょっと無理かな。


「ケルベロスに襲撃を食らっただけでも相当災難なのに

 更には逃走不可、仲間が居たには居たけど、全員が後衛。

 前衛は自分だけで、攻撃は全部自分が受けるような状況。

 更には防衛対象もあって負傷状態…更にケルベロスの事は何も知らない。

 情報も無し、戦場も危険、体調も最悪、仲間もアンバランス。

 死ぬわね、これは…例え幸運だったとしても、よっぽどの機転が利かないと」

「それが出来たから、セイナちゃんは生存したんだと思いますよ」

「この状況で生存できる程の機転なんて…ベテランレベルでも難しいわよ

 命の危機が眼前に迫って、冷静にいられる奴はそういないんだから」


…実を言うと、女神の力で情報は知ってたんだよな。

情報の有無が勝敗も生死も分けるってのは凄いな。

ただの知識と侮れない。


「でも、出来るって事は凄いでしょう、元より天才だとは思ってましたが

 スキルだじゃないと言う事がよく分かりましたよ、今回の戦いで」

「…そうね、でももう1つ悩んでることがあるのよ」

「もう1つ?」

「えぇ…今回の活躍を本部に申告するかどうかをね」

「そんなの、申告する一択じゃないですか、悩む必要が何処に?」

「レベッカ、あなたはあまりギルドを知らないから言えるんでしょうけど

 ギルドに長く居る、私達からして見れば、結構重大な選択なのよ」

「え?」

「ギルドはあなたが思ってるほどに甘くない、所詮人の集まりだからね。

 考えてもみなさい、10歳にもなってない子供がいきなり頭角を現す。

 その場合、まず何を考えるか、その立場になって考えなさい」

「え? えーっと、子供なのに凄いなーと思います」

「ま、あなたみたいな純粋なタイプならそうでしょうけど

 実際はね、違うの…利用しようと考えるわ」

「り、利用ってどう言う意味ですか?」

「相手は子供、能力もある子供、でも、所詮は子供。

 それがまず、大人が抱く最初の感情、特に上の連中は。

 だから、彼女に近付いて色々と吹き込むわ、未完成の子供が相手なんだから。

 その気になれば、いくらでも好きなように言葉巧みに彼女を変えられる。

 子供の時に受ける教育って言うのは、一生を左右するレベルの洗脳よ」

「な…そんなネガティブな考えを」

「事実なのよね、結構色々な国を見てるとよく分かるのよ。

 あなたもその内、分かるかもね」

「……じゃあ、私達も?」

「そうね、言い方を変えればそうなるわ、この言葉ももしかしたら

 私達があなた達子供にする、洗脳の言葉なのかも知れないわね」

「そう言うの止めてください…私、皆さんの事、大好きなんですから」

「ふふ、ありがとう、でもまぁ、そう言う要素もあって

 あまりセイナちゃんの活躍をギルド本部に報告したくないのよ。

 もし利用できないと分かると、切り捨てられる可能性も出てくるし。

 出来れば、出来るだけ…この小さな田舎でのびのびと育って欲しい。

 あの子達をこんな小さな田舎で腐らせる訳にはいかないって事くらい

 よく分かってるんだけどね」


やっぱり、アリスさん達は俺達の事を良く考えてくれてるんだな。

小さな片田舎のギルド支部長、俺の事をギルドに報告して

俺が活躍すれば、出世できるかも知れないのにな。

アリスさんは頭も良いし、それ位は分かってるだろうが

…自身の出世よりも、血も繋がってない子供達の成長が大事ってか。


「アリスさん、確かにいつか選ばないといけない事ですけど

 多分、今はその時じゃありませんよ」

「…そうね、今はそんな事よりも、いつ家に入るかよね…

 マリスちゃん、結構話したと思うのにずっと引っ付いたままで」

「寝てますよ、マリスはもうね」

「…き、気付いてたんなら早く言いなさいよ、てか…まさか…聞いてた?」

「ん? 何をですか?」

「そ、そう、聞いてないなら良いわ、まぁえっと、入ってもいい?」

「どうぞ、マリスへ話をするのはちょっと無理でしょうけどね」

「分かってるわ」


アリスさん達が家に入ってきた。

マリスをどうするか少し悩んでいたみたいだったから

マリスには悪いが、リビングのソファーに寝かせて貰った。

俺は動けないから、運んだのはレベッカだった。

さて、ピンクキャットがどうなったか、実はかなり気になってたんだよな。

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