表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

九蓮宝燈をあがって死んだら、雀力がモノを言う世界に転生した。

作者: ラボアジA

「その一萬、ロン!」


 パタッと牌を倒す。一と九が三枚ずつ、二から八までが各一枚。


 純正九蓮だ。


 卓を囲んでた悪友らが狂喜乱舞する。


「うおー! なんじゃそりゃー!」

「タカシ、スゲェー!」

「出来るんだな、それ! 写真、写真!」


 振り込んだヤツまで嬉しがってる始末だ。


 もちろんソイツはハコ。俺のダントツでお開きとなった。


「おい! お祓い行っとけよ、お前~!」

「そうだぜ! チューレンあがると死ぬっつーからな!」


 お前ら、神は信じねえっつったのに、こういうのは信じるのか。


「気が向いたら行くよ」


 すました顔で夜道を帰る俺だったが、気付いたら、ガラにもなく鼻歌なんぞ歌っていた。

 ちっ……興奮冷めやらぬってヤツか。あー、くそ。さすがに九蓮はな。別格だ。


 ふと、帰り道に神社があることを思い出した。


 お祓い、ねえ……。

 少し、寄り道して帰るか。


 そう思った矢先。

 車のライトに全身を照らされた。






「――で、俺は車とフェンスにサンドイッチされたってワケか」

「そうです」


 女神がうなずいた。なぜか、黒地に金龍の刺繍が入ったチャイナドレスを着てやがる。


「アレ? あなた、動揺とかしないんですね」

「まあ、それなりに覚悟は出来てたからな」


 何せ九蓮宝燈だ。あれだけ前フリのように言われていたら、納得すらしてしまう。


「で、女神さんよ。俺はどうなるんだ?」

「はい。あなたには、治安の悪い異世界に転生してもらうこととなります」


 そりゃ穏やかじゃないな。


「なんで俺なんだ?」

「あなたは、その異世界に平和をもたらしてくれるパワーを持っているそうです。大神様が言っておられました」

「ただの大学生だぞ」


 節穴じゃねえのか。


「大丈夫です。その異世界は、雀力が全てですから」

「はぁ?」

「前世の最後にあがった手役で、運勢が決まる世界なんです」


 今、なんかオカしなこと言ったぞ。


「あのさ、女神さん。九蓮って知ってるか?」

「はい、伝説の役満ですね。私もよく卓を囲むのですが、未だに出来たことはございません」

「俺よお、最後の手役がそれだった」


 その途端、女神はズザザザザッと土下座した。


「失礼いたしました!!」

「はあ?」

「あなた様は、大神様をも超える力の持ち主!! なにとぞ! なにとぞ世界に、安寧をもたらして下さい!!」

「顔を上げてくれ。力があるんだったら、やってやるよ」

「はいぃ!」


 女神さんは慌てふためきながら扉を出すと、俺をうながしてくれた。


「お願いします!」

「おう」


 俺が扉をくぐった先は、山岳地帯だった。

 つーか、体がそのままなんだが。転生じゃなくて転移って言わねえか?


(体を再構成して、そちらの世界に受肉させました! なので転生です!)


 あっそ。通じるんだな、会話。


(タカシ様の力がスゴイからですね! 普通の雀力ではとてもムリです!)


 そうかい。っつーか、やっぱ雀力なのな。


「キャーッ!」


 そのとき、突如悲鳴が聞こえた。そちらを見やると、砂利道を駆けてくる少女の姿が。十才ほどだろうか、ボロい服を着ており、首輪もはめられている。


「ヒヒヒ! 待てぇ~い!」


 追っ手は三人。モヒカンに肩パッドをしており、見るからに危ない雰囲気だ。

 ――しかし、なぜだろう。ちっとも怖さを感じない。むしろ、ザコとしか思えない。


(それは、タカシ様の雀力がスゴイからです! あんな奴ら、一捻りですよ!)


 何を言ってるんだと思うより先に、そうだよなと感じてしまった。

 雀力こそ全て。それが、感覚として分かる。

 だから、行動した。


「お前ら、待て」


 モヒカンどもに向かって、手で制する。


「この少女をどうする気だ」

「雀帝様に捧げるんだよ~!」

「世界は雀帝様のためにあるんだぜ~!」


 ヒドイ世界だ。


 少女は、俺の背後に隠れるようにしてしがみついた。


「お、おにい、ちゃん……。たす、けて……」

「ヒャッハー! バカなガキだなー!」

「雀帝様の偵察部隊に、勝てるわけねーだろー!?」


 モヒカンの一人が指をパチンと鳴らすと、雀卓が出現した。


「座れコラァ!」

「俺たちポン、チー、カン三兄弟が!」

「ボロ雑巾にしてくれるぜぇ!」


 ――手積みか。

 俺は一瞥したのち、指を鳴らした。


 ドン!


 雀卓は全自動に変化した。


「こいつでやろうぜ」


 モヒカンどもは急にビビったらしい。ぼそぼそ喋り出す。


「お、おい……。コイツもしかして、雀帝様の恐れる『牌に愛された男』じゃ……」

「ンなわけねえだろ? 仮にそうだとしても、チームプレイでハメちまえばいいんだよ」

「流石だな、兄貴」


 俺の耳が良くなってるので丸聞こえなんだが。


 ともあれ、闘牌は始まった。ルールは「ありあり」だ。


「ポン!」


 早速下家が鳴いて牌を捨てる。


「チー!」


 対面が鳴いて牌を捨てる。


「カン!」


 上家が鳴いて牌を捨てる。


「ふふふ……俺たちの恐るべきコンビネーションよ!」

「お前は一人だな!」

「楽勝だぜ!」


 ――ああ、そうだな。楽勝だ。


 ツモ手番で、牌を横にして捨てる。


「リーチ」


 チャッと千点棒を卓に出す。


「お前ら、次に俺が牌を引くまでの命だ」

「なに言ってやがる! ポン!」

「ポン!」

「チー!」

「ポン!」

「チー!」

「ポン!」


 はいはい、仲良く三副露ずつ鳴いたな。


「俺ら、全員テンパったぜ~」

「お前が振り込むのを待つかな~?」

「当然、ダブロン、トリロンありだぜ~?」


 下卑た笑い声を上げているが、ここは、差し込む場面だろ。

 こいつら、軽すぎる。


「ヒャハハ……お前、今更ありありルールにケチをつけるなよ?」

「喰いタンあり、後付けあり! これが雀帝様のルールだぜ!」


 それは知らんが、大体のプロルールがそれだな。


 俺は牌を引いた。

 ほーらな、やっぱり上がり牌だ。


「ツモ。――立直・ツモ・平和・ドラ3。ハネ満だ」

「なにぃぃい!? あぶ!」

「バカなぁあ!! はえ!」

「こんなクソガキが! かー!」


 あがったことによる膨大なエネルギーが、モヒカンどもにドゴォッと浴びせられる。雀力の高さがモノを言うらしく、この一撃で三人ともノックアウトした。一人だけ倍ダメージを食らっているが、そいつは親番であった。


 少女は、俺の所にフラフラと歩み寄ってくる。


「は、牌神様……。おにいちゃんは、牌神様なんですね……」

「そんな大それたもんじゃないけどな」

「でも、手役がキレイ……」

「ああ。シンプルだろ」


 基本にして至高。

 順子四組に、点数の付かない雀頭をもつ形。


「俺はこの世界に、平和をもたらしにきたのさ」

 世紀末牌神様伝説の幕開け!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 麻雀好きなのでとても面白かったです! ポン!チー!ポン!チー!のリズムが癖になりそう(笑) 他の方もおっしゃってますが長編にして色んな役攻撃を見てみたいなあと思いました。
[良い点] そういう落とし方か [一言] 緑一色あがったら周囲が緑で溢れたりするのだろうか?
[良い点] 無垢な少女だから気づく手役の美しさ。的なくだりがとても良かった……。 なるほど牌神様は基本にして至高なんやなって。 [気になる点] ツモピンまでありなのか……世紀末すぎる……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ