九蓮宝燈をあがって死んだら、雀力がモノを言う世界に転生した。
「その一萬、ロン!」
パタッと牌を倒す。一と九が三枚ずつ、二から八までが各一枚。
純正九蓮だ。
卓を囲んでた悪友らが狂喜乱舞する。
「うおー! なんじゃそりゃー!」
「タカシ、スゲェー!」
「出来るんだな、それ! 写真、写真!」
振り込んだヤツまで嬉しがってる始末だ。
もちろんソイツはハコ。俺のダントツでお開きとなった。
「おい! お祓い行っとけよ、お前~!」
「そうだぜ! チューレンあがると死ぬっつーからな!」
お前ら、神は信じねえっつったのに、こういうのは信じるのか。
「気が向いたら行くよ」
すました顔で夜道を帰る俺だったが、気付いたら、ガラにもなく鼻歌なんぞ歌っていた。
ちっ……興奮冷めやらぬってヤツか。あー、くそ。さすがに九蓮はな。別格だ。
ふと、帰り道に神社があることを思い出した。
お祓い、ねえ……。
少し、寄り道して帰るか。
そう思った矢先。
車のライトに全身を照らされた。
「――で、俺は車とフェンスにサンドイッチされたってワケか」
「そうです」
女神がうなずいた。なぜか、黒地に金龍の刺繍が入ったチャイナドレスを着てやがる。
「アレ? あなた、動揺とかしないんですね」
「まあ、それなりに覚悟は出来てたからな」
何せ九蓮宝燈だ。あれだけ前フリのように言われていたら、納得すらしてしまう。
「で、女神さんよ。俺はどうなるんだ?」
「はい。あなたには、治安の悪い異世界に転生してもらうこととなります」
そりゃ穏やかじゃないな。
「なんで俺なんだ?」
「あなたは、その異世界に平和をもたらしてくれるパワーを持っているそうです。大神様が言っておられました」
「ただの大学生だぞ」
節穴じゃねえのか。
「大丈夫です。その異世界は、雀力が全てですから」
「はぁ?」
「前世の最後にあがった手役で、運勢が決まる世界なんです」
今、なんかオカしなこと言ったぞ。
「あのさ、女神さん。九蓮って知ってるか?」
「はい、伝説の役満ですね。私もよく卓を囲むのですが、未だに出来たことはございません」
「俺よお、最後の手役がそれだった」
その途端、女神はズザザザザッと土下座した。
「失礼いたしました!!」
「はあ?」
「あなた様は、大神様をも超える力の持ち主!! なにとぞ! なにとぞ世界に、安寧をもたらして下さい!!」
「顔を上げてくれ。力があるんだったら、やってやるよ」
「はいぃ!」
女神さんは慌てふためきながら扉を出すと、俺をうながしてくれた。
「お願いします!」
「おう」
俺が扉をくぐった先は、山岳地帯だった。
つーか、体がそのままなんだが。転生じゃなくて転移って言わねえか?
(体を再構成して、そちらの世界に受肉させました! なので転生です!)
あっそ。通じるんだな、会話。
(タカシ様の力がスゴイからですね! 普通の雀力ではとてもムリです!)
そうかい。っつーか、やっぱ雀力なのな。
「キャーッ!」
そのとき、突如悲鳴が聞こえた。そちらを見やると、砂利道を駆けてくる少女の姿が。十才ほどだろうか、ボロい服を着ており、首輪もはめられている。
「ヒヒヒ! 待てぇ~い!」
追っ手は三人。モヒカンに肩パッドをしており、見るからに危ない雰囲気だ。
――しかし、なぜだろう。ちっとも怖さを感じない。むしろ、ザコとしか思えない。
(それは、タカシ様の雀力がスゴイからです! あんな奴ら、一捻りですよ!)
何を言ってるんだと思うより先に、そうだよなと感じてしまった。
雀力こそ全て。それが、感覚として分かる。
だから、行動した。
「お前ら、待て」
モヒカンどもに向かって、手で制する。
「この少女をどうする気だ」
「雀帝様に捧げるんだよ~!」
「世界は雀帝様のためにあるんだぜ~!」
ヒドイ世界だ。
少女は、俺の背後に隠れるようにしてしがみついた。
「お、おにい、ちゃん……。たす、けて……」
「ヒャッハー! バカなガキだなー!」
「雀帝様の偵察部隊に、勝てるわけねーだろー!?」
モヒカンの一人が指をパチンと鳴らすと、雀卓が出現した。
「座れコラァ!」
「俺たちポン、チー、カン三兄弟が!」
「ボロ雑巾にしてくれるぜぇ!」
――手積みか。
俺は一瞥したのち、指を鳴らした。
ドン!
雀卓は全自動に変化した。
「こいつでやろうぜ」
モヒカンどもは急にビビったらしい。ぼそぼそ喋り出す。
「お、おい……。コイツもしかして、雀帝様の恐れる『牌に愛された男』じゃ……」
「ンなわけねえだろ? 仮にそうだとしても、チームプレイでハメちまえばいいんだよ」
「流石だな、兄貴」
俺の耳が良くなってるので丸聞こえなんだが。
ともあれ、闘牌は始まった。ルールは「ありあり」だ。
「ポン!」
早速下家が鳴いて牌を捨てる。
「チー!」
対面が鳴いて牌を捨てる。
「カン!」
上家が鳴いて牌を捨てる。
「ふふふ……俺たちの恐るべきコンビネーションよ!」
「お前は一人だな!」
「楽勝だぜ!」
――ああ、そうだな。楽勝だ。
ツモ手番で、牌を横にして捨てる。
「リーチ」
チャッと千点棒を卓に出す。
「お前ら、次に俺が牌を引くまでの命だ」
「なに言ってやがる! ポン!」
「ポン!」
「チー!」
「ポン!」
「チー!」
「ポン!」
はいはい、仲良く三副露ずつ鳴いたな。
「俺ら、全員テンパったぜ~」
「お前が振り込むのを待つかな~?」
「当然、ダブロン、トリロンありだぜ~?」
下卑た笑い声を上げているが、ここは、差し込む場面だろ。
こいつら、軽すぎる。
「ヒャハハ……お前、今更ありありルールにケチをつけるなよ?」
「喰いタンあり、後付けあり! これが雀帝様のルールだぜ!」
それは知らんが、大体のプロルールがそれだな。
俺は牌を引いた。
ほーらな、やっぱり上がり牌だ。
「ツモ。――立直・ツモ・平和・ドラ3。ハネ満だ」
「なにぃぃい!? あぶ!」
「バカなぁあ!! はえ!」
「こんなクソガキが! かー!」
あがったことによる膨大なエネルギーが、モヒカンどもにドゴォッと浴びせられる。雀力の高さがモノを言うらしく、この一撃で三人ともノックアウトした。一人だけ倍ダメージを食らっているが、そいつは親番であった。
少女は、俺の所にフラフラと歩み寄ってくる。
「は、牌神様……。おにいちゃんは、牌神様なんですね……」
「そんな大それたもんじゃないけどな」
「でも、手役がキレイ……」
「ああ。シンプルだろ」
基本にして至高。
順子四組に、点数の付かない雀頭をもつ形。
「俺はこの世界に、平和をもたらしにきたのさ」
世紀末牌神様伝説の幕開け!