最強主人公のぼやき 日中編
俺は今、ある物語の、最強主人公をやっている。どういう話かは秘密『異世界転生冒険ストーリー』ということだけ言っておこう。
もちろん取り巻く世界は、魔法が存在しており、チートでハーレム、俺様世界の物語、
努力もしないで、神様からのギフトと、前世の記憶に基づき、日々無双三昧、冒険三昧、ご都合主義、ばんざーい!
そしてさりげにミッション成功!の展開は、世間一般からは、バッドイメージで、風当たりか強い。
しかし、これは仕方ない事だ。何故なら俺達主人公が、冒険物語では一番に、強くないと話が進まない。
トラブルメーカーだしな、試練や不幸が彼方から勝手に寄ってくる。花に集まる虫の如くに……
それをそつなくこなさないと、物語の展開は、前に進めず後ろに戻れず、大変な事になってしまう。
なので、ストーリーの神がそれに対応するように、最強の位を与えてくれている。そして『最強』を維持管理するために、人には知られてないモノも、主人公に密かに与えられている……
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異世界の森の中に、さらさらと流れる小川、川端に生えている一本の樹、そこに鈴なりになっている、小さな白い実を俺は摘んで、ウェストポーチに入れる。
一つ口に放り込む、噛み締めると弾ける果汁、酸っぱさと同時に清々しいミントの香り、男主人公である自分は、お口の息が爽やかでないといけない。
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一つ、爽やかさ、最強主人公においての絶対的要素、言動、容姿、身だしなみ、常に気を付けなければならない。
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これは、転生する前に神様の元で教え込まれる、マニュアルの冒頭の御言葉、後、二、三、四、と事細かい事が続いていく。
「全く、めんどくさいよな、身だしなみやら、諸々さぁ……」
ホントにめんどくさい、現代日本人だった俺は、若くして世を去り、異世界転生果たしているのだけど、なまじっか『前世の記憶』これが、イラネー!
『おしゃれ君』じゃ無かったからな。寝癖上等、制服クッシャーマン高校生だったんだぜ!
あおぅー、此方に来てから、記憶が甦った後はもう、細々したことが、めんどくさくて、めんどくさくて……
しかし、神様野郎はイメージが大切とばかりに、マニュアルに従わない場合は、過酷なストーリー展開にするからと、呪いをかけて此方に送っている。
「はぁ、これ以上過酷な展開は、やめてくれよ、真面目に従がってるからさぁ」
さらさらと流れる小川で、顔を洗い、ざっと身支度を整える。一体、1日何回、こうやって気を使うか……ジョッシーじゃ無いのだから、やめてくれ……
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「探しましたぁ、ご主人さまぁ」
一人で旅をしていたら『たまたま』大蜘蛛の魔物が張っていた巣に引っ掛かっていて、助けた妖精の少女が、俺の元へと近づいてくる。
いっぱい、探しました。ウサギも探してますよ、私たちから離れないで下さい。
うるうると水色の瞳に涙を浮かべて、背中に薄い羽を持つ、ふあとした衣装を着こんだ少女が、俺にすがりついてくる。
「ごめんね、ウサギも探してくれてるの」
銀の巻き毛の頭を撫でながら、はぁとため息を付く。めんどくさい……はあ?ウサギも探してる?ちゃんと、小川に行くと言ってたんだけどなぁ。
その時、バシャバシャと対岸から浅い川を渡ってくる、兎耳をした、野うさぎ一族の少女が駆け寄ってくる。
「はうー!探したのですぅ、ウサギ寂しかったですぅ」
派手に水飛沫を上げながら、辿りつくと、反対側にこれも必死と抱き着いてくる。
こちらも『たまたま』旅の道行きに巨大なネコの魔物に、お食事になりそうだった処を、助けた為にくっついて来た少女。
ちっ、めんどくせー!せっかく整えたのに、グシャグシャになった上に濡れたぞ!やめろやぁ!そう言って振りほどこうとした時
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二つ、主人公足るもの、つねに紳士的かつ、婦女子には優しく接する事
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ああぁー、第二が、頭をよぎるうー、うっぜー!何せ高校生時代、男子校だったからなあ、婦女子なんて回りにいなかったんだよ!
しかし過酷なストーリー展開は、ゴメン被るので、ウサギにも優しく声をかけて、礼を言っておく。
良かったー、と嬉しそうに見上げてくる『美少女』二人、ちなみにスタイルバッチリ、しかし俺は『ろりろり』には興味はない!
美少女二人?これも、ひたすらめんどくさい!一緒に戦ってはいるけどさぁ、一人の方が気楽なんだよなぁ、
でも、どうやって『ろりろり美少女』侍らす展開が繰り広げられるのか?それはろくでなしの神様野郎が、要らんもん付与してっからだよ!
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スキル、神出鬼没 ヒロインの危機にはどこからともなく現れる
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うぉぉい、やめてくれい!歩いてるだけで、ヒロインの危機に出会う展開、ひたすら、めんどくさいではないかぁ?
なのだが、歩いてるだけで二人を拾ってしまったのだ、神様バカ野郎!それに、魔物やら?変な敵やら?無双?冒険?毎日、毎日、まいにーち!楽しく冒険?
かー!めんどくせー! 1日布団で転がりてー!
俺の心の叫びを察したのか、妖精ろりろりが不安げに問いかけて来た。
「どうされたのですか?ご主人様ぁ、お腹お空きなのですか?もう少しで街に、つきますよ」
ちっ、お前、こういうところ、さといよな。あんな巨大な蜘蛛の巣に空飛んでて、激突するのによぉ、と半目でこの時間に耐えていると、
「大丈夫ですかぁ?お腹空いたなら、葉っぱを採ってくる?」
兎耳ろりろりも何か、ほざきだしている。葉っぱ獲る?食えるのを、採って来るのはいいけど、
その後お前ら、料理シネーのに要らんこと言いだすな!とりあえず阻止だ。
「うんうん。ありがとうね、大丈夫だよ。皆お腹空いているんだね、早く街に行って、ご飯にしようね」
俺は、ダブルろりろりに笑顔で言うと、さぁ行こうかと、歩き始める。
かー!おかーさーん!帰りてぇ!めんどくせー!何が悲しゅうて小学校?中学高校?年齢不詳の奴等の面倒を、みなくちゃならねーんだよ!
はぁ、さっさと街に入って、宿を取ろう、二人からはなれるのには、宿の個室、これしかない!