表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔素の哲学―伝説の精霊樹―  作者: 晴乃チユキ
2/8

第一話「目覚め」  ※12/31 訂正

――ここはどこだ


 真っ暗で何も見えない。頭に霧がかかったようではっきりとしないが、どうやらふわふわ浮いているらしい。


――俺は


 栄一、千代田栄一だ。それは覚えている、でもこの状況はなんだろう。水の中にいるわけでもないのに。


――死んだのだろうか


 そんな気がする、でもやはり頭がはっきりしない。なんだかうたた寝をしているように気持ちがいい。

 目をつむったまま、ゆらゆらと揺れている。その心地良い揺れに身を任せていると、自分という存在が世界に溶け出していくような気がした。スープの中の溶き卵はこんな気分なのだろうか。そんな風に考えていると、ふと小さな光を感じた。


――あ、星だ


 一つ二つ、いや、もっとたくさん見える。夜空を覆い尽くす天の川のように、視界いっぱいに星がきらめいている。気がつけば目の前だけじゃない、前も後ろも、上も下も、全部が星の海だ。


――綺麗


 よく山へ星を見に行っていたことを思い出した。静かな夜、澄んだ空気、あたりは真っ暗で少し怖かったが、望遠鏡を覗き込めば光が不安を消してくれた。

 そうして幾度も魅了された星たちの世界。遠くて、綺麗で、儚くて、吸い込まれそうな夢の場所……今そこに自分がいる。そして数え切れないほどの星たちがこの身体を包み込んでくれている。


――あぁ、綺麗だなぁ


 前を見れば夏の星座、後ろには冬の星座、上にはやはり北極星がある。そうして星の記憶を掘り起こしていると、星たちが瞬いて、煌めいて、何かを語りかけてきた。


――そうなんだ、うん、うん


 星たちは、人類が滅んだことを教えてくれた。そうだ、みんな燃えていた。何もかも、何も、かも。


――っ!


 脳裏に死んだ親子が浮かぶ。それと同時に、匂いや音、あの時感じた全てを思い出した。強く目をつぶってもなお消えない地獄絵図。


――嫌だ、消えろ! 消えろ!


 恐怖が心を満たしたその瞬間に、何かに強く引っ張られた。思わず目を向けると……、


――なっ、地球!


 燃え盛る炭のように、激しく火を吹いている。もはや見る影も無いが、それが地球であることはすぐにわかった。

 その重力に引かれて落ちていく。


――逃げなきゃダメだ!


 あの地球から逃げなきゃ、今すぐ。駆け抜けた時に見た、あの光景。炎に包まれた人たちが叫ぶように煙を吐き出している。あんなところにはもう行きたくない、帰りたくない!

 燃え盛る星の地表から、真っ黒な人たちが自分を見上げている気がした。



――やめろ、こっちを見るな! 消えろ消えろ消えろ消えろ!



 焦れば焦るほど、地球に強く引っ張られる。どこでもいい、逃げなきゃ。誰か、誰か助け出してくれ!



――誰か



 地球を覆い尽くす何かが、自分に近づいてくる。どうやら体の中に入ろうとしているらしい。



――や、やめ



 それらは腹のあたりに集まると強く輝き始めた。その光に誘われてさらにその何かが集まって来る。光はどんどん強さを増していく。



――ぁ



 暴力的な光の奔流が、ついには地球と星たちをかき消した。あまりに眩しくて、何も見えなくなった。











「ぬわっち!」


 右手を空に突き出していた。どうやら仰向けに寝ているらしい。

 物凄く変な声が出たし、時代劇で切り捨てられた人のようなポーズになっているが、気にしない。というか気に出来ない。


「う、お、あれ、生きてる?」


 先ほどまでの出来事に心が全く追いついていないのだ。なんというか、色々とびっくりの連続だった。

(いやなんなんだ本当、夢や幻覚にしたって尋常じゃないぞ)

 地面に寝ていたせいで凝り固まった首をポキポキ鳴らしながら体を起こす。すると、……ジャングルにいた。


「おっと、なんだろうこれは」


 一瞬理解が出来なかった。

 木々が生い茂り、シダ植物らしきものそこかしこで葉を広げている。何やら遠くで鳥の鳴き声もする。

 理解は出来なかったが、……これはジャングルだろう、誰がどう見ても。


「いや、落ち着け。クールだ、クールにいこう」


 どんな時でも冷静になれるのは自分の数少ない長所だと思っている。さすがに人類滅亡はこの上なく取り乱したが。


「あ、そうだよ、地球燃えたじゃん。……いやでも俺は生きてるし」


 あの燃える街と星の世界は妙に現実味があった。しかし実際にはこの通りピンピンしてるし、このジャングルも地球の景色と似ている。 

(うん、現状を鑑みるにやっぱ夢だ! とにかく、楽観的に考えよう!)

 恐怖で萎んだ心を奮い立たせて、ぐっと拳を握る。

 が、しかし自分が原生林に居ることについては全く意味がわからない。


「――青いな」


 ふと見上げれば空が見える。どうやら自分の周囲だけ木や草花が生えていないらしい。

 薄暗い森の中、不自然にぽっかり空いた穴からは陽の光が差し込んでいる。




 改めて考えてみれば、むしろ今こそがピンチなのである。どこかもわからない原生林の中にスーツ姿の自分一人なのだから。

 何か役立つものは、と身の回りを確認するが、仕事中いつも持ち歩いているはずの鞄が見当たらない。記憶ではコンビニに入った際に、自分の足元でスライムさんへ進化していたが、あれは夢なのだ。……靴やズボンの裾が灰で白くなっている事に気がついたが、それは見なかった事にした。

 結果、スーツについているいくつかのポケットに望みを託す事になったのだが、


「のど飴1個ておまえ……、おまえ……」


 それもそのはず、夏場は蒸れるので、携帯、財布、名刺入れなどは全て鞄に入れているのだ。腕時計も汗を掻くので移動するときは外している。


 二十八歳独身男性、持ち物、飴玉ひとつ。

 その飴玉も職場のパートさんから貰ったまま忘れて、ポッケの中で1週間以上経過したヴィンテージときている。

 自分でももう嬉しいのか悲しいのか分からないが、とりあえず肩は震えている。

 あ、なんか視界がぼやけてきた。熱中症だろうか。



――――――――――――――――――――



 大自然の中、手の平に飴玉を乗せた栄一が泣いてると、そんな彼を慰めるように、肩に何かがとまった。


「ん?」


 彼の瞳を昆虫特有の複眼が覗き込んでいる。栄一がピタリと固まったのを見て、そいつは不思議そうに首を傾けた。



「ぃいいいいいいいいいやあああああああああああああ!」



 鬱蒼としたジャングルに、オカマのような悲鳴が響き渡った。

 稚拙な文章に最後までお付き合い頂いてありがとうございます。気になるところがあれば教えてください。

 ちなみにこの第一話からは一人称視点で書いていこうと思っています。たまに三人称での描写も入れていきますが、その場合どう分けたらいいのでしょう。改ページとかはないですし。そのあたりも含めて勉強していきます。


 次回はようやく栄一以外の人間が出てきます。あ、ちなみに最後の昆虫ですが、正体はでっかい蚊トンボです。これも次話で詳しく描写していきますが、実はマスコットにしてしまおうかと悩んでいます。

 プロローグの「燃える街」と「星の世界」、これらの説明が出来るのはかなり先です。


12/16 いくつかの表現を修正しました。

12/31 訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ