9.小さな騎士達
す、すいません。ハム、体力がついていかないので、1話ずつしか載せられない様です。失速しました。申し訳ない。
9.
「よお、チビリーダーが揃ってお供かよ」
太鼓腹の髭親父が『ハマーの台所』という看板を掲げた(よ、読めない…)店の中で鍋を振っていた。
「何言ってんだよ、親父さん。どーせとっくにレイクから連絡貰ってんだろ?」
シンがそう言うと、彼はニヤリと笑ってあたしの方にウインクを寄越した。
「バレたか。どうせお前さん達はここに来る筈だってよ。それで昼食はヤツの奢りだそうだ。ガキ共好きなだけ食ってけ、勿論猫のお嬢ちゃんもな」
ハマーが顎をしゃくった先のちょっと奥まった席に予約席、と書いてある。
店は料理のついでの様に昼間からお酒を飲ませる店だったらしく、何人か既に酔っ払いも居たが、4人の小さなナイトがエスコートしてくれているので、問題は無かった。……まあ、
「おう、シン〜お前にはその綺麗なニャンコはちょーっと早過ぎるんじゃねぇか?」とか、「リンダ、その姐さんに一杯奢らせてくれよ」とか、声は掛かった。掛かりはしたが、「煩え!この猫娘は大事な預かり物だ。コナ掛けてんじゃねぇぞ?」とか、「は?寝言は寝てから言いな!この酔いどれ‼︎身体の真ン中を撃ち抜かれて風穴開けられたいんじゃなきゃあ、そこから一歩も動くんじゃないよッ‼︎」
と、いうやり取りくらいなら、あった。
…後、実際にメイがデッカい刃物を構えていたり、ハンクが冷たい視線で睨みを効かせていたり…ハマーが柱に包丁を投げて刺さったり。
そんなこんなしてる間に運ばれてきた食べきれない程の料理は庶民的な味だがとても美味しかった。
楽しく舌鼓を打ってお喋りしていると、隅の方でキラリと輝くものが見える。何、アレ?
それは綺麗な金髪で、リンダのものより幾分明るい色をしていた。体躯の良い青年らしいのに、浴びる様に酒を呷っている。
よく見ると造作もずば抜けて美しい。なのに、そのブルーグレイの瞳だけが死んだ魚の如く濁っていた。
「都落ちのリュシオンだよ」
視線に気付いたハンクが教えてくれる。
「ああ、ヒュータイプのフィメール担当まで登ったんだろ?何しでかして、追放食らったんだか。まあ、キャサリンお嬢お得意の我が儘じゃねーかっつー噂だがな…何しろ世話係も気に入らねえって、取っ替え引っ替えやってるらしいからな」
キャサリン…って、あのレイクを欲しがっている、って、女?
「フィメールって?」
「ああ、ヒュータイプの女性体の事。男性体がメール。ま、主に彼等の名前を呼ばない為の貴称ってとこかな」
やっぱヒュータイプって偉そうね。名前も滅多に呼ばせないワケ。
「─────キャサリンって人、綺麗なの?」
一番引っ掛かっている処だ。レイクもその辺は曖昧にしていたし。
「そうねぇ…典型的な米系のお姫様よ?淡い金髪にブルーアイ。ブロマイドとパレードでしか姿を見た事無いけど、綺麗っていうより可愛いカンジ?確か今年17歳よ」
ホンモノの若い娘さん…ちょっと、落ち込む。
「レイクは、さ。その、格好いいじゃない?何でタワーに勤めてないの?」
四人は顔を見合わせた。ハンクがちょっと考えてから仲間に頷く。
「呼ばれたんだよ、ホントはね」
シンが唇に指を当てて、『ここだけの話』と前置きした。
「この地区からセントラル・タワーに出仕出来るのはよっぽど能力がなきゃ、ムリだ。
だか、レイクは凄えヤツだからな〜かるーく実技も試験もパスした。望めばすんなり採られる血統書付きと違って、一般枠なんかお上が庶民に夢を見せる為のブラフって言われてるぐらいだ。凄く珍しい事なんだよ」
真剣に話を聞いているあたしの腰をメイがポンポンの叩く。
くぅっ、また何か励まされている。
「でもね、不思議なの。あれくらい出来た人だから、例え苛めとかがあったとしても、軽く往なしてやり遂げられた筈なのよね…。
逆に周囲を黙らせてしまうくらいの実力と迫力とカリスマ性があるんだから。頭も凄くキレるしね。なのに何で研修期間過ぎた辺りで、スパッと辞めてきちゃったのか、誰も知らないのよ」
リンダがパスタをくるくる巻いたフォークを左右に振りながら、そう言う。
「でも、一回は望んで行ったんだよね?その時─────そのお姫様見た筈だよね?犬種って、皆ヒュータイプの事好きなんでしょ?…レイク、どう思ったのかなぁ…」
キャサリンが呼んでいる。
その言葉に本当に彼は揺れなかったんだろうか?
あたしは…『造り物』の娘だし、アジア系だから鼻は低いしー黒髪だしー肌は黄色いしー。
断ってくれたのは、あたしが『あげない』とか、言い張った所為だとか…。
「……………」
メイがあたしの髪をつんつん引っ張って、呼んだ。
振り向くと、膝によいしょ、っと乗り上がり、首にギュッと抱きついてくる。
「ふふ。メイがね、フィメールよりマイコが好きだって」
ハンクが微笑みながら、テーブルの上に身を乗り出す。シンが目を見張って、それから慌てて片手を上げた。
「あ、俺だってマイコの方がいいぜ?俺ら全員、成人すれば呼ばれて採られる自信はあるけどよ。それでもし、マイコと姫さんが同じヒュータイプだったとしたら、絶対ェ俺、マイコがいいもん」
全くしょうがないなぁ、という顔をリンダもしている。
「馬鹿ね。今、レイクはお姫様じゃなくて、アンタの傍にいるんでしょう?彼女を知らなかった時なら未だしも、彼はお姫様を知ってんのよ?」
皆が彼女の落ち込んだ理由を一発で見抜いている。 さすがというか、チビリーダーズ。
「まあ、ね。アンタ、黒髪は綺麗だしー見てくれもまあ、合格。アジア系って神秘的って言うじゃないの。レイクはあたしが大きくなるまで貸しててあげるから、ちゃんと傍で見張ってなさいよ」
大の大人が子供四人に慰められている。…ううっ、心底情けない…。
躊躇いながら、シンがあたしの頭を撫でようとしてメイからその手をフォークで刺され、『ぎゃお‼︎』とか叫んでる。
リンダがあたしの外見の長所を活かした着こなしやヘアスタイルのアドバイスをくれ、ハンクは少しアルコールの入った甘いドリンクを持ってきてくれた。
──────なんて、いい子達──────
感激している、その時、
「うるせえ、『都落ち』‼︎タワーから追ん出されたクセに、お高くとまってんじゃねぇぞ‼︎」
怒声に振り返ったマイコは、彼が一発食らったかと思った。酔った巨漢がリュシオンの胸倉を掴み上げ、丸太の様な太い腕を振り下ろしたからだ。
ところが、予想と反して自分から沈んだ青年は、素晴らしい身体のバネで両足を揃え、男の顎を蹴り上げた。
巨漢は引っ繰り返り青年は何事も無かった様に立ち上がると、また酒を手にしている。
「やべー騒ぎ起こるぜ〜。ったく、メシくらい静かに食わせろよなー」
案の定、男の仲間らしき数人にリュシオンは取り囲まれる。躱す内、酔ってなければ対処出来た筈であろうそれを、彼はうっかり食らってしまった。
不幸にも彼が吹っ飛んだ先に────舞子がいた。
咄嗟に舞子はメイを突き飛ばして、リュシオンを受け止めて壁に激突する。
「マイコっ‼︎」
シンが叫んで、「テメーらッ‼︎いい加減にしやがれッ‼︎」と腰の銃を抜いた。
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少しずつ読んで戴いて下さる方が増えて、嬉しいです。8/19修正。