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7.野良犬街にて

すいません、寝落ち増えてます。年寄りには2話投稿無理がある様で。予定より早いですが、1話投稿に切り替えます。相良が同時進行していますのでそちらがUPした場合は更新は無い日も…。

7.



 郊外に出ると見せかけて、レイクはタワーのお膝元である街に戻った。

 とは言え、そのままでは舞子が余りにも有名になり過ぎている。

 黒髪のヒュータイプは既に都市伝説になりつつあった。そこで、通称『野良犬街』と呼ばれる下町に姿を隠す事を彼女に告げ、彼の隠れ家の一軒に彼女を隠すと、当座の生活の為の買い物に出向いた。

 残された舞子には炊事と掃除くらいしかする事が無い。


「何年もかえっていないにしては綺麗よね。…誰か、掃除してくれるイイひとでもいるのかしら?」

 影のある美貌の青年は女の格好の獲物だ。


 あんな、美味そうな!


 タオルで薄い埃を拭いていた舞子は、それを置いて手を洗うとイライラと爪を噛みながらソファーに勢いよく腰掛けた。


 すると小さな、複数の声が聞こえる。


『バカ、押すなよ‼︎見つかっちまうだろっ!」

『押してないわよ、アンタこそ見えないのよ!退きなさいよっ‼︎』

 うわぁっ、と大きな叫び声にそれは変わり、ドサドサッという落下音で締め括られた。

 そっと窓の外を覗くと、


「……何をしているんだ、お前達は…?」

 帰って来たレイクの視線の先に、ころころと犬種の子供達が転がっていた。







 女の子二人、男の子二人。それぞれ街の東西南北を仕切る、子供達のリーダーだと紹介される。

 そんなに広かったのか『野良犬街』…。

 舞子が驚いていると、東区のシンが口を尖らせて文句を言う。茶髪茶瞳のガキ大将タイプだ。

「だってよう、レイクが女をこの隠れ家まで連れてくるなんて、今迄いっぺんも無いしよー。リンダが見に行こうって煩かったんだぜぇ」

 西のリンダは鮮やかな金髪碧眼のちょっぴりソバカスが浮いた女の子。

「ち、違うわよレイク!シンが言い出しっぺなのっ。あたしは…あたしというものがありながら…その、猫種の女を連れて来たって聞いたから、どんな関係なのかなーって…サ。

 シンっ、あんただってノリノリだったじゃないのッ⁉︎」

 それで?と真顔のレイクが促すと、四人は『ごめんなさい』と謝った。


 まあ、一人はあたしの膝の上で頭を下げただけだったけど。


 レイクの傍に居たシベリアンハスキー系のお兄さん(結構美形)シルバドが面白そうに微笑っている。

 この人は古い知人と紹介されただけの謎の人だ。

「それにしても、『沈黙のメイ』がこうもあっさり懐くとはね」


 引き合わされて直ぐ、北区のメイはトトト、と寄ってきてスカートの端を掴んだ。

 銀髪紫瞳の南区のハンクがシルバドを一瞥すると、メイの赤毛を撫でて品良く挨拶をしてくる。

 その彼に「そうなの?」と尋ねると、

「うん、メイは滅多に人に甘えたりしないんだよ」と微笑った。


「そーだよなーっ!俺も不思議だったんだよー」

 なあ、あんた何者?とシンが舞子の袖に手を伸ばした所にメイの蹴りがヒットした。

「何だお前、独り占めはズルいだろうーッ‼︎」

 耳と尻尾だけが獣種の証、という犬種の四人は長ずれば親衛隊に成り上がれる程の条件を兼ね備えている。

 そんな下町少年少女は何の因果か知らずヒュータイプの舞子に群がっている。

 反感を持っていた筈のリンダですら、『ねえ、お化粧品は何を使っているの?』とか熱心に話し掛けてくる。

 それは彼女の人徳か、それとも犬種の本能か。

 更にシルバドが女好きのする顔をニコニコと綻ばせ、舞子に右手を差し出した。

「あ、舞子です。いつまで居るかはレイク次第ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ。何か困った事があったら何でも言ってね?お望みなら手取り足取りお世話しちゃうよ」




 ガスッ‼︎────────鈍い音がした。




 見れば、綺麗にシルバドの腹部にメイの頭突きが入っている。

「……容赦、無い……ねぇ…」

「信用ないからだろ?」「節操無し」「手と足だけじゃ済まないのは分かってるし」

 お子様達に口々に罵られ、軽く仰け反ってダメージを見せる銀髪の色男シルバド


「それくらいにしておけ」

 怜悧な黒髪の従者は主人の手を取って傍に引き寄せる。

「れいく〜明日大老ンとこ挨拶、行くんだろ?俺、彼女預かろうか?」

 凝りもせず、手をひらひらさせながらそう青年が言うと、また周りが騒ぎ出す。


「シルバド」

 静かだが、有無を言わさぬ声がした。

「これに手を出すな。────俺の、女だ」

 一房持ち上げた長い黒髪に接吻しながら、一同を見据える。

 ぐ、と雰囲気が支配される。逆らえない空気がピン、と張り詰めている。

 唯一人、舞子の頭の中だけは熱泥の様に蕩けていた。

『俺の女』という単語がぐるぐると回り、頬を抑えて茹で上がっている。

 それでも、おずおずとメイが留守中の街案内をかって出ると、少し考えてレイクは深く溜息を吐いた。

 断ってもどうせまた押し掛けて来ると見越して、一つ頷き了承すると、全員をそれこそ犬猫の様に戸外に放り出す。

「明日なー」「また明日ねー」「……」「朝から来るからね〜ッ‼︎」

 四人が大きく手を振っている。シルバドは軽く頭を横に倒しただけで、肩越しに微笑んでいるだけだ。


 ばたん、と扉を閉めて、レイクは後ろ手に鍵を掛ける。知らず嘆息していた。

  ……まあ、彼等の実力は下手な大人より確かなのだし、ここに置いておいても好奇心に駆られた誰が訪ねないとも限らない。

 そう考えて許可したのだが…。

 クスクス笑いが背中からした。

「好かれているんだー。レイク」

 青年は腰に手を当てて、尻尾をばさり、と振った。

「好かれているのはマイコだろう。用心深い彼奴らが初対面の人間にああも纏わりつくのを俺は初めて見たぞ」

 そう言うと荷物の中から櫛を取り出す。彼女に椅子を差し出して、

「そら、揉みくちゃにされて髪が乱れている。梳かすから、こっちへ」


 いや、それはアナタ、女として恥ずかしいでしょう!


 舞子は相変わらずの彼の甘やかしに逆にレイクに向かって手を差し出した。

「髪ぐらい自分で出来るわ。貸してソレ」

 すると、青年は目に傷付いた光を浮かべ、ゆっくりと首を振った。


「彼奴らにはあんなに触らせたクセに、俺は嫌なのか?」

.



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