6.僕と逃避行
…ごめんなさい、昨日寝落ちしました。待ってた人が居たらごめんなさい。orz
もうこの時間なので、もう1話あげれるかはビミョー。
6.
熱に浮かされた様に与えられたそれは、魂さえ奪われる程に甘く、うっとりと誘う。
「あんたのものになっても、いい。あんただけのものに」
髪に差し込む様に滑らされた指に梳かれて。
「ほんとに……?」
両手を摩りながら手首を掴まれ、引き寄せられて彼の胸をシャツ越しに感じた。
「ああ。ただ一つ、約束さえしてくれたら」
「何を、すればいいの……」
ゆっくりとレイクが舞子の手を自らの肌に這わせて艶然と彼女を見つめれば、舞子はとろりと溶けそうになる。
「約束、だ。─────俺の、俺だけの主人になる。と」
その言葉に灼熱に灼かれたかの如く、舞子は覚醒する。
「出てくゥ───────ッ‼︎」
出口の扉に凭れながら、レイクは深く溜息を吐く。
「何が不満なんだ?マイコ」
デカイ男が出口を塞いでいて、どうしようもない舞子は、長い黒髪を乱して地団駄を踏んだ。
今はもう、そのすらりとした肢体すら憎らしい。
「好きだと言っているのに『主人になれ』と言われて、嬉しい女が何処に居るかー‼︎」
「何でも言う事を聞いてくれて、傍に居る点では恋人となんら変わりは無いだろう?」
聞き分けのない子供を前にした大人の余裕で対応する青年を、外見少女は力一杯、ドアの前からどかそうと踏ん張る。
「あるわ、スカたん!甘いエサぶら下げて要求をゴリ押ししようとは全くもって言語道断。うううう〜そこからどけえ」
「駄目だ、マイコ。俺は既にここで答えを聞いた。あんたは俺のもので、俺はあんたのものだ」
耳を指差し、人の悪い笑みを浮かべるレイクラス。
「イってないわーッ‼︎」
「好きだと、二回も言ったぞ?」
真っ赤になった彼女を更に部屋のパトライトが赤く染めた。
サイレンが鳴る。侵入者だ。
素早くレイクは家中あらゆるロックを掛けると、舞子の手首を掴んで引き寄せ、浴室に駆け込んだ。洗面台の下を探り、そこに隠してあるバッグを取り出すと、一つを彼女に持たせて壁のパネルを操作する。
すると、そこがエレベーターの様に上に移動し、再び止まると同時にレイクは舞子を抱えて飛び出した。
真っ暗な、広大な空間に鍾乳石が光る。そこはまさかの鍾乳洞だった。
エアバイクに跨った彼はこちらへ手を差し伸べる。
「マイコ、どんな危険からも俺が護ろう。だからもう、諦めろ」
エンジンを掛ける音がした。けれども、彼の言葉はそれにかき消される事は無い。
「俺はあんたを選んでしまった。もう、誰も選べない」
一歩、二歩と引き寄せられる。
「俺を選べ、マイコ」
捕まった。差し伸べられた手を掴んでしまった舞子は、レイクに完全に捕らわれた。
爆音と共に垂直に動いたバイクに驚いて、青年にしがみ付く。
「くーっ!何か騙された気分⁉︎詐欺のカモになった気分⁉︎」
クスクス笑うレイクは悔しがる彼女とは逆に上機嫌そのものだ。
「マイコ、ゆっくり飛ぶからバッグの中身を見てみろ」
拗ねて、ぱかっと勢い良く開けると、付け耳付きの帽子とクリップで根本を挟むタイプの尻尾が入っていた。テイストは猫だ。
後、出会った時着せられたのと同じボレロ風の銀のジャケット。
「それも着ておいてくれ」
舞子はノースリーブのワンピースを着ていて、特に必要かと思って首を傾げると、上から、
「誰にも見せなく無いんだ、あんたを」
素っ気ない物言いに見透かせる彼の本心の吐露を感じて、舞子は照れながらそれを纏った。
市場近くの廃屋に出た二人は、賑わう通りをゆっくりとバイクを降りて押して歩いた。
「うわーっ!賑やかだねぇ〜…で、大丈夫なの…?」
最後は囁く様に尋ねた。目線だけで青年が肯定する。さり気なく見回すが追っ手もいない。人に紛れる作戦の様だ。
「おねーさん、綺麗なニャンコだねぇ〜。どう?その耳に似合う俺ン店のピアスは⁉︎」
その露天商の言葉に振り向いた時は遅かった。
耳に付いた帽子は引っ張られ、黒髪が現れ、ふわりと広がった髪に自前の耳が露わになる。
「あ、あんた…ヒュータイプッ⁉︎」
若い露天商の驚きの声が上がり、いきなりバレた。
動揺が広がり人垣が出来る前に、レイクは彼女をひょい、とエアバイクに乗せると、爆音を立てて旋回した。
途端、悲鳴が上がり道が出来る。
そこを逃さずスピードを上げ、周りを掻き分けて行く。
通りを幾つも曲がり、郊外に出ようとして不可視の壁にやんわりと阻まれた。
レイクは咄嗟にバイクを見事に操り、舞子も落とさず民家の屋根に着地した。
ほぼ同時に遠かった追っ手の爆音が何台分も頭の上を飛び越えて追い付き、行く手を塞ぐ。
「久しぶりだな、レイクラス!」
その連隊が指揮していた一台から、朗々とした声がした。
「ち、御大直々にお出ましか、ヴィンス・セイラム」
金髪で青い目といった典型的な白人種らしい特徴を備えた彼が、微笑みながら此方を見下ろしてくる。
歳の頃ならレイクと同じくらいか。
人類の淘汰された結果であろう美貌が陽の下に輝いている。その上でその瞳には自分の優位を疑わない傲慢さが垣間見えた。
「どうして逃げるんだい?私は君にとても逢いたかったのに。
そうそう、キャシーもそう言っていたよ?
だからね、このままそのお嬢さんを連れて、タワーまでついておいで」
「断る。随分前に親衛隊入りの誘いは蹴った筈だ」
尊大な態度で肩を竦めるヴィンスは、その整った顔で呆れた様に嘲笑する。
「馬鹿だね、レイク。私は今、君が彼女を引き渡し、キャシーの下僕になるなら、全てを不問にしてあげると言っているんだよ?この温情が分からない君でもあるまい?」
「あんたも分からない人だな、どちらも呑めん条件だから逃げたんだ」
二人の言い合いに不機嫌な舞子がのそり、と顔を覗かせる。
「………キャシーて誰?」
「……この状況でよりにもよって、引っ掛かるのはそこなのか…。キャサリン・セイラム。あいつの妹で、もう一人のヒュータイプだ」
「………美人?………」
嫉妬丸出しで尋ねてくる舞子に、一瞬状況を忘れてレイクは笑った。
「いや。あんまり我儘でな、俺の好みじゃないんだ」
それを聞くと、勇気凛々、舞子は声を張り上げた。
「ちよっと、そこの人‼︎」
愛らしい同胞の突然の参戦に、ヴィンスは安心させる様な笑顔を浮かべた。
「ああ、お嬢さん。直ぐに助けてあげるからね。ちょっと待っててくれるかな?」
そう優しく声を掛けた端整な美青年に、ビシィッ‼︎と指を差した。
「何、勘違いしてんのっ⁉︎このスットコドッコイ!」
助けに来た美女に罵られ、『すっとこ…?』と驚愕するヴィンスと供の親衛隊。
「この男は絶対、誰にもあげないわよッ‼︎
大体、どんだけあたしが頑張って落としたと思ってんのよ!それを横から掻っ攫おうとは神をも恐れぬ所業と知れ!たとえ、誰が許そうとこのあたしが許さん!」
レイクの首に抱き付き、肩越しに男達を威嚇する黒髪のヒュータイプに敵味方、凍った。
「いや、マイコ……何方かと言えば、俺はおまけで」
あんたがメインだと思うぞ、というツッコミは
激昂した舞子の耳には全然届かない。
「レイクは、レイクはねぇ、─────あたしのものなんだからっ‼︎」
放すものか、とぎゅう、と抱き付く貴人のその姿に、黒髪の犬種はクスクスと笑いが堪え切れなかった。
嬉しい。歓喜が脳天まで突き抜ける様だ。
その執着にヒュータイプのヴィンスはおろか、彼の親衛隊すら呆気に取られて動揺が広がっている。好機だ。
「すまんな、御大。そういう訳で、俺も俺の主人もあんたの保護は全く必要としてないんだ。
と、言う事で─────」
レイクが思いっきり投げた拳大の何かが爆発した。それは煙幕を張って視界を塞ぐ。
「妹によろしくな‼︎」
再び、エンジンの爆音。それが晴れた時、二人の姿はもう何処にも見えなくなっていた。
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