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32.等身大のそのままで

なーんーざーんー。しかし、書き始めた時には出てこなかったメインテーマが漸く…!

間が開き過ぎて話が分からなくなった方は前話の後書きの『あらすじ』をご覧下さいませ。

32.



 バチィ!と弾ける様な音がして、後は音も無く開いたそこを抜け、物陰で準備していたタワーのお仕着せに着替えた。

 近衛や親衛隊辺りになると実力はともかく、とかく顔が売れている場合が多い。

 そこで一般職員になりすまし、『目』はコンタクトで、『指紋』は極薄のシールで誤魔化している。敢えてツールに変化する伊達眼鏡を掛けてオーラを消すと、瞬く間に『背景』へと変わる。


 何処だ、俺の女神。


 目的を持った者が持つ歩き方をしながら、タワー内の構造を脳内に描き出す。

 人種女性フィメール人種男性メールは防犯の関係上、違う階に居る。程良く上層階だが、10階程離れている。

 舞子とキャサリンは各々1フロア割当てられ、占有している筈だから、当たりは付けやすい。


 一般職員の使うエレベーターが止まらない階が彼らの『部屋』だ。

 昇降ランプを素早く一瞥すると、何かを思い出したフリをして物陰に隠れ、コンサートの早着替え等で使われる密着型の3Dプロジェクターで服の外観を親衛隊の物へと変化させた。

 そして何食わぬ顔で指紋を照合させ、士官専用のエレベーターを使い、フィメールの住まうエリアへ足を踏み出し……


「──────キャサリン様は何方に⁉︎」

「セルマー達が当番だった筈だ!見た者は居ないのか?」


 そこはキャサリンのフロアだった。

 一瞬、潜入がバレたのかと冷汗ものだったが、どうやら信じられない事にあの『お姫様』が行方不明らしい。

 タワーしか、忠義な犬種しか知らない彼女には『外』を選ぶ事は有り得ない。

 ならば、死したキャサリンの近衛リュシオンの最後の【告白】が理由として息づいてくる。

 タワーの見取り図に潜った(ダイブ)時に見つけたメディカルセンターに繋がる在る筈の無い通路と空間。それをこの失踪に結び付けるのは簡単だった。ただ、舞子がそこに居るかは不明である。一番の目的は彼女の奪取。後顧の憂いを断つまでの余裕があるかは現状で判断するしか無い。

 唯、リュシオンはキャサリンが兄のしている『実験』を知らない、と言っていた。

 彼はキャサリンを慕うが故に、もう一人の主人の秘密を突き止めてしまった。そしてそれを逆手に取られ、重過ぎる忠誠心を楯に追放されたのだ。おそらく奴の最後の女が舞子で無ければ、放っておいてもこの『秘密』は墓場まで持っていかれただろう。

 何故なら高確率でヴィンスは『妹の再生』に舞子を『使う』。犬種を知るが故にリュシオンの忠義を疑わないあの男は、俺に秘密が漏れる事など思いもしない筈だから。


 冗談じゃない。素人の馬鹿の狂気の沙汰でキャサリンが死ぬのは一向に構わないが、舞子を道連れにされるのは真っ平御免だ。


 彼女が連れ去られてからずっと、『逃走経路』と『逃亡後の先』と『舞子の思考』をずっと考えて行動していた。


 裏切られる事の無い『伝説のフィメール』である彼女は、心を痛めながらも必ず内部で『自分だけの信奉者しんじゃ』を作る。

 そして脱出に備える筈だ。


「キャサリン様はメディカルセンターへと行かれたそうだ!誰か問い合わせてくれ‼︎」

「──────どういう事だ?センターの職員は『お見えになっていらっしゃらない』と言ってるぞ⁉︎」


 騒ぎは酷くなる一方だ。


「あ?何だこの通路は!」

「────これ、は例のアレ…じゃないか?メールの課された、その、月一回の…」


 つまりは優秀な精子と卵子の運ばれていく先に通じる通路という訳か。

 通常隠されている筈のそれが何故か開いたままになっている事から、舞子かその信奉者がわざと(・・・)開閉のデバイスを壊して進んだと見られる。それで発見された様だ。

 だが、行き先がヴィンスの研究室という事もあり、親衛隊はメールの叱責を怖れ、二の足を踏んでいた。

 その男達を他所に俺は入口前に躍り出ると、脇目も振らず駆け出した。

 デバイスの破壊により閉じ込められる事は無くなった。後は続く者を途中で一人ずつ無力化すれば良いだけだ。

 長い通路で待ち伏せし、来たのは5人程だった。有難い、そう消耗しなくて済む。

 電磁波を起こすグローブを起動させ、タワー内部だからと油断しきった彼等を一人残らず悶絶させ、落とすと瞬間、舞子と揃いの白いブレスから信号が走る。


 それは照明が僅かに放つ紫外線を真似た無害な性質の波動だった。だからこそ、非常時のライト程度にしか思われず、取り上げもされなかったのだろう。


 だが、受け取る側には詳細な位置情報を発するナビゲーションと化す。


 やはり、奥か。─────急がねば。

 二度目の合図は『バレても構わない』という舞子の意思表示だ。

 ならば状況はそれを気にしない程に逼迫ひっぱくしているか、脱出可能な混乱の極みにある筈だ。


 通路に素早く罠を仕掛けながらも、レイクは青い瞳を鋭く光らせ走った。









「─────さて、キャサリンの近衛の皆さん?ここは人払いをしてあるから、ヴィンスの近衛は遠ざけられているわ。存分に何故、『この研究室でキャサリンの為に(・・・・・・・・)何が行われていたのか』を尋ねて頂戴?彼がどうしてこうも取り乱しているか…賢い貴方達なら、大凡おおよその見当が付く筈よね?」


 騒ぎから身を引いた舞子は、厳かと言っても差し支えない程の腕の動きで赤く照らされた不気味な部屋の内部を指し示した。


「──────‼︎み、見るな、見るなぁッ!」


 カインの腕の中で更に激しく身悶えるヴィンスは余裕無く、年若いありのままを晒している。

 キャサリンの近衛達は戸惑いの気配が強く、余りの事態に主人であるフィメールに手を差し延べる事すら思い至らな様だ。


 いや、この場の惨状と『ここに何が運ばれて』『それが誰の為か』を結び付ければ、自ずと朧げながらも真実が見えてくる筈だ。


 ここに居る『純粋な(・・・)フィメール』は誰なのか、という事に。


「────貴方方、犬種の忠誠などその程度のもの。血筋が違えば惑い、昨日まで命を捧げた主人の慟哭にも頓着しない。

 盲目的に人種ヒュータイプを敬い、従うは自分の意思などそこに欠片も無いんでしょう。愛情も尊敬も思慕も。全ては『完璧な人』の姿、遺伝子の上にあるだけ。

 キャサリンはそんなに綺麗なのに。ヴィンスは貴方達が育てたのに。二人の価値は『人である事』だけだと、そう植え付けた結果がこうなっただけなのに」


 舞子の顔は泣きそうに歪む。

 お前はそう在れ、とかつてはその楔に自分も囚われていた。知らない間に言葉に、態度に、勝手に雁字搦めにされて。

 求められる自分の型に自分を無理やり嵌め込んで。いつしか疲れ切ってしまっていた。


 期待に応えるのは誇らしい。

 その面が喜びに輝くのは嬉しい。

 だが、尽くして支えて…一体何が自分に残ったのか。

 気がつけば『何を自分が望むのか』すら分からなく、一方的に貪られ、それすら当たり前になっていく現状が転がっていくだけ。


 報酬はたったの『ありがとう』の一言だけ。


 ボロボロのこの自分の姿が見えないのか?

 私に『何か欲しいものは?』『困った事はないの?』と聞いてくれもしないの?




 そう在れ、と『あなた』が望んだ以外の『あたし』は必要ないの?




 必要、無い、と。彼等は彼女等は『あたし』が居なくなって『惜しむ』時に知るのだ。

 そして、哀しみの記憶の何処かで勝手に憤るのだろう。

『何故、こんなに困っている自分を棄てて居なくなったのだ』と。

 だから、あたしは『自分以外が望むあたし』を棄てるのだ。

 誰も人の為にだけは生きられない。例えそう思い込んでいても、きっとそこにはそうする事を望む『自分』が在る筈なのだ。


 自分がこの世界に来たのは幸いにも『あたしにはどうしようもない』事だった。だからこそその『どうしようもない』事について、何かをやり遺して来たのだと、心の何処かで罪悪感を持つのはもうやめよう。

 レイクがあたしに主人である事だけを望むなら、それを『あたしが嫌だ』と思うまであたしの為に愛そう。

 彼の心もあたしの心も、誰がこう在れと望めるものでは無いのだから。

 身の丈のまま。だから、『伝説のフィメール』なんて知らない。




 あたしはこのまま、やりたい放題で利己的な『深水舞子』で充分だ。




「マイコ様ッ⁉︎」

「────────フィメール、何処へ⁉︎」




 いつの間に移動していたのか、優美な姿が来た通路を背にしているのに彼等は漸く気付いた。

 思わずヴィンスを封じるカインとキャサリンの近衛が声を上げる。


「それ、誰の事かな?あたしならそんな名前じゃないよ。『深水舞子』────それが、この世界で唯一つ、このあたしが名乗る名前だわ」


 文字通り舞う様に、舞子は出口に駆け出した。


.

この話を書くにあたり、通しで読み直して見ると、ほぼ毎回謝っていました…orz 8/20修正。

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