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31.誰がために鐘は鳴る

はい。大変お待たせしたにも関わらず、ここでストックが切れました。

書き溜めるか、骨組みに肉を付けて小刻みに出すかは悩み中です。4月から私事で少し忙しくなっておりますので、少し更新をお待たせすると思いますがご了承下さい。

31.




 舞子の叫びと共に全ての光が失われた。


 彼女は額に張り付いた髪をぐいっと手の甲で払い、素早く後ろに飛び退いて、囚われの仕掛けがある場所から逃れた。


「何、だ⁉︎何が起こった?」


 ヴィンスは自分の完璧な城に起る筈のない異常に、僅かな怯えと苛立ちを含んだ疑問を口にした。動揺の余り、舞子のそんな動きにすら気づかない。


 非常灯が突然、オレンジ色の柔らかい光で辺りを照らし出す。



「お‥兄‥様‥」



 掠れた様な可憐な声がした。それは明かり以外は復帰していない、開け放しの扉の方から。


 カインが現れ、素早く舞子に駆け寄り、その汗に濡れた身体を支えた。



「カイン」

「遅くなりました、マイコ様」


 心の底に描いた助け手で無い事の落胆を隠し、舞子は首を振った。


「キ、キャシー…何故、ここに⁉︎」


 愕然としたヴィンスの姿に、十人近くも友を引き連れた妹は不安げに辺りを見回した。

 供の親衛隊も訝しげにその白い空間に対峙する二人の人種ヒュータイプを見比べる。


「ねぇ…何なの?ここは。こんな部屋、あたし知らないわ…お兄様」


 初めて兄に不信の念を表し、キャサリンはおずおずと問い掛ける。

 だが、緊張に喉を鳴らすヴィンスは、いつもの様に上手い言い訳が思い付かない。


「君が…連れて来たの?」


 小さく舞子が尋ねると近衛は僅かに頷いた。

 恐らくあの後、直ぐにキャサリンの下に出向き、呼び出しを告げ口したのだ。

『内密に兄上様が主人を呼び出されました。一体何の御用向きでありましょう?』などと、妹の嫉妬心を煽る様な物言いで。


 この混乱を引き起こす為に。


 では、この大掛かりな停電は彼の仕業では無い。以前の様な刹那の細工ならとうの昔に復旧している筈だ。


 胸に小さな希望の種が芽吹いた。

 同時に舞子の腹が座り、瞬時に身体が動いた。

 側にあった彫像を振り上げ、ガラスで仕切られた実験室にぶん投げる。


 がしゃーん、と張り詰めた空気を打ち破る音が響き渡る。

「マイコッ⁉︎」「フィメール、何を⁉︎」

 プラインド毎打ち破られたその向こうに垣間見える光景。それは…。




「───────キャサリン、見ろ‼︎」




 脳を抜かれたヒトモドキ。

 カプセルに虚ろな目をした、それは何体も標本として並んでいた。

 捻じくれた奇妙な姿をオレンジの光に晒し、異様な空間を醸し出している。


 腕や足、臓器、目だけの物、下半身だけキメラ化している者、全て生の息吹が感じられず、死だけがそれを見る者に訴え掛ける。



 これでもまだ、やるのか?と。



「これが大事な兄があんたの為と称し、しでかした実験の成れの果てだ‼︎」

「やめろッ‼︎」


 舞子の叫びにふらふらとキャサリンがそれを覗き込み、限界まで目が見開かれる。

 口元を押さえ、嘔吐する妹にヴィンスが駆け寄った。


 だが、どうしても無心に抱き締める事が出来ない。


「…どうした?抱いてやらないのか。愛しい妹なんだろ?こんな非道を犯せる程に。その中の『どれ』があんたとキャサリンの『子供』なのよ?」


 嘲る様な響きのそれに激昂して、金の青年が顔を上げる。


「おのれッ、マイコ‼︎────何をしている⁉︎そこの者共、あの女を捕らえよ‼︎」


 呼ばれたキャサリンの近衛の面々は戸惑い、絶対服従の主の命に従おうとはしなかった。

 彼等とて先鋭である。この実験の『果ての元』が自分達の提供した物の成果なのだと直ぐに見当がついたのだ。


 それが何故、自分達の主(キャサリン)の為だというのか?


 その戸惑いが盲信の呪縛を緩めたのだ。


「キャサリン、目を覚ませッ!あんたは想像がつく筈だ。何故、兄があんたに触れようとしないのか?それは昨日今日の事なのか⁉︎」


 眉間を険しくして真摯に叫ぶ舞子を見たキャサリンが怯えながらも、誰一人として駆け寄らぬ我が身を抱いて蹲る。

 それを見たヴィンスは近衛の銃を奪い、舞子に向けた。素早くカインがそれを叩き落とす。


「主に何をなさいます、メール」

「退け、カインっ!アイツをアイツを生かしてはおけん‼︎」

「キャサリン!」


 その呼び掛けに吐瀉物に口元を濡らしたキャサリンが、のろのろと虚ろな目を舞子に向けた。


「目を閉じるなっ、あたしを憎んでもいいから!だから、自分の足で立つんだ。そうでなきゃ…そうでなきゃ『これ』があんたの未来になるかもしれないんだよ‼︎」


『失敗』しても『作り直せばいい』と、『まだ死んでいない』と、この狂人が思わぬ保障が何処にあるというのだ?

 例え『乗り換え』が成功しても次はキャサリンが狂う。

 そう叫ぶと、カインに羽交い締めされたヴィンスに向き直る。


「あたしを殺すの?馬鹿だね、ならここに居る全員の命も奪わなきゃならないよ?そうこうしている内に騒ぎを『案じた』あんたの直属の近衛や親衛隊も駆け付けて来る筈よ。じゃあ、そいつらも殺すの?…頭の回るあんたにしては随分とお粗末な結末ね」



 そう疲れた様に笑うと、舞子はやっと腕に付けた『白い腕輪』を押し回した。












『レイク、タワー上空に着くよ。風向きと抵抗を計算してカウントを取る。準備はいいかい?』




 エルザの力強い声がヘッドフォンを通して流れてくる。


『ああ。こちらはいつでもいい』


 空気の薄い上空の為、口元に簡易的な酸素マスクをしていた。それを思いっきり吸い込むと後ろに投げ捨てる。


 テンカウントが耳に響き、流れていく。


『3』──────機内の扉に手を掛ける。

『2』スライドした。

『1』バイザーを調整して、『0』小さく身体を丸め、迷いも無く落下して行く。

 凄まじい風圧の中、弾丸の様にレイクは見る間に地上に近付いていった。


 段々とタワーの姿が露わになっていき、ギリギリまで近付いた所でレイクは肩のストッパーを抜いた。

 頂上のレーダーである巨大なパラボラアンテナに落ちる瞬間に最大まで衝撃を緩和するクッションにもなった。


「───────!……」


 だが、当然全てのそれを打ち消す事は無く、口の中で呻き声を押し殺した。


『肋骨を数本持っていかれたか…。まあ、マシな方だな』


 痛み止めは機内で先に飲んでおいた。レイクは防弾チョッキを捲ると、冷却スプレーを塗布し、ざっと湿布して応急処置をする。直ぐに行動に移る。停電に加え、ジャミングを掛けたとはいえ、他都市に対し常にヒュータイプの誘拐に警戒するタワーは侮れない。


 一昨日、マイコのブレスに仕込んだ発信機に僅かな時間ではあったが反応があった。

 良く取り上げられなかったものだと感心したが、それで彼女の部屋の位置は分かった。


 彼女はまだ自由を諦めてはいない。

 ここだ、迎えに来いと言われている様で嬉しかった。

 血は残せない。胸元から防寒を兼ねたビニールを出すと、口に溢れたモノを勢い良く吐いた。

 それを勢い良く階下に投げ落とすと、のろのろと鏡面の一部が開き、『迎撃』されて『霧散』した。

 情報通り、非常用の電源の半分は防衛に割かれている様だ。

 ぐい、っと口元を素早く革手袋で拭うと、モノクルを発動させ、驚くべき身体能力と運動神経で踊る赤外線を避けて行く。


 作業員の入り口に左の手の甲に貼り付けたモバイルを押し付ける。


.


もう間が開き過ぎて何だか分からなくなった方々へのあらすじ:完全なる『人間』が崇められる世界に迷い込んだ舞子はそこに住む大帝の者が獣や昆虫の遺伝子を混ぜられ、身体強化された世界と知る。

そこで『若返り』を受け、野良犬のレイクを慕い保護されるも、都市ユグドラシルの『人間』ヴィンスに保護名目で捕らえられた。

一人の親衛隊員カインを籠絡し、脱出を計るもヴィンスの妹、キャサリンの為に人種の卵子提供者とさせられそうになった彼女は、抗い、カインに導かれた娘に真実を告げる。

そして、野良犬街を巻き込んで、救出作戦が発動された。


8/20修正。

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