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3.凶悪な女神

いやあ、原稿見たら不足だらけで継ぎ足し継ぎ足しやってます。既に見てくれていらっしゃる方をお待たせしない様キリが良い処まで頑張ります!

もももも勿論、『相良〜』も書いてますよう‼︎

 3.




 プールベッドからゆっくり起き上がった舞子は、揺れる視界が定まるのを待って身体を起こした。


『どうだ、具合は』


 機械のフィッティングから操作まで、助手などの余人?を交えずに、エルモは宣言通り全て一人で終えた様だった。別室のモニター越しに声がした。


 下を見た。下腹がキュっと、夢のくびれ!

「痩せてる……」

『サービスだ』

 他にも筋肉の成れの果ての肉厚な二の腕とかセルライトとか全て、可愛くない要素は省かれているらしい。

 この瞬間、若返った事を感覚で理解した。

 幸せが全身を突き抜ける。


 異世界、悪くないかも。


 新陳代謝が急速に行われた所為だろう、髪が膝近くまで伸びている。染めた部分が毛先から疎らに残っている。

 エルモから鋏を借りて色の変わった処から切り落とすと、それでも真っ黒な髪が腰辺りまで届く。白髪の一本もない!ブラボー‼︎毛根改革!

 彼が用意してくれたのだろうワンピースは可愛らしい薄紅で、シフォンベルベットの優しい生地で、着るとすんなりと身に馴染んだ。

 後はこれだけはどうにか持ち込めたらしいバッグの中身で化粧を施すと、舞子はエルモの満ち足りた笑顔と賞賛を纏い、表にエスコートされた。


 どよ、と更に膨らんだらしいギャラリーを前に、舞子は少し及び腰になったが、鏡で確認した限りでは肉体年齢16〜17歳。それに20代前半の時の色香がミックスされていて、過去の実年齢の時より数段ランクアップしていた。

 大丈夫、ワタシ、カワイイ!を自らに言い聞かせ、即席のステージへのステップを登る。

 既に見知った顔の喜色満面な笑顔とかエルモのふかふかの手が作った大きなマルやらに後押しされ、舞子は小さなステージに立った。

 途端、七色の光が踊り、賑やかで軽快な音楽が流れる。



 ええい、ままよ!



 女は度胸!

 自己暗示の様に繰り返し、笑顔を作れば舞台が湧いた。手足をしなやかに伸ばして、舞子は軽やかにステップを踏み始めた。

 薄紅のシフォンは裾がパニエの様に広がって動きに遅れてついてくる。

 見惚れる観客に自然と微笑みを誘われ、それを惜しみなく振る舞うと、天パの髪は思わぬロング形状に緩やかなウエーブとなって愛らしさを引き立てていた。

 最後の一音で踵を鳴らすと割れんばかりの拍手が起こった。…そしてまた、ギャラリーが増えていた。


「最高だー」

 エルモは涙ぐまんばかりだ。

 尤も、「俺は最高だー」とも付け加えていて、ズっこけた舞子だが。

 兎にも角にも謝礼を受け取った舞子は、ニコニコと笑顔でウサギ職人に尋ねた。

「ねえ、これでどのくらい宿に泊まれるかしら?」

 エルモはどこぞの白兎よろしく蝶ネクタイを引っ張りながら、ちょっと考え、

「そうだな……それでいくと、通常ランクなら1週間くらいは余裕で…」

「えー、助かるぅ!それなら職も見つかるよね?」


 これくらいこの容姿が歓迎されているなら、ウエイトレスくらい楽勝とみた!


 ぱん、と手を叩いて喜ぶ舞子にエルモは唖然としていた。

「落ち着いたら、お礼に来るわ!身元の保証人要る時は名前出すけどいいよね?じゃーありがとーまたねー」

 と、彼女が立ち上がりかけて、ウサギは漸く我に返る。


「ままままままま・ま・ま待てェ、あんた‼︎」

「舞子!」

「分かった!マイコっ‼︎いいから止まれ、俺の話を聞けっ!」


 えー。と不満そうな彼女に「奢るから」と続けると、漸く素直について来たが、近くのオープンカフェは人で溢れた。先程の取り巻きもまた付いて来たのだ。


「何だよう、エルモ。あたし、生活掛かってんだからねーぇ」

 簡潔にネ。そう言う舞子にウサギはツバを飛ばす勢いで説教を始めた。

「あんた、いや、マイコ!ヒュータイプが職になんて就ける筈がねぇだろう‼︎」

「何でぇ〜?」

「『何でぇ』じゃねー!一々小首傾げて超絶可愛いな、オイ‼︎さては俺を悶えコロス気満々だな⁉︎イヤイヤイヤイヤ、話が進まん。大体あんた『はぐれ』だろうがっ!あそこに遠目にも見えるタワーあるだろ?保護されれば支配階級になれるんだ。大事にしてくれるから、ここで暫く待ってろ!」

「お店に迷惑だよ〜。ねえ?」

 舞子が振り向いて、猫耳ウエイトレスに呆れた様に尋ねれば、彼女はそれを否定して、首がもげんばかりの勢いで高速で首を横に振る。


 真っ赤になっててーカーワーイーイー。


 それを見て、舞子はちょっと考える。

 キラリと光る高層ビル。あの天辺で閉じ込められ、神の様に崇められるワタシ。

 そして次は辺りを見回す。

 老いも若きも昆虫な人も獣人な人も、まるで少年少女の様に憧れの目でこちらを見てくる。


 ワタシ、働けば店大繁盛!そして時給(多分)アガる!


「柄じゃないから、働くわ〜」

 舞子が奢りのジュースをストローでクルクル回してそう言うと、天真爛漫な少女の答えに脱力したウサギはドンッ!と勢い良くテーブルを叩いた。

「柄、とか言ってる場合じゃねぇ!あのなぁ希少価値に攫われる、とか売られるとかいう危険性は確かに無い。俺達には遺伝子レベルでヒュータイプに対する畏敬の念が刷り込まれているからな。だが、あんたを雇う店はねぇぞ」

 その発言に驚いた外見少女は、エルモのふかふかした握り拳をつんつんして再び小首を傾げた。

「ふぅん、そうなの。で、どうして?」

 その可愛らしい仕草に周りがもんどり打つ。

「やべえ、俺今、天使見た…」「ティ、ティッシュくれ鼻血が止まらん」

 途端、ニヤリと笑う確信犯。若くて綺麗、フル活用。エルモはそこに悪魔さえ踏み付ける小悪魔を垣間見た。


「それはね、お嬢ちゃんが就活の為に訪れた店で家庭崩壊が起こるからよ」

 先程のライオンヘアの美女が隣の席に滑り込んで来た。

「店主は雇った筈の貴女を崇め、祀るか永遠の忠誠を示して下僕に下るワネ。で、一家は丸ごと貴女の僕。その後、貴女を独り占めする気かと周りの店から吊るし上げを食らい、子供は虐められ奥さんは実家に連れ戻され、あなたはそのエリアの主に祭り上げられ、店主はショックで首を吊り…」


 チュー。ジュースを啜る音がやけに響く。

 無言。静まり返った様に皆、無言。


「…………そりゃ、コマるね」

「困るどころの騒ぎじゃねぇよ」

 ウサギの若返り屋は赤い目で外見少女をジッと観察する。


 駄目だ、ここまで言ってもコイツはタワーで保護される気がまるで無え。

 何とか抜け道は無いかと細く整えた眉根が寄っている。

 これがはぐれか。この存在の厄介さ、愛らしさに彼は過去最高に苦悩した。奇跡と存在が謳われるのもさもありなん。自身の、震える様な貴重さを自覚しない貴人がこうも凶悪に庇護欲を唆るものだとは考えもしなかった。

 エルモだって他の取り巻きだって、彼女に命令さえされれば今直ぐにだって平伏したいのだ。ピカピカのヒュータイプ。黒髪の少し毛色の変わった。


 だが、目眩がしそうなくらい綺麗だ。


 尻尾も耳も触覚も、一つとして獣相の無い、奇跡の女。

 ここユグドラシル付近では見ない、アジア系のヒュータイプ。

 都市タカマガハラにその血を引継ぐヒュータイプが居るとか居ないとか、庶民には風の噂とウェブニュースに頼るぐらいしか存在を窺えない。直系なんて一人居るかどうか。

 しかし、マイコは実在して、目の前に座っている。鮮明な幻じゃないかと疑うレベルで。

 金髪じゃなくても黒髪は光を弾いてキラキラと冠を作り、白くなくても肌はクリームの様な色で滑らかだ。

 今は彼女が周りに対してフレンドリーに振る舞うから、誰も大げさな事はしないが、それも本当は絶対に有り得ない。

 ヒュータイプは総じて気位が天より高いからだ。


 ものを知らない。無垢な女神。

 それ故にこの胸に泉の様に湧き上がる思いは『護りたい』という強迫な念だ。


「エルモ。ならあたし、どうしたらいいのかしら…」

 その頼りない風情にドッキューン、という音がそこかしこでして、やはり狙撃されたかの如くもんどり打って倒れた者の中から、強者がブルブル震えながら挙手した!

「はいッ‼︎俺ンキテ下さイ、いっ、一生大事にしまス!」

「ばばばかっ!お前ん家、唯の成り上がり商家だろうがっ!俺、俺の父親はタワー御用達の由緒ある…」「てめぇ、抜け駆けは」

 とか、一部往来で乱闘が始まった。


 今度は舞子は笑わない。むしろ、少し青褪めている。エルモが言った事が事実と分かったのだ。

 鑑みるに根っこは単純で優しい『娘』だ。

 年齢を遡って浮かれてはいても、自分が関わる事で周りが争うのを良しとしない、そんな女神。彼女は既存の享楽的なヒュータイプと同じには出来ないのだ。驚いた事に、きっと。


「無駄だ。タワーから迎えが来る」


 誰かの呟きに騒ぎが水を打ったかの様に静まった。









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