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27.ヴィンスからの呼び出し

う、ちょっと間が空きました。すみません〜。

いや、ちょこちょこ入力はしてたんです!嘘じゃないですよ‼︎

27.




 “おそれながら、フィメール。検査の為にメディカル・センターまで御足労戴きますよう、メールからの御伝言でございます”



 電気系統をカインに壊させた時、隠し持っていた白いブレスを一瞬、発動させた。

 あれできっと私のいる大体の位置は分かったと思う。

 一か八かの賭けである。今日まで一生懸命時間稼ぎをしたが、もう駄目だと思うから。

 これに返答しなければ、形だけは恭しく無理やり連れて行かれるだけだ。

 だから、表向きは素直に頷いてみせる。


 一旦、奥に身体ごとしまい込まれてしまえば、レイクが助けに来てくれる時に困難になる。

 舞子は彼が助けに来る事だけは疑っていない。だからこそ、足手纏いにだけはなりたくなかった。

 この日の為にカインも極秘に動いている筈だ。最悪、彼は自分を盗んでくれる気でいる。


 タワーから。ユグドラシルから。世界から。

 ─────まるで、レイクの様に。


 あたしは自分の掌を見つめた。

 有効なカードの何枚かはこの手に握られている、それを如何に使うか、だ。

 あたしは殺されない。だが、レイクやカインは違う。リュシオンの様に容易く喪われてしまうだろう。


 センターの白い、白い壁。

 圧迫感を与えない様に巧みに計算された、その彫刻や掲げられるレトロなランプも嫌な予感を全く払拭出来ない。

 廊下を行き来するのは血統書無しか、能力の低い一般職員だ。

 この自分の姿を認めると、一歩引いて一礼し、彼等は人種ヒュータイプの姿が消えるまで決して頭を上げはしない。


 そう、あたしの前を歩くのは唯一人の僕、カインでは無い。白い制服を着たセンター職員である。あたしはわざと彼を置いてきた。言い争いをして、お仕置きでそうした様に見せつけて。

 それは毎度の光景だったから、誰も不思議に思わない筈だ。


「ねぇねぇ、検査ってどんな内容なの?そこにヴィンス君も居るの?」

「卵子提供と軽い健康診断だと仰っておられました。御心配なさらずとも、検査の際にはお席を外されます。ただ、フィメールの為に事前に説明とカウンセリングを、と」


 へぇ〜と呑気そうな声を出してみせる。

 本来ならその、『へぇ〜–』に連なるその後に、『それは睡眠カプセルの中からで?』と皮肉が続くのだが。


 新設したフロアにセンターへ直通のエレベーターがあるなど、つい今し方まで知らなかった。


 と、いう事はヴィンスは最初からそのつもりだったのだ。

 ち、と小さく気取られぬ程度の舌打ちをする。

 行政フロアやら重要機関の前を通ってくれれば、近衛や親衛隊の一人や二人引っ掛けて巻き込もうと目論んでいたのに。

 勿論、先導する二人の職員の物腰は柔らかで実に丁寧である。

 貴いこの身に足を運ばせる事に恐縮し切っている様子だ。



 ……何処までが本当かは分からないが。



 急に視界が明るく開かれた。

 広い、広いスペースにこの都市ユグドラシルの主、ヴィンス・セイラムが寛いでいる。

 差し出された手に導かれ、彼の前に腰を下ろすと、同種にしか見せない本当の笑みを浮かべて歓迎の意を示した。

 だが、深水舞子は日本人で、ヴィンス・セイラムは米系の白人種。

 同種であるが故に禁忌の無い彼に、逆転するその名前の様に何処で掌を返されるか、予測が全くつかなかった。


「よく来てくれたね。態々済まない、こんな処まで呼び出して」


 完璧な空調の部屋の中、一つの窓すら無いというのにここもまた圧迫感を感じないよう巧みに設計されている。


 これがヴィンス。まるで詐欺師の様だ。

 信頼させておいて、知らずに何かを奪っていく。自然を装う舞子の背中にじわりと汗が湧いた。


「ええ。別にいいわよ、同種ですもの。貴方になら呼び出されても構わないわ」


 その言葉に彼女が漸く胸を開いてくれたと勘違いした塔の主人は、嬉しそうに微笑んだ。


「そうだね、僕等は特別だ。分かってくれて嬉しいよ。最近、君がカインを殊更大事にするから、レイクの二の舞になったのかとも思ったんだけど、僕の杞憂だった様だ。

 良かったよ、優秀な彼を処分対象にするのは惜しかったから。まあ、彼だけの想いなら特に邪険にする事は無いしね。僕達は彼等の崇拝の対象で在らねばならないのだから」


 それは支配階級にのさばる事を心から疑わない物言いだ。

 舞子はこういう偉そうなヤツが心から嫌いだった。それが生まれつきに帰するものであれば特に。何故ならそれは個人の能力や努力の末では無いからだ。

 偶々『人種ヒュータイプ』に生まれついた。そこが金持ちの家だった。

 成程、確かにそれなりの苦労はあるだろう。常人とは違うだろう。

 だが、他者を見下したり、貶めたり、ましてや支配して当たり前だと堂々と口にする理由にはなりはすまい。




 秘めとけや、そんなもん。




 舞子とてお綺麗で正義感に満ち溢れた性格をしている訳では無い。

 だからそれが許せないとかは特に言わない。

 世の中が意に反してこんな奴らを頂点に動いているという事だって、ちゃんと知っている。

 だが、それが『好きか嫌いか』は別問題だ。

 誰もが三食食べれて、自分が幸せに生きていくのを邪魔しないのなら、それがあっても構わない。

 富は在る所には在るものだし、搾取もそこに歴然として有るのだから一々怒っていたら身が保たない。

 ただ、人として嘲りを目の前で耳にすればやはり腹は立つ。


「カインは大事な下僕だよ。あたしは元々、人を大勢生活スペースに置くってのはあんまり好きじゃないんだ。

 それを踏まえて、慣れない仕事を一人でやってくれてる彼は貴重だからね」


 向かいのソファーに腰を下ろし、大きく溜息を吐いて見せる。


「だが、君もそろそろ人を使う事に慣れなくては。君の近衛になりたい、と大勢の親衛隊の者が希望している。

 実は僕の所にも引きも切らずに陳情が上がってきていてね。彼もフルタイムで仕えるというのも大変だろう。

 上に立つ者は下の者を上手く使うものだよ?短い時間から徐々に慣らしていってはどうだい?」


 優しく提案する、その中身も上から目線だ。気に入らない。

 特に自分がその仲間の一人に数えられているのがどうにも我慢ならない。

 一つの言葉が脳裏に蘇る。

『お前はお姉ちゃんだから、我慢しなさい』

 それでもやもやが晴れた。これは自分の一番嫌いなパターンだ。

 支配者階級というのは実は気持ちの良いものかな?とちょっと思ってはいた。

 今までそれを拒んでいたのは、ダメ人間になりそうな気がしていたからだけだった。


 舞子はそれが間違いなのを漸く知った。

 これは違う。

 水が合わないのだ。

.

8/20修正。

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