25.奪還の決意
一週間間が空いてしまいました。待っていらっしゃった方も待っていらっしゃらなかった方もお待たせしました。
25.
「行くのか」
疑問でも無い、唯の確認の声が掛かる。
「行く」
こちらも短くそれに答える。
後は黙々とブーツの紐を編み上げるだけ。準備に余念は無い。全て整っている。
レイクはもうシルバドの方を見ない。何度もシミュレートして手筈は諳んじている。
「惚れているのか?あの嬢ちゃんに」
ギュッ、と紐を縛り、立ち上がったレイクの瞳には決意が漲っていた。
「分からない。だが、彼女が傍に居ない事にもう俺は堪えられない」
あの後、協力をしてくれた四人の子供達とその親である顔役達には、舞子の素性が知れてしまった。
リュシオンをきちんと葬って、静かにレイクは事情を語った。
「あんなに獣相の少ない猫種って珍しいと思ったんだ…」
シンはタワーへの怒りと、彼女が人種であった事への驚愕で膝をついた。
「そうだね。確かに『猫』は元々俺等、犬種の次にヒュータイプに近いけど、マイコは綺麗過ぎたよ。でも、黒髪のフィメールの情報は話として聞いていたけど、都市伝説位にしか思えなかったし、大体その中身が絶対有り得なかった」
ハンクは力無い苦笑いをして、椅子にドサリと腰を下ろした。
「マイコはこんな小汚い街を案内するあたし達の手を繋いで、本当に楽しそうに笑っていたわ。メイを抱き締めたり、身体で庇ったりしたわよ⁉︎
それに、それにあの人、心底レイクが好きなのに…。キャサリン様に焼きもち妬いたり、落ち込んだり、そんなコト本気じゃなきゃ出来ないわよ」
彼女と繋いだ手を握り締めるリンダの横をメイが通り過ぎる。
「…あのヒトはタワーでは幸せになれない」
ドアを開けて、室内に光を入れた。
「アンタが幸せに、して。どんな協力もするから」
眩い光の中に無口な筈の少女が一生懸命、言葉を紡ぐ。
「救い出して」
「───────救い出す」
金持ち御用達自家用航空機がそこにいつでも飛び立てる様、鎮座している。
用意したのは勿論、シルバドだ。
野良犬街の雑貨屋に用意出来ない物など無い。
「沢山の綺麗な下僕に囲まれて、逆ハーレムだぞ?もうお前の事なんか忘れてるさ」
小型のそれはタワー上空をレーダーに引っ掛からないギリギリまで高く飛べる。それを操るのはメイの母、エルザだ。
「あの娘が『帰らない』って言ったら、どうすんだよ?レイク」
レイクが突っ込んで文字通り『身体の隅々にまで』叩き込んだタワーの設計図は、街の長老にまでシンが直接出向き、米つきバッタの様相で拝み倒して分捕って来てくれた物だ。
逃走用のエアバイクは既に極秘に接触して来たエルモからの贈り物が積み込まれている。
『マイコの肌は刺激に弱いんだ。コレとコレを使え。後、髪の手入れはコイツだ。お前、手を抜くなよ?アイツは凄ェ大雑把な女だからな、お前が気を付けてやれ。俺はこれから店を大きくして必ず各都市に支店を出せるくらいに成功する。だから、年一回は必ず俺にメンテナンスさせるんだぞ?─────何?アイツが帰りたがるとは限らない、だと?』
朝日が昇る前の薄暗闇に冷たい空気がぴん、と張り詰めていた。
「『アレが素直に宛てがわれた男なんかにご満悦するタマかよ。捻くれ方は天下一品に素直という、世にも珍しい女だぞ?』だ、そうだ」
地上の陽動、空調ダクトの利用は不可能だった。ヴィンスならそれを察した途端、彼の仕業だと見抜くだろうし、秘密を守り通す為になら、平気でダクトを閉鎖して神経毒位流すだろう。
リンダとハンクが都市機構の一部にエラーやらダミーを滑り込ませる為、エネルギー施設を同時に襲撃する段取りになっている。
メイは父親と一緒にあちこちで起こる騒ぎと、レイクがタワー脱出後に起こす撹乱やらの手配とコントロールを受け持った。
シンや彼等の親達が手配した二人の偽物が、脱出後の撹乱の為に各地で今や遅しと待機している。
甘えている様で何故か甘え方が下手だった。
男を知っている癖に無防備な笑顔に腹が立った。
必死に縋り付いてくるその艶やかな手が、接吻すると蕩ける様な表情が、俺を虜にしたのだと彼女はちゃんと分かっているのだろうか。
鳥籠に囚われているのは俺だ。
黄金の檻に進んで中に入って鍵を掛けた。
『あんたは俺のもので、俺はあんたのものだ』
『レイクは、レイクはねぇ、あたしのものなんだからっ‼︎』
「─────取り戻すさ。あんたを腕に抱けるなら、俺もまだ捨てたもんじゃない。そうだろう?」
舞子。思い出すその顔は誰よりも不敵に微笑んで、軽く親指まで立てている。
操縦席のエルザが頷く。機内の青年は伏せた目を鋭く見開き、やがて全神経を集中し始めた。
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次話はちょっと、閑話を入れる予定です。8/20修正。




