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13.誘拐

すみません、二日おきと言いましたが、三日になる事もあります。打ち込みが遅いのです。そして

寝落ちします。熟女は老化が著しいです。

13.




 すらりとした青年が脱衣所に堂々と立っていた。

 手にバスタオルを持って。


「───────⁉︎」

 固まったあたしにすっ、と近づいた彼は持っていたそれでふわりとこの身体を包んだ。

「やはり、フィメールであらせられたか」


 昼間の、何、え、あ‼︎

「リュシ──────!」「お静かに」

 口を何かに塞がれた。刺激臭がして、気が遠くなる。いやー、服着せてぇー‼︎

「無礼の段は平に。後でお叱りも罰も如何様にも受けます故」


 腕の中の彼女がすっかり荷物と化すのを確認すると、青年はバスタオルで丁寧に舞子の身体の水気を拭い去り、濡れた髪は別のタオルで纏める。その上で万が一にもその裸身が人目に触れぬよう、肌触りの良い薄い夏布団で包むと、呼吸を確認して背負った。


 そこへ母の制止を振り切って、やはり舞子と一緒に風呂に入ろうとしたメイが飛び込んで来た。

 驚愕の一瞬に、何という脚力か‼︎リュシオンは微笑んで、壁を踏んで舞子を背負ったまま屋根に飛び上がる。

 メイは咄嗟に母を首に下げた呼子で呼んだ。「どうした、メイッ‼︎」母と便乗した父が飛び込んで来る。父は蹴り一発で沈めると、メイは急いで衣服を羽織り、母の用意した装備を受け取る。

 アイコンタクトだけで母は「分かったよ、お行き!」と、送り出してくれた。

 入り口にはホバーでは無く、小回りの効くエアバイクが鎮座していた。

 二秒で発進させ、手元のスクリーンを展開する。仲間へのエマージェンシーコールはとっくに母が済ませている。


「攫ったのはリュシオン!シン、リンダ、ハンク、包囲して‼︎」

『『『アイサー‼︎』』』


 滅多に声を発しないメイの要請に、一秒も遅れず仲間が応じた。

 突然、電子音がして通信が割り込んで来る。

 レイクだ。

『事情はエルザに聞いた。街の外はアランゾが手配中だ。位置を』

 冷静な彼の声。だが、呼吸が荒い。急いでいるのだ、大事な女性の危機に。


「北斗117、白虎345!────ちッ、ショートジャンプする気か⁉︎」

『ハイタブ⁉︎何て乗りモン持ち出したんだアイツはッ⁉︎タワー御用達だろー、ってかやべぇッ、あれにはステルス機能付いてんぞ、親父達の包囲網抜けられるッ‼︎』

『リュシオンッ、許さないよ⁉︎あたしのライバルを何処持ってく気なのさ!待って、よしハンクっ、粒子の方向を教えるからざっと暗算しなッ‼︎』

 リンダとシンの叫びに一呼吸で答えが返る。


『レイク、砂漠だ‼︎限界値までヤツは引っ張る気だよ。直に向かえッ、見失う‼︎』


 応答は無かったようだが、レイクを示す赤い光点が物凄い勢いでエリアを駆け抜けて行く。

 ホバーを駆って矢の様に飛ぶ彼の姿が脳裏に浮かび、メイの目に涙が滲んだ。


 大好きなマイコ。抱っこしてくれて、いい匂いがして、何ものにも代え難かったのに。肝心な時に護れなかった。

 可愛いあのヒトを誰もが欲しがる事くらい、自分には分かっていたのに。

 メイはレイクが追いつける様、ハイタブの逃走経路を固定させ、あらゆる妨害をする為に涙を拭い去る。

 仲間達も同じ様に動いているのを確信して、最大出力でエアバイクを駆りながら、片手でタッチパネルに指を走らせ続けた。






 噎せる様に暑い空気がサーッと冷たくなって、楽になったのが分かった。

 エアコンの効き過ぎた車内から外に出る時のカンジかな……。


「って、ンンーっ⁉︎」


 はい、間違っていませんでした。そいで、布団にぐるぐる巻きにされていたらしく、金の髪の美青年が『昆布巻きの干瓢かんぴょう』に当たるロープを鋏で切っていたとこです。

「お苦しい思いをなさいましたか、フィメール。僭越ながら、こちらにお着替えを用意してございます。お叱りはその後で。私は車外に出ておりますので、どうぞ」


 そう言うと、ほんとに出て行ったので、あたしは寝汗を髪を包んでいたタオルで拭った上で漸く着替えた。


 ……下着もあるわ…何でサイズぴったりなのよ。


 肌触りの良いワンピースに腕を通して、とにかく説明を求めてドアを開けた。

 リュシオンはいつ着替えが終わるか分からないあたしをずっと跪いて待っていた。


 ほんと、わんこよね…。

「…立って。あたしは耳と尻尾が無い以外は、さっき会った時と何一つ変わってやしないんだから」

「はい」

 青年は素直に後部座席に腰掛けたまま、ドアの外に脚をぶらぶらさせるあたしの傍に立つ。

 バレたんなら、特に危険は無かろう。それはこの恭しさで分かる。

「何で正体が分かったの?」

 彼のブルーグレーの瞳が冴える月の光に反射して、美しく輝いた。

「貴女様から賜りましたハンカチで。────猫種は柑橘系を嫌います。ましてや香水にまで用いようとは思いますまい」

 あたしは行儀悪く舌打ちした。

 そっか、家のミケは蜜柑平気なんで油断したな。

「で?どうすんの。あたしをヴィンス君に売る?」

「滅相も無い。私はタワーを出された身で、それで無くとも…メール、フィメールをお支えしていた時と変わらずお慕い申し上げておりますが、戻る気は更々ございません」

 青年は不貞腐れたあたしのぞんざいな質問にも至極丁寧な返事を返してくる。


「一つ、お伺いを立てた上で、お願いしようと狼藉を働きました」

「なんでス?」

「『好きな人』とは?」

 彼がそっと取った手が暖かい。駆動系は切っていないので、暖房は背中から垂れ流されている。だが、思ったより夜の砂漠は冷えていた様だ。

「貴方と同じ、犬種の男性だけど?」

「やはり、トール・レイクラス」

 呑気にそう答えたあたしに動揺して揺れた瞳がギラリと光を放った。

「キャサリン様のご寵愛を拒んでおきながら、貴女の様な無垢なフィメールにまで手を伸ばすとは‼︎」

 その叫びを聞くや否や、あたしは瞬時に取られていた手を払うと、不機嫌全開でくるりと90度回り、車内に脚を入れた。

「あー、ヤな名前聞いたなー。金輪際、あたしの前でその女の話はやめてね。で?もう聞きたい事は無いのかしら?…メイちゃん達とか皆、すご〜く心配してる筈だから、早く彼女の家に返して」

 いきなりのこちらの不機嫌にも動じず、ただその原因に彼は戸惑っていた。

「何故、貴女様は犬種などをお気遣いになられます。フィメール、貴女様は誰より気高く誇り高いヒュータイプでいらっしゃいますのに」

 余りの話の通じなさに舞子は苛立ってきた。

 ついに車外に出ると、青年に向き合う。長い黒髪が風に舞って、彼の目には女神の如く神々しく月に照らし出された。夢の様に。


「あたしは、尻尾と耳が無いだけだ、と言ったでしょう」



.







8/19修正。

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