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12.それぞれの思惑

寒いですね。ハムはプルプルしてスマホを落とし、0.33のガラスコート液晶ガードにヒビを入れました。おかーさん、寒いよう、指が滑らないよう…。嘘です、言い訳です。

12.



「まだ、見つからないというのか?」

 金の髪を苛立しげに振って、ヴィンスは紫檀の机を叩いた。

「は。方々のハイロードを探索させておりますが、一切の痕跡を発見出来ず……」

 恐縮しまくる実働隊の隊長に、側仕えの秘書が眉を顰めた。

「それは妙ですわね、メール」「そうだね、有り得ない」


 そう小細工する手間は与えなかった筈。しかも、女連れだ。無茶は出来まい。

 ヴィンスは素早く考えを巡らせた。

「カレン、木の葉を隠すなら何処だ?」

 呼ばれた犬種の美しい秘書は耳をぴくり、と動かす。

「森の中────ですわね。ジャバウォック、メールは野良犬街が怪しいと仰っておいでです。そちらはもう探索なさいましたの?」

「い、いえ!しかし、あの様な汚らしい場所などに貴き御方がお身体を潜められる筈もありますまい。大抵のヒュータイプなら街の様子をご覧になられただけで眉を顰められましょう。それ程までの悍ましさでありますぞ」

 吐き捨てる様な物言いに、形の良いヴィンスの眉が顰められた。

「ジャバウォック、メールは乱暴な言葉遣いを好まれません。忘れたのですか?」

 彼女のドーベルマンの様な細い尻尾がぴしり、と壁を叩いた。

 慌てて平伏する彼に、ヴィンスが机を回り込んで傍に立つと、そっとその頭を撫でる。

「彼女は色々と規格外みたいなんだ。私の為に行ってくれるね?ジャバウォック」

 三十代も半ばかと思われる犬種の青年は、若干24歳のヒュータイプに心酔していた。

 彼が鍛えた身体を歓喜に震わせ、機敏な動作で退室すると、ヴィンスは秘書も下がらせる。


「そう、有り得る筈も無いんだ」

 人が犬種に……獣種に想いを寄せるなど、一切あってはならない(・・・・・・・・・・)

 畜生にはそれなりの扱いを。それは躾だ。上手く出来れば褒美を、逆らえば鞭を。

「君を、救ってあげるよ。マイコ」

 そんな風におかしくなった人を知っている。

 彼女は遊びが過ぎて、後悔の余り気が変になって死んでしまった。哀れな哀れなヒュータイプ。あれ程誇り高かった人が。


 想いを巡らせている内に妹のフロアまで来てしまったらしい。

 いつの間にか自分の後ろに数人の親衛隊が控えていたが、手を振って下がらせる。

「こんな事もすんなり出来ないの⁉︎役立たずッ!」

 新参の青年がキャサリンの足元に這い蹲って平伏している。

 察するに彼女が彼にドレスの肩紐を結ばせようとしたが、フィメールに対する憧れの余り、手が震えて素早く結ばなかった、という処か。ヒールで痣が出来るほど蹴られても、懸命に謝っている。

「キャシー、それくらいにしておあげ」

「お兄様っ‼︎」

 愛しい妹を抱きしめると、さっと肩紐を結んでやった。

 満足そうに自分に甘える彼女は、

「ねえ、お兄様〜このコ何処かにやって?ちっとも役に立たないし、面白く無いのよ」

 無情な宣告に、青年は懇願する様にヒュータイプの兄妹を見上げる。

「まったく、お前ときたら…もう仕えてくれる近衛の者が居ないよ。だから、新人にお鉢が回ってきたんだからね」

 鼻を突くと、彼女は可愛く唇を尖らせる。

「トールが居るわ?ねえお兄様、早く彼を連れて来て♪」

「その内にね。どから、あんまり苛めないんだよ?」

 まだ合図をして、青年を下がらせるとヴィンスは妹を優しく抱きしめる。

「きっとよ?」

 目を輝かせてねだる妹に、『彼女マイコ』もこのコもあの男の何がそう執着を煽るのだろう、と溜息を吐く。

 一度は彼もキャシーに膝を付いた。そして、愛想を尽かされるのにそう時間は掛からなかった。

 一体、純粋なヒュータイプに何を求めていたのやら。

 宥める様に妹を撫でていた兄は、ふと何かに気づいた様にそっと彼女を放した。

「キャシー、もう背中の開いたドレスを着るのはやめなさい」

 兄の言葉に愕然と若いフィメールは崩れ落ちる。

「また…酷くなっているの……?」

「大丈夫だ。私以外に気付く者は居ない。きっと治してあげるから」

 そう優しく言いつつも、ヴィンスは妹に触れる事が出来ない。そして、そうした自分の心の動きに彼は気付いていなかった。何故なら、彼は『心から妹を愛していた』から。


「絶対にお前を助けてあげるよ」

 奇しくも、それは黒髪のフィメールに抱いた想いと全く同じモノだった。





  ★




「マイコ、温度はどうだい?」

 北のメイの母、エルザが大きな声で外から声を掛けた。

「充分です、っつか、これ以上温度を上げられたら逆に死にマス。確実に」

 シダ系の植物を敷き詰めたウッディな蒸し風呂で舞子は茹で上がっていた。


 あの後、四人に理不尽に叱られた。

 彼ら曰く…


「あのなぁ、マイコ。あんた無防備にも程があるぜ?自分か綺麗な(べっぴん)猫種キャットだって自覚ねぇの?あんな台詞、犬だってコロリだぜ?犬コロリ。なあ、誰だってご馳走ぶら下げられたら食べるだろ?ありゃ据え膳だぜ?」これはシン。

「あんた、レイクが居るのに他の男にコナ掛けるって、どーゆー事よ⁉︎ええッ、可愛い顔して怯えるんじゃないわよっ!あのタイプはキケンだから手ェ出しちゃダメ‼︎出してないって?あーあ、あんた励ましただけのつもりなのよね?まったく、無自覚って始末に負えないわッ‼︎」勿論、リンダ。

「痛かったでしょ?マイコ。ごめんね、俺達が守れなかったから……次からはもう誰も寄せ付けないからね?特にあんな若い男なんて半径5Mでシバき倒す。だから、マイコもちょっと顔が良いからって笑顔大安売り(サービス)は禁止だよ」怖い笑顔のハック。

「─────────‼︎‼︎⁉︎‼︎」最後に突進して、壁まで寄り切ったメイ。


 ウンウン。一見、可愛いお叱りに見えるよね?でも、これをぐるりと迫力満点の子供達にやられてごらんなさい。何か色んなモノが地味に削られるから。


 延々と続くかと思われたお説教を打ち切ったのは、他ならぬレイクからの連絡だった。

 彼から着けられていた白い腕輪は、微弱な電波で連絡を促すもので、ヴィジホンという物を繋いで貰えば、帰りは夜になるという事だった。

 あたしは一人にしておかないと言わんばかりのメイにお持ち帰られた。

 すっかり懐いてくれた彼女に手を引かれて、彼女の家に着くと付き添ったハンクが全て説明してくれて、あたしはレイクの帰りをここで待つ事になった。


「そうかい、あんたがレイクのねぇ。アジア系が好きとは知らなかったけど、鼻は低いが可愛いじゃねぇか〜」

 と、旦那様のアランゾが豪快に笑って、エルザに張り倒された。


 ええ、ええ、いいんです。確かに若くなって、太い腕と足の筋肉も落としてもらいましたが、鼻ぺちゃと小顔でない顔はどうしようもありませんから、ええ。


 意外と繊細な味を醸し出すおふくろの味な夕飯をご相伴して、お風呂をどうぞ、と促された。

 当然の様に一緒に入ろうとするメイをこれだけは断固として追い出して。


 だって蒸し風呂なのよ?絶対、汗かくから頭も洗うし、尻尾も外さなきゃ。


 暫くじっとして居ると汗が噴き出してくる。

 きた、きたー。で、冷たい水で顔と髪を洗うと、やっと一心地ついて。すっかり良い気分になった外見少女は付け耳と付け尻尾を持ってお風呂場を出た。


 そこで、信じられないものを見たのだ。

.

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