1.転移先でミディアム・レアに
新連載ですが、やはりソースは古いので完成してはいませんがかなり原稿がある作品です。
そして、やはりヤンデレタグは外せませんでした。
どうぞ、こちらもよろしくお願い致します。
1.
運命ならジリジリと焦げながらやってくる。
☆
最高に暑かった。いや、暑いなんてもんじゃなかった。ちょっと死ヌかな…?と、やや焦げながら思った。
いや、もう、どうしてここにいるのかすら分からないのに、しかも焦げているのだ。
仕方が無い。だってここ、何でか砂漠だもん。痩せたくてダイエットしてたけど、こーゆー究極なヤツはやる気なかったもん。
でかい砂影を見つけて休憩とってはみたものの、歩くのは限界、 360度見渡す限り街どころか、家の一軒すら見当たらない。
当然、湖、海、オアシスもだ。
結局、昼に歩くのは無理と判断。夜まで休憩する。
やることもないので現実逃避も兼ねて、彼女は数時間前の自分の行動を振り返った。
…………そうそう、給料が入ったのでダイエットサプリを買いにデパートに行ったのよね。
そうしたら、いきなり店内が騒がしくなって、凄まじい音がしたと思ったら、ガツンと壁に叩き付けられたのだ。
その後、意識が無くなったのだが、薄れゆく意識の中で、何故か落下感を感じた事を不思議に覚えている。
そうして気付いたら『砂漠』だったというワケだ。
独身女性にはキビシイ…瑞々しさが失われつつある年齢で(ヒミツ)、アツアツの太陽に照らされるのはテレビ局で女優が下からライトを当てられるのとは訳が違うのだ。
いや、気付いたら砂漠ってソレどんなサバイバル?
とか、自らに突っ込んでみるが、状況が別に変わるもんでもない。
空耳でもいいから、風の音以外何かー何カーう〜んう〜ん………
あれ?
★
トール・レイクラスはバイザーの隅に有り得ないモノを見つけた。
黒い……人影?
遥か上空をバイク型ホバーで飛ばしていた彼は、それが砂の海に偶に現れる掠奪者集団の罠かも…と疑わなくも無かったが、暫くホバリングして観察した結果、やはり全く有り得ない状況────遭難者との遭遇だと理解した。
何処のバカがこんな所に、と思わないでも無かったが、彼のホバーには予備の遮熱布を乗せてあったので救助の為、仕方なく降下してゆく。
女だ。
肩を覆う銅色の髪が緩やかに波打っている。
衣服は正気を疑う様な熱を集める黒の上下。
だが、近づくにつれ、バイザーの中の鋭い瞳が衝撃に見開き始める。
彼女は微かに虫が湧く様な音に耳を澄ました。
やがてそれは砂を巻く風と共に轟音に変わる。
移動していた黒い点が大きく乗り物の腹に変わり、着地と同時に銀色に輝く人影が駆け寄って来る。
彼女は砂を避ける為に翳していた上着を下ろして、その助け手を見た。
長身で均整の取れた体躯にフードが翻り、短く切り揃えた黒髪が陽に輝く。男だ。
しかも青年。ああ、ちょっと嬉しいかも……
が、彼は至近距離まで詰めると少し躊躇した様に足を止める。
あー、若い娘と思ったらオバさんでガッカリ、って感じ?助けてくんない?
彼はそのまま此方の全身に目を走らせる。
ああ、はいはい。熱い反応は期待しませんよ。助けてくれたらオールOK。
「──────ヒュータイプなのか?」
何じゃソレ。
それがやや戸惑った様な、艶のある彼の第一声に反応した彼女の感想だった。
「ごめんなさい、何を言われているのか分からないわ?」
顔を上げてバイザーを上げた青年を改めて見つめた。
少し驚いた顔には想像していた落胆の色は見られなかった。しかも、なんて美形……
切れ長の涼やかな眼差しはひたと彼女に据えられ、傍で片膝をついて長い首を傾げた。ウエスト位置が高い。
うわぁ、ハイレベルだ。ハイレベル美形だ。
「間違いない…完全体じゃないか。何故、こんな所に?まさか、『はぐれ』なのか?」
彼が着ている銀色のコートと同じ物をふわりと頭から被せられる。
途端、ギラつく太陽の熱がすっぱり遮断された。
「言葉は旧日本語か…。確かに現在、全く使われていない訳では無いが。アジア種がどうして…」
「これ、ありがとう。ねぇ、『はぐれ』ってなぁに?本当に分からないのよ」
その言葉に彼は本当に戸惑っている様だった。
「では、一体貴女は何処から来たんだ?」
それは彼女が聞きたいくらいだった。
「ここって何処なのかしら?」
無邪気に尋ねると、その無防備さ故に男の顔にそれと分からぬ程僅かに朱が差した。
「第82アレクサンドリア自治地域、砂漠化された飛行専用のハイロードだ。
間違っても貴女の様な女性がいる所では無い」
厳しい眼差しで彼はそう言い放った。
しかしそれは猜疑に満ちたものではなく、純粋に彼女のいるその状況に憤りを感じているといった雰囲気だ。
年齢差別はされないらしい。良かった。彼女は苦笑した。
「聞いた事無い地名だわ。つーか、多分あたしの世界には無いわね。うっわ…参ったな、まさかとは思ったけど…」
「?──────どういう意味だ?」
SF好きの彼女にはおそらくこれがタイムトラベルやらパラレルワールドと呼ばれる超現象に繋がるものだと予想出来た。
ひょっとしたら異世界転移かもしれない。
でも、日本語通じてるし?
だが、それを目の前の青年にどう説明しよう?おそらく頭のおかしな女だと思われるのがオチだ。
とりあえず、「えっと〜一言では説明できないわね。ところで良かったら助けて貰えないかしら」と結ぶ。
膝の上に乗せる様に両手を広げて、庇護を具体的に求めた。
「……近くの街まででいいのなら」
彼のにべもない返事に小さく嘆息すると、意を決した様に頷いた。日干しになるよりナンボかマシ、というものだ。
「その街の説明、道々して貰える?言葉が通じるのは有難いんだけど、公用語なのかも分からないし、どうにも状況が今一つ掴めないのよ」
肩を落として“しょぼん”風情で首を振ると、彼が心外だという風に眉根を寄せた。
「違う。貴女を見捨てようとしている訳じゃない。むしろ、─────いや、いい」
弁解を自ら遮る様に強引に語尾を消すと、彼は自分のバイザーを彼女に着けた。
ヘッドフォンを兼ねたそれは、装着した途端、頭に直接『公用語』をインストールさせた。
どうやらこれが翻訳機も兼ねていたらしい。
言葉、通じてた訳じゃ無かったんだ…
つぶさに様子を見ていた彼が頷いて、立ち上がると身を翻し、ホバーに跨った。
ふさり、と黒く長いモノが彼の形の良い腰のラインに寄り添う。
手招きされてその後ろに恐る恐る跨った彼女は、漸く彼の自分に向けた言葉の『意味』を理解した。
それは彼女の世界では見慣れたモノ。
フサフサとした『尻尾』と呼ばれるモノ。
更に予備の物らしいバイザーで再び目を覆う彼の頭には『ケモ耳』と呼ばれるモノがある。
だらり、と汗が流れる。
『ヒュータイプ』って、それ=ヒューマンタイプ(人族)って事?
「しっかり掴まっていろ」
言い捨てるなり、ホバーは彼女の思考をぶった切って急激な浮上を始める。
「うにゃああああああぁぁぁあ〜〜ッ‼︎」
パニックすらも風は巻き込んで加速した。
8/19修正。