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クロウの剣  作者: 山と名で四股
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1話 「呪い」

「呪い……」


 クロフォードは、不意に意識が戻ったことにも驚いたが、それよりも最後に呪いと言った老婆の声が気になっていた。そして二度と開くはずのない目を開くとそこにはまぶしいくらいの太陽があった。


 自分が大の字に寝ている事はわかるが、身体が思うように動かない。それでも何とか手足を動かそうと試みるとかろうじて両手をあげる事ができた。自分の手を見ると剣を振り続けたせいでゴツゴツになった手ではなく、まるで子供のような手がそこにはあった。


「自分の手……だよな」


 クロフォードが手を使ってようやく起き上がり、周囲を見るとすぐそばに川が見えた。乾いた喉がなる。這うようにして川まで進むとそこに写る顔にクロフォードはまた驚いた。


「顔が……」


 川面に写る姿は、まるで子供だ。顔も以前の顔とは少し違う。クロフォードは、乾いた喉を潤すことも忘れ、茫然と川面に写る自分の顔をながめる。

 これ以上、見ても変わらないと思ったクロフォードは、そのまま川岸で再びごろりと転がり頭の中を整理し始める。


「なぜ裏切られた?」

「誰が何のために?」

「自分は獣人に殺されたはずだ?」

「今なぜ子供になっている?」

「呪いとは?」

「ここはどこだ?」


 疑問はいくらでも考えられるが、答えはいくら考えてもでない。


「すべて情報が足りないな」


 どちらかと言うと理論派であるクロフォードは、疑問への答えがでない時は情報不足と判断する事が多い。


「だが、この後どうする?」


 当然、次に考えなくてはならないのは今後の方針だ。身体は徐々に動くようになってきたが、自分の身体は子供のものだ。


「手足の長さや体つきを考えれば人族の子供で7歳くらいと言ったところか」


 クロフォードは、ふと何気なく魔法を使おうと詠唱を開始する。


「ライト!」


 クロフォードの右手から光があふれる。


「魔法はきちんと使えるようだけどこれじゃ子供のころと一緒だな」


 自身にできる事によって今後の方針も決まる。どうしたものかとクロフォードが途方に暮れていると


「おまえ」「そこで」「何を」「している?」


 声の方へ振り向くとそこには獅子の獣人の男がおり、こちらを見ている。獣人の男はとても良い身体つきをしているが片手を肩から欠損しており残された肩にクワを担いでいる。

 クロフォードが返答に困っていると


「別に」「襲いは」「しない」


 相手から敵意は感じない。長年の経験で敵意と言うものを感じ取る事ができるクロフォードもその言葉を信じ緊張を解いた。


「気がついたらここにいた」


「どうする」「つもりだ」


「まだ何も決まっていない」


「なら」「ついてこい」


 クロフォードは、これまで敵対することしかなかった獣人の男に不思議と敵意を感じなかった。どちらにせよこのままでは衣食住のすべてに問題がある。まして子供の身では生活するすべもない。場所もわからない以上従うのが一番合理的だ。


「わかった」


 片手の獣人の男についてふらふらと歩く。まだ身体が思うように動かせないようでひょこひょこと獣人の男の後を追う。


「怪我」「しているのか?」


 振り返った獣人の男が声をかける


「怪我はないが、身体がうまく動かない」


「大人の」「ように」「しゃべるのだな」


 確かに見た目は子供だが、中身は成人した男だ。確かにこのままでは違和感が強いのだろう。これからの事を考えれば子供のように喋る方が怪しまれることもなく良いのかもしれない。


「そんなことないよ」


 慣れない言葉だが、これにもなれないといけないとクロフォードは考える。


「名前は?」


「クロ…ゥ…」


 クロフォードと言いかけて声を落とした。果たして元の名前を名乗っても良いのだろうかと考える。


「クロ…ウ?」


「そ、そう。クロウ」


 慌ててクロフォードはクロウと名乗る事を決める。


「そうか」「クロウか」「俺は」「ダルカス」


「ダルカスさんこれからどこに向かうの?」


「村だ」


「村?」


「俺達が」「暮らす」「場所だ」


ダルカスについて歩いていくと川の側に作られた小さな村が見え、そこにはいくつかの小屋が建っていた。


「ここ?」


「そうだ」


 小屋に近づくとそこで生活している獣人たちから冷たい視線が送られる。


「婆は?」


「奥だ」


 ダルカスが、1人の男にそう聞くと犬の獣人の男がクロウに視線を向ける


「何者だ?」


「川で拾った」


「どうするつもりだ」


「婆に合わせる」


「……」


 男は無言でそれ以上を言わない。


「こっちだ」


 と言ってダルカスはクロウを連れて進む。村といっても100人いるかどうかと言った小さな村だ。そしてダルカスのように四肢を欠損する者も多く皆死んだような目をしている。クロウが、気になったのは、女子供がいない事だ。

 ダルカスについて村のはずれにある小さな小屋まで来ると2人はそのまま小屋の中へ入った。


「婆」「少しいいか」


 婆と呼ばれた者が、ダルカスの声に振り向く。


「何じゃい?」


「川で」「拾った」


 そう言ってダルカスがクロウを突き出す。突き出されたクロウをまじまじと見る婆は


「おや珍しいもんを拾ったね」


 婆は、そう言うとさらにジロジロとクロウを見る。片目が潰れているせいもあってか婆の窪み残った方の目がギョロギョロと動く。


「シャーマン?」


 ふと記憶に残るあのシャーマンの老婆の姿とだぶらせクロウが婆にそう聞くと


「なんだい。シャーマンに会った事があるのかい?」


「1度」


「ってことは、あんたのその姿は……」


「呪い?」


「ああ。そうだね。だけどその呪いは私達シャーマンにとって」


「命?」


「そう。命をかけたものだ」


「呪いとはなんなのですか?」


 最も知りたい事をためらわずに聞く。


「命をかけて相手にかける呪いはシャーマンが特定の条件をかなえるために行う特別な魔法だよ」


「特定の条件?」


「それは呪いをかけた者にしかわからないね。だけどおまえに何かをさせるつもりなんだろうとは思うよ」


「なぜですか?」


「お前は、元人族なんだろう?だけど今のお前は人族じゃないからさ」


「え?」


 人族じゃないのなら何なのだろう


「お前は、容姿は人族だけど人族じゃないね。お前は真人族、古の種族だよ」


「真人族?」


「ああ。ハイヒューマンとも言うね。私はね……この目でこの世界の理を…本質を見る事ができるんだよ」


「慧眼?」


「ずいぶんと難しい言葉を知っているね。成りは子供でも中身は別と言うことだね。真人族は、滅んだと言われる伝説上の種族でね。今の人族よりもさらに優れた種族だったそうだね」


「滅んだ種族……になぜ」


「これはね。私の勘もあるんだけど、あんたにかかった呪いに関係があると思うよ。あんたに何かをさせるつもりであんたを真人族の子供に転生させた。きっとその何かをさせるためにはその過程が必要だったと」


「僕は、何をしなければいけないのですか?」


「そこまではわからないと言っただろうさ。それにそれは勝手にあんたの身に降りかかるからね。あんたが黙っていても隠れていても逃げていても必ずね」


「僕は……」


「そうさね。あんたは、どうやら必要があってここに現れたんだろうね。私に会う事が目的かそれとも別の何かがここにあるんだろうね」


「婆」


 そばで聞いていたダルカスが


「クロウは」「俺が」「面倒を見る」


「あんたがかい?」


「そうだ」「俺が」「拾った」「きっと」「それにも」「意味がある」


「そうだね。それすらもこの子にかけられた呪いの力かもしれないね。わかったよ村の皆には私の方から言っておくよ。クロウと言ったね。ここは、獣人たちが暮らす村、人族に襲われ故郷を家族を奪われた者が隠れ住む場所だ。私のようにね…あんたが人族じゃないとわかる者ばかりじゃないからせいぜい気をつける事だね」


「婆」「すまない」


「あんたが謝る所じゃないよ。ほらもう行きな」


 クロウはダルカスに連れられて婆の小屋を出る。小屋の外には、さきほどの犬の獣人と数人の獣人たちが待っていた。皆ダルカスのように四肢やどこかに大きな怪我を負っている。


「ダルカス。そいつをこっちによこせ」


「だめだ」「こいつは俺のものだ」


「いいからこっちによこせ」


 犬の獣人の男が無理やりクロウの腕をつかもうとすると


「やめろ」


 ダルカスの残った腕がその男の腕をがっちりとつかむ


「いててて。ダルカス! 何のつもりだ」


「こいつは」「人族では」「ない」


「どうみても人族だろうが」


「違う」「婆様が」「人族ではないと」「言った」


「ならなんだと言うんだ?」


「あんたたち。うるさいよ!」


 小屋から婆が現れる。


「ば、婆様。こいつが人族じゃないと言うのは本当か?」


「ああ。この子は真人族。すでに絶えた古の種族じゃよ」


「そ、そんな……」


 犬の獣人ががっくりとうなだれる。


「皆に話す前にあんたたちには先に言っておくけどね。この子に手を出しちゃいけないよ。この子はあんたたちにとっての希望になるはずだからね」


 希望と言う言葉を不思議に思ったクロウは、婆の顔を見る


「あんたは気にする必要はないよ。こっちの話しだからね」


 犬の獣人は婆に釘を刺される。


「この子は、ダルカスが面倒を見ると言っている。あんたたちも余計な事は考えないでおいておくれ」


 婆の言葉に犬の獣人の男も引き下がる。


「ついて」「こい」


 ダルカスがクロウを連れて歩きだす。


「ダルカスさん。少し聞いても良いですか?」


「さん」「いらない」「ダルカス」「で良い」


「すみません。慣れないもので」


「敬語」「いらない」


「わかった。ダルカス教えてくれ」


「なんだ?」


「なぜ、俺を助けようとする?」


「特に」「理由は」「ない」


「婆様は、この村の長か?」


「違う」「だが」「シャーマンは」「偉い」


「シャーマンとはなんだ?」


「シャーマン」「自然」「理」「示す者」


「呪いとはなんだ?」


「俺は」「知らない」


「なぜ左手を失った?」


「人族と」「戦い」「負けて」「奪われた」


「すまない」


「お前が」「謝る」「必要は」「ない」


「婆様は、俺をおまえたちの希望だと言った。どう言う意味かわかるか?」


「わからない」


 ダルカスが何を目的にクロウの面倒を見ると言ったのかクロウには理解できない。つたない情報の中から呪いの一旦を垣間見ることができたが、謎も疑問も増えるばかりだ。


 だが、こうしてクロウの村での生活が始まった。

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