表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロウの剣  作者: 山と名で四股
3/17

プロローグ2

「右翼前進! 敵を囲い込め」


「左翼出すぎだ!」


 クロフォードは、兵士達へ的確な指示を飛ばす。兵士達は指示されるとおりに敵を包囲していく。


「魔法兵、敵中央へ向けて火炎魔法準備。合わせるぞ3秒後だ」


 指示を受けた魔法兵が詠唱を開始する。一般的な魔法兵だと火炎魔法に必要な詠唱はおよそ3秒ほどだ。


「3.2.1 放て!」


 およそ10名ほどの魔法兵が同時に放った火炎魔法をクロフォード自身の魔法で融合させるとばらばらだった火の玉が小型の太陽とも言える形の火球へと姿をかえる。その火球が相手陣地に着弾すると相手の陣にはいくつもの巨大な火柱が立ちのぼり敵陣は大混乱となった。

 その混乱を予測し包囲しつつあった兵士が、混乱した敵の中へ突入を開始する。炎から逃げ惑う敵兵を兵士たちが各個撃破していいく。


「よし、本体も敵陣へ向けて進軍開始。魔法兵は各自殲滅に回ってくれ。敵を一気に殲滅するぞ」


 自らも抜刀し敵軍へ迫る。包囲された敵兵の中には逃げるのをあきらめ正面からクロフォード達に向かってくる者や攻撃の中心となっている魔法兵を狙って襲ってくる者もいる。


「アクセル!」


 身体強化魔法を使ったクロフォードは、加速するとまるで草でも刈るように襲い来る敵兵を倒し魔法兵に接近する事を許さない。後ろに控える魔法兵は、詠唱を終える度に魔法で敵を確実に殲滅していく。クロフォードが、そばにいると言う安心感は、魔法兵の集中力を高め殲滅速度を速めていく。


「よし、このまま攻勢を維持」


 指揮官の活躍に魔法兵団の士気は否応なく高まり、敵兵を次々倒していく。クロフォードが指揮する魔法兵団は、通常の兵団と違い役割分担や編成が独特の物となっている。本来なら魔法兵の護衛役となる兵士が戦場によっては遊撃にまわったりすることもある臨機応変な兵団だ。


「おのれ人族め」


 魔法兵が放った魔法で炎に半身を焼かれた敵兵がクロフォードを睨みつけてくる。その容姿は人のようで人ではない獣人と言われる種族だ。


「悪いな」


 クロフォードの剣が獣人の首をはねる。


「報告します。背後に回っていた別働隊が拠点の制圧に成功いたしました。こちらの大勝利であります」


 フリーデン王国の東方に位置する森は、獣人達が暮らす森だ。大陸の覇権を目指すフリーデン王国は徐々に獣人たちが暮らす森を奪い領土を拡大しつつある。


「よし。すぐに伝令を出し後詰めの兵に拠点の占拠を任せるように指示してくれ」


「はっ直ちに」


 クロフォードが占拠した拠点は、騎士団をもってもなかなか陥落させることができず、フリーデン王国を悩ましていたが、クロフォードが率いる魔法兵団は、僅かの時間で拠点の制圧に成功した。

 クロフォードの指揮ももちろんだが、何よりもクロフォード自身の強さが、魔法兵団の総合力を高めている。


「やりましたな」


 別働隊を指揮していた副官の男が拠点から現れる。どうやら拠点内部の制圧に成功したようだとクロフォードは安堵する。


「敵はどうした?」


「拠点内にいた者は、殲滅いたしました。それと……」


 副官の男が、指示すると兵士が一人の獣人を連れてくる。よく見れば奇妙な姿をした老婆の獣人に見えた。


「この者は?」


「拠点内にいたのですが、様子が他の者とは違うのですぐに殺さず連れて参りました」


 こちらを見据える老婆に


「言葉は通じますか?」


 クロフォードが、そう聞くと老婆は


「この悪魔め! 呪い殺してくれる」


 悪態をつく老婆に副官が剣を抜くがクロフォードが手で制止する


「呪いか……。魔道を研究する中で時折出てくる言葉だが、獣人は呪いが使えるのか?」


「ひひひひ。儂はシャーマンじゃからのう」


 王国の大図書館でみた書物の中には、幾つかの呪いやシャーマンについて書き記されたものがあったが実際にクロフォードはそのような呪いを見たことはない。


「危険です」


 副官の男が注意するが、魔道士でもあるクロフォードの探求心は、抑えられるものではなかった。


「見せてくれるか?」


「ひひひひ。面白い男じゃな。どうせ殺されるのじゃから我が命をかけた呪いをかけてくれようぞ」


 老婆は、そう言うと懐に隠し持っていた短剣を取り出し自分の体に突き刺した。当然、そこからたくさんの血があふれ出す。


「やめろ!」


 副官の男が、老婆を制止せんと手を伸ばしたときには、老婆の身体から白いモヤのようなものが現れクロフォードの身体全体を包みこんだ。


「これは?」


「ひひひひ。これでお前は定めから逃げられん」


 老婆は、そう言うとガクリと意識を失うかのように息を引き取った。クロフォードは、自分の身体を確かめるが特に何の異常も感じない。


「なんだったんだ?」


「クロフォード様、あのような事はお控えください。もし何かあれば大変なことになります」


「あ、ああ。今後は気を付けるようにする」





----------------------





「それで魔道伯になるだけでなく、王国軍第4兵団長にまで出世したクロフォードくんは、どこまで登りつめるつもりなんだい?」


 国軍兵団長は、所属する騎士団や魔道兵団とは別に国軍の指揮官を意味する。王国では必要に応じて国軍が編成されるが、大規模な兵団ともなれば数万の兵士を率いる大役となる。

 ワインを片手にそうクロフォードに詰め寄るのは、まもなく騎士団長になるとうわさされるリカルドだ。


「君だってもう騎士伯になったと聞いたが?」


「先に魔道伯になり、さらにその先へ行った男に言われたくはないな」


 リカルドがそう言うのも仕方がない事だ。学園を卒業して5年、ようやく20歳となった2人の昇進のスピードは異例のものと言える。騎士は騎士長、騎士伯と昇進していき。魔道士は、魔道長、魔道伯と昇進していく。騎士長や魔道長になるためには、騎士同士、魔道士同士で行われる実技試験に合格する必要があり、同様に騎士伯や魔道伯になるには騎士長や魔道長で行われる実技試験に受からなければならない。エリートの中からさらにエリートを選出する仕組みとなっているため、おかしなことをしなければ実力どおり昇進する事ができる。


「そうよ。あなたたちが異常なのよ」


「なんだよ。お前だって第2皇子との婚約が決まったんだろ?」


「親が勝手に決めただけだわ」


「おめでとうメアリ。もう気軽にメアリとは呼べないかな?」


 メアリが婚約したのは王国第2皇子だが、第1皇子は病床の身であり、次の王はもっぱら第2皇子と噂されている。


「本当なら私が、王国の噂を独占できるのにあなたがいるせいでいつも2番手3番手って感じよ」


「そうだな。街の噂のほとんどは、新たに誕生した英雄の事でもちきりだからな」


「英雄だなんてやめてくれよ」


「謙遜もそこまでくると嫌味よね。初陣からこの前の戦いまで負け知らずで、他の兵団が何度も失敗していた拠点制圧もわずかの期間で達成させたんでしょ?」


「まったくだ。騎士兵団が何度も失敗している任務をあっさりと成功されたら騎士団よりも魔法兵団の方が上だと言われるだろ」


「まあ相性もあるからね。今回はたまたまその相性がよかったんだよ」


「はいはい。そうしておくよ」


 リカルドが呆れるように手を振り、新しいワインを取りに背を向けた。


「今度はどこに向かうの?」


「次かい? さっき聞いたばかりだけど北部戦線だね」


「北部ね……」


「何かあるのかい?」


「こっちの事よ。これまでの兵団と違って国軍は率いる兵士の数も違うのだからこれまでと勝手も違うわよ。せいぜい準備を整えて手柄を立てる事ね」


 一個小隊は100人ほどで構成されるが、国軍となれば最低でも1000人を超える中隊以上の指揮を任される。当然、背負う責任もこれまでと比較にはならない。クロフォードの頭の中はこれからの戦略や兵士の運用の事ですでにいっぱいだったが、魔道兵団の中から選ばれ国軍を率いる以上、魔法兵団の名誉のためにも成果を出さなければならない。




---------------------------



 フリーデン王国は、大陸の中央からやや西寄りにあり、西にはフローレンス皇国、南には小国家連合と言う人族の国や国家群がある。フリーデン王国の北や東には獣人たちの住む広大な森があり、フローレンス皇国の北部には異種族のエルフなどの国家がある。フリーデン王国は、北部と東部へ侵攻する事で領土を拡大し続けており、この数年でもかなり領土を広げることに成功していた。


 今回、クロフォードが指揮する第4王国軍に与えられた任務は、北部にある獣人が統治する街の制圧にある。北部方面に進出した第4王国軍は、破竹の勢いで街の周囲の要衝を制圧し街を丸裸にすると街を見下ろす丘に布陣した。


「あとは、街の駐屯部隊を別動隊と挟撃するだけですね」


「はい。ここまで順調に来ていますので問題はないと思います」


 街を眺めていると街の反対側から狼煙があがったのが見えた。


「別動隊から狼煙があがりましたね。こちらも行きますよ」


 合図を確認したクロフォードは、進軍を開始する。斥候の情報では街に駐屯する兵士はおよそ500人。攻め手が不利と言っても一個中隊1000人で攻めればそれほど難しくなく制圧する自信がある。


 抵抗らしい抵抗もないままクロフォードは街の門まで接近すると


「門を破るぞ! 火炎魔法用意」


 いつもどおり魔法兵に指示を出し、火炎魔法を使って門を破ろうとした時、その破るはずだった街の門が勝手に開いた


「なに?」


 予想外の展開にクロフォードは驚くが、それ以上に驚いたのは、その門の向こうにいる武装した兵士の数だった。


「こ、こちらの2倍以上いるじゃないか。斥候は何をやっていたんだ」


 副官が怒鳴るがそんなことを言っても仕方ない。相手はすでに用意万端で待ち構えているのだから。


「総員撤退。体制を立て直す」


 クロフォードが慌てて指示を飛ばし撤退を開始する。しかし、門に接近しすぎていたため相手との距離が近すぎる。撤退するにも魔法兵の足は獣人に比べると遅いのだ。身体能力に優れる獣人族の兵士から逃げる事は難しい。


「バインド!」


 無詠唱に近い高速詠唱で茨でできた鎖を作り相手の足をからめとる。茨が次々と獣人兵士達の足に絡まり獣人兵士たちは次々とその場に倒れていく。しかし、それを乗り越えるように獣人達が次々と前にでる。


「走れ少しでも後退するんだ」


 クロフォードは殿を務めながら兵士の退避を急ぐ。しかし、相手の兵士の数はこちらよりもはるかに多い。何度も魔法で足止めするがすぐにその後ろから新手が現れ切りかかってくる。


「アクセル!」


 身体強化魔法で素早さを高めたクロフォードが接近する獣人たちを剣で退ける。


「クロフォード様。後ろに味方別動隊です」


「よし。合流して反転するぞ」


 街の後背を狙っているはずの別動隊がなぜそこにいるかはわからないが、今は兵数を整えて獣人に反抗するしかない。


「ク、クロフォード様」


 そう答えた副官がクロフォードの目の前で倒れる。何が起こったかと副官を見ると眉間に矢が突き刺さっている。そして、こちらに弓を向ける別動隊の姿が目に入った。


「なぜ?」


 挟撃するために街の背後にまわっているはずの別動隊がここにいる理由。斥候の報告が大きく間違っている理由。少ない情報をもとにわずかな時間で整理してクロフォードが出した答えは…。


「味方の裏切り」


 次々と味方だった部隊から放たれる矢が、そばにいる仲間の魔法兵の身体に突き刺さる。クロフォードの側にいるのは、これまで一緒に戦ってきた魔道兵団の魔道士達だ。クロフォードが防御魔法を展開しようにも前後から挟撃されている以上効果はほとんど期待できない。クロフォードは1人必死に抵抗するが、自分を守るのが精一杯で瞬く間に仲間の魔道士や兵士が倒れていく。

 矢を射かけるつい先ほどまで仲間だと思っていた兵士を指揮する騎士の顔がクロフォードの目に入る。にやりと笑った騎士は、今回の編成で加わった者だ。確か名前は……。

 こちらの兵士がほとんど倒れたのを見ると裏切った仲間の部隊は兵を反転させて撤退を開始した。そして、クロフォード1人が、大勢の獣人族の兵士に囲まれ戦場に取り残された。


 それでも強化魔法を使い獣人たちに1人立ち向かうクロフォードは、すでに何人の獣人兵士を切ったかわからない自分の剣を見る。剣は半ばで折れ曲がり、すでに剣としての役目を終えていた。獣人兵士を倒し続けた魔法もすでに限界を超えておりこれ以上放つ事もできない。


 強化魔法も切れ満身創痍となり立ち尽くすクロフォードに獣人たちの怒りを込めた剣が次々と突き刺さる。クロフォードは失われていく意識の中で聞いた声は


「呪いを受けし者よその身をもって定めに従わん」


 かつて呪いをかけた老婆の声

 

「呪い?」


 こうしてクロフォードはフリーデン王国から姿を消した。人族を裏切り多くの兵士を犠牲にした者として……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ