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クロウの剣  作者: 山と名で四股
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9話「拠点」

フリーデン王国の北西にあるかつてクロウが住んでいた村からさらに北西に1日歩いた場所にクロウ達は拠点を構えている。

 生い茂る木々や地形の角度により周囲から発見することができない場所に作られた拠点には、十数軒の建物が建てられており、そこではおよそ50名ほどが生活を共にしている。

 昨日、フローレンス皇国から戻ったクロウ達は、手に入れた物資を倉庫に納めると最も大きな建物に集まった。


「無事に拠点に戻る事ができた。皆には、まず身体を休めてもらいたい」


 クロウが話しはじめると皆が頷く。


「それより次の獲物は決まっているのか?」


 狼の獣人ヘイストが、クロウにねだるように聞く


「まだだ。だが、次の相手はフリーデン王国だ」


 フリーデン王国の名前を聞いた数名の者の顔つきが変わる。人族国家は、どの国も異種族の土地や国へ侵攻し被害を与えているが、その中でもフリーデン王国の影響が最も大きい。当然、クロウの仲間たちの中でもフリーデン王国へ恨みを持つ者が多い。


「フローレンス皇国とフリーデン王国の同盟を破棄させるつもりだ」


「俺達がか?」


 なぜ、人族の国家同士が締結した同盟に自分たちが関わるのかロドス達にはわからない。


「そうだ。すでにいくつか布石は打ってあるからな。あと数手で同盟は破棄されるだろう」


「あの2国の同盟が切れれば…」


「ああ。どちらも兵士を国境沿いに集める必要がある。そうすれば、他国へ攻め込む事も難しくなるだろうな」


「人族同士に争わせると言うわけね」


 ようやくミュアやラムセルは理解したようだ。理解できていないのは、最初から話しを聞いていないダルカスとロドス達数人のようだ。


「なんだよ。俺にもわかるように詳しく教えてくれよ」


「そうだな。この前フローレンス皇国に王国兵の死体を置いてきただろう?」


「ああ。置いてきたな」


「あの死体を見てフローレンス皇国側は、補給部隊を襲った犯人が王国かもしれないと疑っている。正確に言えば、違うとは思っているが絶対の自信を持てないでいるってところだな」


「そうか……。そのためにわざわざ王国兵を捕まえて置いてきたのか」


「そのとおりだ。つまり、皇国側は王国側に不信感を抱いている。後は、王国側が皇国側に不信感を抱けば互いに疑うようになり……」


「同盟相手を信じられなくなるってことか」


「だからこれから王国側に皇国を疑わせる。と言っても手は打ってあるんだがな」


「また、わからなくなったぞ」


「皇国においた死体はどこで手に入れた?」


「あれは王国で捕まえた奴だな」


「そうだ。王国で捕まった兵士が皇国で死体で見つかる。すでに火種はあるってことだ」






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 フリーデン王国の王城会議室には、各部署の重鎮が集まっている。会議には、王国宰相であるホレッド・ハーバーを始め、最年少で騎士団長まで上り詰めたリカルド・クリーマンなど各最高責任者が列席していているが、本日の議題のせいか出席者の表情は硬い。


「最初の議案は、フローレンス皇国との関係についてだ。報告があったとおり皇国側から王国兵士の遺骸が送り届けられた。皇国側の説明では、王国兵士が皇国の北部の森で発見されたそうだ。このことについて騎士団長殿は何か報告を聞いているかね」


 議長を務めるホレッド宰相がリカルド騎士団長に尋ねる


「部下の報告によれば、皇国側国境付近で哨戒任務にあたっていた兵士数名が行方不明となっている」


「となれば、送り届けられた兵士の死体は、王国側の兵士で間違いはないようだな」


「皇国側は何か言ってきているのですか?」


 リカルドがホレッド宰相に逆に確認する


「いや皇国側から何かを言ってきているるわけではない。ただ、皆も知っているだろうが、先日北部へ侵攻していた皇国軍が目立った戦果もあげずに撤退している。もしかするとその事と関連があるのかもしれない」


「それよりも皇国側がこちらの兵士を襲ったのではないか」


 宰相の返答にかぶせるように発言したのは、王国聖教のトップであるボルタール司祭だ。


「もし皇国側がそのような暴挙にでるのであれば皇国側に正式に抗議すべきだ」


 息巻いてしゃべるボルタール司祭を他の者たちは冷ややかな目で見ている。ろくに外交も戦略も理解していないこの男の発言は、聞いていて気持ちのよいものではないが、王国内における王国聖教の力だけは無視することができない。

 そもそも王国聖教と皇国神教は、同一宗教なのだが、教祖の弟子同志が争い分派した歴史を持つ。そのため、自ら本流を名のる2つの宗教は長年にわたって対立してきた過去がある。


「司祭。証拠もなくそのような事を言っては逆に皇国に利用されてしまいますよ」


 ホレッド宰相がボルタール司祭に待ったをかけるとしぶしぶ引き下がる。


「さて、この件だが、互いに何かを求めている案件でもない。同盟している以上は、静観すべきだろうね。このことに意見はあるかな?」


 ボルタール司祭は何か言いたそうだが、他に挙手する者もおらず話しを終える。


「では、2つ目の案件だ。これはベルコット国務大臣からあげられたものだ」


 指名された国務大臣ロンド・ベルコットは、王国内の商工業を管理する大臣であり、王国の財政をつかさどる者でもある。


「まず、皆さんに聞いてもらいたいのだが、先日私の元に寄せられた陳情によれば、王国北西部にあるドーラと言う村が何者かに襲撃され兵士の大半が死傷すると言う事件があったそうだ」


 この事件の事を知らない者もいたが、知っている者は顔をしかめた。


「村を守る兵士はおよそ100人。確か騎士長が村の警護のために派遣されていたと聞いたが、リカルド騎士団長ならば詳しく知っているのではないか」


 リカルドが知っている事をすでに知りながらベルコット大臣は、リカルドに話しをふる。


「確かにその件の事は、聞いている。ボイヤー外務官から村の警護と運営を頼みたいと騎士団に依頼があったのは事実だ。そして騎士団から騎士長を派遣している」


「その騎士長が私利私欲のために頼まれてもいない獣人族の村の殲滅を行い、獣人族に報復されたと聞いているが?」


 村で起こった事件は、生き残った兵士が獣人族の村を襲う事を決めたのは騎士長の独断であると証言した事と村自体には被害がなかった事から、獣人族の報復と言う形で処理された。

 問題は、犠牲となった貴族の兵士達だ。


「報告は憶測の部分が多い。獣人族の報復と決めつけるのはいかがなものだろう」


「そうですな。私も決めつけるつもりはありませんよ。ただね…犠牲となった兵士の事を考えるとそうは言えないのですよ」


 兵士は貴族の私物だ。そして、生きている兵士が、獣人族の村を襲撃するように指示したのが騎士長だと証言している以上、村の責任者として騎士長の責任は軽いものではない。


「騎士団が期待を裏切った事は、痛恨の極みだ。ボイヤー外務官には私の方から謝罪させていただこう」


 これは、騎士団が譲歩し、ボイヤー外務官の村で犠牲になった兵士分の保証をリカルドが約束したと言える。


「騎士団長がそうおっしゃってくださるならこれ以上私の方から申し上げる事はありません」


 言質を取ったことでベルコット大臣の務めは果たされた。


「しかし、たとえ辺境の村と言っても賊に襲撃を受け騎士長が殺されるとは前代未聞の事件ですな」


 保証まで取り付けようやく終えた話しをボルタール司祭が蒸し返す。忌々しい想いでリカルド騎士団長がボルタール司祭を睨むが、当の司祭はそれすら気にする様子も見せない。


「まさかこの件も皇国側が、裏で手を引いているのではないでしょうな?」


 なんでも皇国のせいにするボルタール司祭の発言にやれやれと言った心境になる者も多いが、数人はその発言を聞きその可能性がまったくないわけではない事を感じている。

 獣人族の報復なら人族にもっと被害が出てもおかしくない。それくらい人族は獣人族に恨まれている事を会議のメンバーの多くは理解している。


「どちらにしても情報が足りませんね。憶測ばかりで論議しても仕方ありません。斥候を増やし皇国側の監視は強化しましょう。それで今日の会議はここまでとします」


 ホレッド宰相が会議の閉会を伝える。



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